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国立国際美術館『ピカソとその時代』

 5/21、滑り込みも滑り込み、最終日にピカソ展行ってきました。

ピカソとその時代

 ピカソ、そこそこ見る機会はあったんですが、私の印象はいつまでも「わからない」どまりで好きでもないし嫌いでもない……わからない……わからないくらいがちょうどいい……というような曖昧なかんじでした。

 それでもセザンヌはわりと好きで、構築的筆致も静物画の画面構成も好きなほうです。なのでセザンヌから分析的キュビスム、分析的キュビスムから総合的キュビスム、総合的キュビスムから……と発展していく過程が見えればピカソのことも好きになれるんじゃないかな? とは以前から思っていました。

 そういう機会が今までなく、どちらかというと晩年のピカソを見る機会のほうが多かったのが、私が「ピカソ……永遠にわからん……」とあきらめていた原因だったのですが。

 今回、まさしく「そういう機会」がやってきました。


 展覧会の始まりはやっぱりセザンヌから。

 セザンヌらしいセザンヌではないというか、おなじみの風景画や静物画ではない作品が並んでいたので興味深かったです。とくにジャコメッティの模写とセザンヌの原画を並べていたのはおもしろかった。去年ルートヴィヒ美術館展で感じたことですが、近代絵画を見ているとやはりセザンヌの影響が垣間見えることが多くてやっぱり近代絵画の父なんだな~と思います。

 それからテーマがピカソに移って、青の時代とバラ色の時代。《ジャウメ・サバルテスの肖像》は青の時代の作品ですが友人を描いてるし、後期なのでバラ色の時代の到来を予期させるものです。面白かったのが、私にはとてもあたたかみのある作品に思えたのですが通りがかった二人組は「さみしげやね」とお話していたこと。同じ絵を見ていても感じ方が違うもんだよなあと改めて感じました。

《ジャウメ・サバルテスの肖像》 パブロ・ピカソ 1904年

 アフリカ美術から影響を受けた人物画や、いかにもセザンヌから影響を受けたらしい静物画があって、ついにキュビスムの萌芽を感じさせる風景画。

《丘の上の集落(オルタ・デ・エブロ)》 パブロ・ピカソ 1909年

 これ! これが見たかったんですよね。正確には「こういうの」ですが。どう見てもセザンヌの影響もりもりで、セザンヌとキュビスムのちょうど中間に位置するみたいな風景画。これがあったからキュビスムにつながるのだと思うと説得力があります。

 そのあと分析的キュビスムの作品があり、総合的キュビスムの作品が並びます。おもしろい! セザンヌから順を追って見てきたから、キュビスムが生まれるべくして生まれたのがわかるというか、純粋におもしろいと思えました。

 木屑や砂を使った作品もあってびっくりしました。本当にピカソってなんでもやってみるんですね。目が楽しい。

 ブラックの作品も何点かありました。個人的に私が想像するキュビスムはブラックのほうが近いんですよね。なので以前はピカソかと思ったらブラックだった……というようなこともあったのですが、ピカソとブラックの同年代の作品が並んでいるのを見ると全然個性が違うな~と思いました。もう間違えないと思う。

 おもしろかったのはギターを描いた作品が三作並んでいたこと。それぞれ1916年、1919年、1924年のもので、作風がぜんぜん違う。これがピカソだよ……。1916年のキュビスムはまだ「わかる」んですが、19年と24年のはもうわからん。でも並べて見るとキュビスムが解体されていく過程が見えるような気もします。

《ギターと新聞》 パブロ・ピカソ 1916年
《グラス、花束、ギター、瓶のある静物》 パブロ・ピカソ 1919年
《青いギターのある静物》 パブロ・ピカソ 1924年


 古典主義に回帰した作品、女性を描いた作品……と続いてピカソの章は終わりです。《座って足を拭く裸婦》はちょっと古典主義に傾倒した時代のルノワールみたいじゃないですか?

《座って足を拭く裸婦》 パブロ・ピカソ 1921年

 ただ回帰すると言っても彼独特の形態はそのままで、流れに沿って見てみるとあくまでも「ピカソらしい」作品だなと思いました。《踊るシレノス》とか何がどうなったらそうなるんだよみたいな……おもしろかったです。

《踊るシレノス》 パブロ・ピカソ 1933年

 女性を描いた作品もたくさんあったんですが、まだ「わかる」時代の作品というか、キュビスムの色を濃く残したいかにもピカソらしい感じの作品が並んでいたので楽しかったです。晩年の作品はなくて、私たちの想像するピカソの範疇で展示が進んでくれたのでピカソ初心者としてはありがたかった。おかげでかなりキュビスムに対する「わからない」感が薄れました。


 お次の章がパウル・クレー。わからない度で言うとこっちのほうが深刻でした。私クレーってゆめゆめしいような、ぼんやりした色彩でやさしいタッチのイメージだったんですが

《中国の磁器》 パウル・クレー 1923年

 これがこわすぎて……。作風も私が思っていたより多岐に渡っていて結局クレーって何!? とわからなくなって部屋をあとにしました。でも私がイメージしていたようなかわいい作品もたくさんありました。

 そしてアンリ・マティスの作品。私、マティスに対するイメージが「見てると元気になる」だったのですが、まさにそんな感じのことがキャプションに書かれてて(「肉体を癒す」だったかな……?)わかる~~とうなずいてしまいました。なんかよくわかんないけど元気になるよね……。画面の構図から得られる安定感はまさしくセザンヌの影響じゃないかな? なんて思います。わかりませんが……。

 あとマティスの切り絵があったのが印象的でした。見たことなかったんです。新鮮でした。油彩画と全然形態は違うのに「マティスだ~」と納得できる不思議なかんじ。

 ジャコメッティの作品もありました。以前のコレクション展で見たことがある作品だったので懐かしくなりました。ジャコメッティってなんかかわいいですよね。

 小さなお子さんを連れた親子が多かったのが意外でした。普段あんまり見ないので……子どもの感性を養うためにピカソを? とか考えるとちょっと面白かったです。ピカソって教育的にはどうなんでしょうね。たしかに子どもの時分に見せておくと自由な発想力を養えるかもしれない。

 個人的にはピカソに対するちょっとした苦手意識がかなり緩和された展覧会でした。楽しかった!


特集展示:メル・ボックナー

 で、コレクション展のほうも行ってきたので、いいかげん長いんですけどちょろっと書いときます。

 コンセプチュアル・アートの作家ということで、とってもおもしろかった! 精神と物質の対立を数字と石を通して表現した作品と言っていいんでしょうか? 個人的に好きだったのがピタゴラスの定理を表現した部分。

《セオリー・オブ・スカルプチャー》 メル・ボックナー 1972

 もともと幾何学はエジプト文明において測地の必要性にともない発展した学問です。幾何学の始まりは物質的なところにあります。しかしそののち古代ギリシアで高尚な学問として発展しました。その意味でこの作品は、物質と精神の対立を端的に表現しているような気がします(一方で、本当に二者は明確に決裂しているんだろうか……というような作者の意図を離れた脱構築的考えも浮かんできたりしますが)。

 あと河原温好きなので《Today》シリーズ見られて嬉しかったです。

 長くなっちゃった! 今回はこのへんで。

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