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『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』制作チームによる楽曲解説

先月、EM Recordsから発表されたサイケアウツのベスト盤『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』の制作チームによる楽曲解説を公開。

EM Recordsの江村幸紀、『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』の選曲と監修、ライナーノーツの英訳、貴重な音源と画像資料を提供してくれたIan Willett-Jacob、そして自分の3名が今作の主な制作チームである。約二年に渡って幾度となくディスカッションを重ねて生まれた『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』には、我々の情熱と気合が存分に込めており、新旧サイケアウツ・ファンの方々に納得して貰える物が出来上がったと思っている。

この記事では、『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』をより多角的に楽しんで頂くために我々が選曲したサイケアウツの楽曲について、それぞれの視点で解説をしてみた。

そして、2月12日には新宿SPACEにてリリース・パーティが開催される。最新のサイケアウツGが体感出来る良い機会なので、お時間のある方は是非足を運んで頂きたい。

SOI48 VOL.50 逆襲のサイケアウツ RELEASE PARTY@SPACE

2022年2月12日(日) / OPEN : 18:00-23:30
space.tokyo
http://space-tokyo.jp/schedule/index.html
エントランス :2,800YEN
※ご来場のお客様はお店にドリンクオーダーください。
※再入場可。出入り自由。

■SPECIAL DJ
サイケアウツG
■LIVE
Monaural mini plug
■DJ
Young-G (stillichimiya)
MMM (stillichimiya)
俚謡山脈
NordOst
KOICHI TSUTAKI
KUNIO TERAMOTO aka MOPPY
AOKI LUCAS
RICH & BUSY
Soi48
■SOUND SYSTEM
MMP220

『逆​襲​の​サ​イ​ケ​ア​ウ​ツ​:​ベ​ス​ト​・​カ​ッ​ツ 1995​-​2000』楽曲解説(収録曲順)

Swampy Murder
忍び寄るような艶っぽい雰囲気に飲まれるイントロから、地鳴りのようなベースドラムと小刻みに差し込まれるアーメン・ブレイクが徐々に高揚感を上げていき、気づけば底なし享楽の世界に連れていかれる怪曲。説明出来ない摩訶不思議な魔力がこの曲にはおさめられている。どことなく不気味さを感じさせるファンシーなサンプルとアシッドとノイズの組み合わせがサイケアウツらしい。サイケアウツの曲はポップでキャッチーなほど、攻撃的で暗晦であったりする。
(梅ヶ谷雄太)

無人 O.B. / Cycheouts Live at Lubnology (short edit)
『逆襲のサイケアウツ』セレクションの柱の一本であり、これ抜きで今回のコンピは成立しなかったと断言できるチューン、それが「無人 O.B.」だ。『逆襲の〜』は「Swampy Murder」「God Eater」そしてこの「無人 O.B.」の3曲を収録することを前提にしたプロジェクトで、仔細は省くが、この収録調整に10ヶ月ほどを費やした。収録できなければ中止するつもりだった。
ファンならご存知のように、これらの曲は、自主制作をやってきたサイケアウツが一度だけレーベル在籍した《Red Alert》期の音源で、そこで大橋はA&R/プロデューサーも兼任し「ヴァーチャコア」という造語ジャンルの名の下にムーヴメントを仕掛け、日本制作のジャングル/ドラムン/ブレイクコアを送りだす役目も果たした。実働は2年程度で当人は謙遜するが大橋が日本のジャングル/ドラムン/ブレイクコア黎明期の中心人物だったことに疑いの余地はない。
この時期の録音で特に重要なのが「無人 O.B.」で、もともと『解放戦線』(1997年)というRed Alertのレーベル・コンピに収録されたものだ。この曲がどうしても『逆襲の〜』に必要だった理由は「無人 O.B.」がサイケアウツのグループとしての性格と実態を最も的確にレペゼンした曲で、かつ、最大で8人いたメンバーの音楽担当(註:ステージアクト専門のメンバーもいた)が揃った唯一の録音、さらにその内容が最強キラーだからである。

