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『History of Japanese Hardcore Techno』の背景

日本のハードコア・テクノにフォーカスした書籍『History of Japanese Hardcore Techno』に多くの予約をいただいている。海外からも購入希望のお問い合わせを何件も受けており、想像していたよりも多くの反応が貰えていて非常に光栄である。

限定セットは10月25日で締め切りとなるので、興味のある方は是非ご注文ください。通常版/限定版ともにMxCx online storeでのみ注文を受け付けています。

ジャパニーズ・ハードコア・テクノの実体験
以前、こちらの記事にて自分が日本のハードコア・テクノに興味を持ったキッカケについて書いているが、『History of Japanese Hardcore Techno』の発売に向けて改めて振り返ってみようと思う。

自分が最初に購入した日本のハードコア・テクノの作品は2001年にリリースされたDJ SHARPNEL氏の『S.E.X. -Sound Of EXtreme』であり、ここから全てが始まっている。DJ SHARPNEL氏のWebサイトにアクセスして彼等が出演したイベントのレポートや作品紹介などを読んで日本のハードコア・テクノについて多くを学んでいった。DJ SHARPNEL氏はm1dyやSmiley Slayers(Nawoto Suzuki)といったアーティストのCDをディストリビューションされており、そこから日本のスピードコアなどの音源を知るようにもなる。
名前を忘れてしまったのだが、MP3が無料公開されていた音楽配信サイト(ミュージャー?)でガバ~ハードコア~スピードコアを検索している中で出会ったテクネチウム氏の音源も大好きだった。

そして、『S.E.X. -Sound Of EXtreme』にリミックスで参加されていたC-TYPE氏の作品をチェックするようになり、Mix CDシリーズ『Inoue Madness』と出会ったことによって本格的にハードコア・テクノを意識するようになる。
『Inoue Madness』シリーズには毎回影響を受けたが、特にラガジャングル~ラガコアからハードコアへと繋げていくC-TYPE氏の『Inoue Madness 8』と、フランスのダークなインダストリアル・ハードコア~フレンチコアをタイトにまとめたSyntax(Shigetomo Yamamoto)、UKハードコアとスピードコアを巧みにミックスしたNDEのMix CDには非常に感銘を受けたし、この三枚のMix CDは自分の音楽観に大きく関わっている。

自分が始めていったハードコア・テクノのイベントは渋谷PLUGで開催されていたNIGHTMARE LANDでレギュラーDJにはLunch、NDE、Librah(Hammer Bros)、そしてゲストにC-TYPE氏が出演されていた。いつも自分が遊びにいっていたイベントとはまったく違う客層と雰囲気で緊張していたのを覚えている。その後、渋谷NOSTYLEでオーガナイズされていた鶴岡龍氏のハードコア・パーティーや、UNURAMENURAがオーガナイズしていたTEMPERなどでアンダーグラウンドなハードコア・テクノの魅力を体感していく。

海外のハードコア・テクノはブレイクコアを経由して聴くようになっていき、大阪にあったレコード・ショップElectro-Violenceの店長が自分の好みにあったハードコアの作品を選んで教えてくれたのが大きな手助けとなっていた。店長にはPsychik Genocide/Neurotoxic、RoffKore RecordsといったフレンチコアやBloody Fist Recordsのクラシックを教えていただき、これらのレコードを10代後半に入手できたのはラッキーだった。

そういえば、同時期に追いかけていたアブストラクト・ヒップホップ~アンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンにて異彩を放っていたDJ Baku氏はミックス・テープ『Rebel Soul Living Music』でMescalinum United「We Have Arrived (Aphex Twin QQT Mix)」の回転数を変えてプレイしていたり、INDOPEPSYCHICSが「Tokyo Tekh Dub」でガバキックを使われていたのが印象的だったのを思い出した。

2000年前半は秋葉原に行ったときはソフマップと虎の穴、吉祥寺ではShop33とWarsaw、渋谷はGUHROOVYで国内外のハードコア・テクノ関連の作品を買い漁る日々。この頃に購入した作品が自分のハードコア感を作り上げていると思う。

2000年後半まで自分はDJとして活動させて貰っており、一時期はX-TREAM HARDやThe Day of Hardcoreに準レギュラー的な形で出演させていただいていた。DJ CHUCKY氏との共同オーガナイズでハードコア・テクノとブレイクコアとジャングルをクロスオーバーさせたBlack Marketというイベントを渋谷乙で開催し、MADDEST CHICK'NDOM RECORDSのコンピレーション『MADDEST SKILLS vol.1』とMPTの『Bastard Pop Terrorists』シリーズにお手伝いとして参加させていただいたりもした。DJ CHYCKY氏のお陰で日本のハードコア・シーンと繋がることができ、貴重な経験を沢山させて貰った。『History of Japanese Hardcore Techno』は、こういった自分の体験や視点を交えて作っている。

参考資料
日本のハードコア・テクノは世界に多大な影響を与えてきたのは明確であるし、今もその影響力は衰えずに拡大し続けている。30年以上の歴史がある日本のハードコア・テクノであるが、その歴史について語られることは少なく感じていた。

90年代であれば雑誌『Quick Japan』にて日本のハードコア・テクノが特集され、総括的な記事も作られているが2000年代以降となると記録としてまとめられることは少なくなっていった。だが、重要な資料は幾つかある。
2003年にDJ SHARPNEL氏は楽曲解説本『5YEARS OF SHARPNELSOUND』を発表され、2015年には全50タイトル約500曲の解説を行った『SHAPRNELSOUND CHRONICLE』という15万字越えの濃密な歴史書を出版されている。2008年に出版されたDJ TECHNORCH氏の『読む音楽』も重要度が高く、日本のハードコア・テクノについて知るうえで必要な物である。2018年にはアメリカのイアン・ウェレット゠ジェイコブ氏がナードコアにフォーカスした書籍『イアンのナードコア大百科』を出版され、自身のブログにて日本のナードコア系アーティスト達の記事を日本語と英語で公開されていたのも重要だ。

近年では海外で特集記事が公開されることもあり、RBMAは『A Kick in the Kawaii: Inside the World of J-Core』、Bandcampは『Beyond J-Core: An Introduction to the Real Sound of Japanese Hardcore』という記事を出している。
こういった資料も参考にさせていただきながら『History of Japanese Hardcore Techno』を作らせて貰った。

『History of Japanese Hardcore Techno』は数多くの関係者の方々から提供していただいた資料と証言を基に作っており、海外からの視点を大きく取り入れているのも重要なポイントである。国内の視点だけで語らずに、海外から見た日本のハードコア・テクノの魅力やある種の歪さを記録することで、その魅力と歴史を深く掘り下げることができたと思う。
今まで語られてこなかった日本のハードコア・テクノの歴史を是非皆さんに知っていただきたい。

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