何度でも書くが、サイケアウツはグループ——大橋曰く「酒飲み仲間の集い」——で、後のドラムンベースで顕著になる一人のプロデューサーが黙々と演奏するイメージとはかけ離れている。UKハードコア>ジャングル黎明期の箱で煽り役のMCを雇ってプレイしていたDJ達に近い。何故かといえば、梅ヶ谷の解説に触れてあるように、オリジナル・サイケアウツはOFF MASK 00を率いたカリスマ・フロントマン、MCロックンロールこと秋井仁に大橋がアプローチし意気投合して結成したグループだったことだ(註:当初は秋井の提案でミートビート・マニフェストの曲名にちなんだワンオフ・プロジェクトだった)。最初からフロント・ヴォーカリストがいる体制だった点で通常のジャングル/ドラムンのプロデューサーとは手持ちの札が違っていたのだ。強いていえばそのノリはラガ・ジャングルかレイブ・アクト的だった。残された音源がほぼ全てインスト曲なので後発フォロワーには想像が難しいだろうが、フロントマン秋井を中心としたMCがライブにおけるサイケアウツの華(?)であり、秋井ファンの友人女子グループに誘われて行った筆者のサイケアウツ初体験ライブで秋井は「●x●x〜!」「●x●!!」とほとんど聞き取れない言葉で叫び盛り上げていた(筆者が酔っていたせいも若干有り)。ビースティーボーイズっぽいとも思った。

この秋井のスキルを存分にみせるのが「無人 O.B.」であり、大阪下層部の生態を描いた歌詞を高速BPMのビートにオンタイムでねじ込み、デス声を咆哮し続けるDie-Suckと奇声を発するメンバーの叫び声のお囃子がそれを攪拌。混沌感と危ない猥雑さがプンプンするゲトーチューンになっている。
こう書いていくと「無人 O.B.」がジャングルやブレイクコアだと思えなくなってくる。しかし、その感覚は次にあげる事由から必然のことなのである。
今回『逆襲の〜』のリリースに関連した某誌の取材で大橋の口から語られたのは、もちろんアーメンのかっこよさはあるが、それよりもジャングルというサンプリング基調の音楽の「器」がやりたいことをやるのに適っていたということ。だから実際、音楽呼称や形態は考慮の外で、とどのつまりかっこよければそれでいいのではないかということ。他方、Youtubeにあがっているサイケアウツ期の秋井のインタビューでは、かつてロックが引き受けてきた役割を奪った先端カタルシス・ツールとしてのジャングルが熱く語られている。同時期のTV出演で大橋は「サイケアウツはサイバーハードコアパンク」とも言い放った。結成者の二人がジャングルを表現の「器=ツール」と捉えてきたわけで、彼らは先端形式としてのUKハードコア・ジャングルにどう肉薄するかということには舵を切らなかった。ただし大橋によると、そうした海外の作品に感化されてやってみても狙ったものになった試しがない(!)というオチもあるのだが!

長くなったついでにもう少し漫談につきあって頂く。
「無人 O.B.」の「O.B.」の意味はいまだ不明だが、その歌詞にある舞台世界に関係する体験を書いてみる。当時、筆者は心斎橋・アメ村界隈のレコード店兼洋服店に勤務しており、その区域に《村田酒店》という酒屋が経営する偉大な立ち飲み屋があった(今もある)。立ち飲みがバルなどと言われてオサレになる百年前のことだ。90年代中期は勤務を終えたレコ屋や古着屋関係のろくでもない連中がこの村田に集まり、とりあえず立ち飲みで缶ビールなぞ呑んで、今日どこどこで誰々がDJするらしいなど情報交換し、いい加減に酔うと、ほなそこいってみよや!と繰り出していた。みな独身で気ままなものだがカネは無く、ポケットの小銭で呑める村田は大衆の味方で、いま書いたように村田は当時の情報ハブ的な機能をもった戦略上の重要拠点であった。当時は携帯電話すらまだ普及していない。村田はMCロックンロール秋井パイセンが勤務していたレコード店から徒歩45秒の位置にあり、その店のオーナー=ミナミのレコード業界のゴッドマザーも常連であった。我々しもじもの者は社長やねんからもっとええとこで呑んでくれと心で思ったものであった。筆者の感覚では、こうした村田マッシブ下層階級のグルーヴが「無人 O.B.」に表現されており、この曲は大阪のろくでもない連中がろくでもない場所で遊んでいた時を封じ込めたチューンとしてのエターナル・クラシックでもある。
「Cycheouts Live at Lubnology (short edit)」はこの「無人 O.B.」の貴重なライブ録音で、ダンスホールのシステムテープのような感覚でライブ現場のリアル・サイケアウツを追体験できる。ここに見えず聞こえない部分を補足すると、当時は演者も観客も呑んで騒いでベロベロだったことが挙げられる。
(江村幸紀)

東風 (Tong Poo)
初期~中期を中心にした『逆襲のサイケアウツ』では最新のサイケアウツGへの展開が少しだけ聴こえてくるサイケ後期の代表曲。しかも、激レアカセットにしか収録されてない「赤いスイセイ」のプロトタイプを思い出させるレーザー・爆弾のSEのサンプリングなどもうまく使われていて、ルーツからの路線も明らかに。曲の後半でしびれる低音が広がって、完全に別曲になるようなのが衝撃的で、改めて大橋さんの作曲のオリジナリティを感じる。
(Ian Willett-Jacob)

0083 Mantras (God-outs Mix)
ジャングルに特化したアルバム『Quantum Jungle』のラストに収録されていた荘厳さのある曲。太く奥行のあるベースラインとビート、サンプルの配置やミックスにサイケアウツのダブ哲学が表れている。「Dub Killer 91 (Minnie House Mix)」も同じくサイケアウツのダブ哲学の領域にあり、これらの曲はリバーブとディレイを記号的に使ってダブを演出している表面的なダブよりも、ダブの本質を受け継いでいるのではないだろうか。大橋アキラ氏のエンジニアとしての実力と個性が垣間見える。EM Recordsから発表されているSheriff Lindo and the Hammerとの類似点もあり。
(梅ヶ谷雄太)

God Eater
ジャングルの可能性は常に未知数で進化し続けているが、この曲はジャングルのスタイルとその概念を根本から壊してしまうほどの力がある。サイケアウツ期に残された曲の中で最も難解で得たいの知れない曲だ。サイケアウツのアブストラクト・ジャングルには独特の魅力があり、その中毒性は危険なほどだ。
(梅ヶ谷雄太)

Hit Man (Jungle Assassin Mix)
ジャマイカのダンスホール歌手、Cutty RanksはUKジャングルのサンプリング・フェイバリットだったようで、その例のひとつにMarvelous Caine「Hitman」(1994)がある。これは1993年にヒットしたランクスの「Limb by Limb」の「殺し屋(Hitman)がくる」という声パートを使ったジャングル・チューンで、この「Hitman」が話題になったため今度は本家「Limb by Limb」がラガ・ジャングルに仕立てられ1995年にリリース。「Hitman」との相乗効果でダブル・ローカル・ヒットとなったらしい。
我らがサイケアウツの「Hit Man (Jungle Assassin Mix)」は「Hitman」のそのまたリミックスで、Marvelous Caineはランクスの声パートをテンポを遅くして使っているが、サイケアウツは「Limb by Limb」のオリジナルのテンポを採用。プリミティヴな音作りのオリジナルに対してテクニシャン、Mr.ディラックにかかればこのようにハイクオリティーになる。ジャングルを「翻訳」していたサイケアウツもこの曲に限っては真っ直ぐにUKジャングル風で渋い。
(江村幸紀)

ソロモンの2-Step (ガトー Mix)
自分はサイケアウツGの方から入り、サイケアウツで初めて気に入った曲がおそらくこれ。後半で流れてくるBGMサンプリングの刻みで完璧にされるアニメと2・ステップのフュージョン。ガンダム0083の英語吹替のサンプリングが中心で、そのためサイケアウツの声ネタのサンプリングセンスがほかのよりはっきり伝わってきた。高校のころによく聴いて盛り上がりました。しかも、その吹き替え版がアメリカでビデオとして発売された同年の1999年にこういうのが制作されたのはいまだに驚くところ。
(Ian Willett-Jacob)



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