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「多様体の基礎」書評

いきなりだけど数学書のレビューを書く。

コロナですることも少なくなったので今年の春からこの本を勉強していた。

この「多様体の基礎」(松本幸夫)は数学科の学部3年ぐらいで勉強する幾何学の基礎の教科書だ。

この本を一通り読み終わり、次に読む別の数学書を選ぶ際に多くの有益なレビューを参考にさせてもらったので、このすでに読み終えた本について自分も何か書いておこうと思う。

自分が学部生であった数十年前、この本で多様体のさわりの部分を勉強したが、授業時間の都合もあり後半は大きく割愛されてしまった。内容は非常に面白いものだったので、最後まで読んでみようと思った次第。

前提知識は大学の微積、線形代数、あとは位相に慣れているとよいと思う。ただ、位相についての多くの前提事項は第一章やその後の必要な個所で簡単に説明してある。(でもまあ位相の勉強を一度腰を据えてやる必要はある)

最近のAmazon書評などでは「数学科のラノベ」と呼ばれ、その丁寧な記述で高評価を受けているが、途中から少しずつ難しくなる。

二章の多様体の定義まではその通りだ。多くのページがこの新しい概念の定義に費やされる。球面などの具体例がいくつかあり、ここら辺は学部の時にやったのを懐かしく思いながら通過。

三章の接ベクトル空間の定義もまあすらすら読めるが、「接ベクトル」が「方向微分という操作」に相当するものであることで抽象度が上がっている。ここから先を読む際、何度もこの概念を反芻することになる。次に解説される「写像の微分」は接ベクトル空間から接ベクトル空間への写像と定義されるので、さらに抽象度が上がる。この概念もこの本の最後まで何度も戻って反芻することになる。次に説明される「逆関数定理」はこの本で最初に現れる難所であり、証明も何段階にもわたる。ただ、各ステップは丁寧に書かれてあるので、一行ずつ読めば乗り切れる。最後に射影空間の具体例で平和的に終わり、2次元射影平面の図解で一休みできる。

四章の埋め込み定理の証明は再び長いものとなっている。ただ、これも前章と同様に話を追っていけば大丈夫。定理自体は「コンパクトな多様体は十分高次元の実空間に埋め込める」という強力なものなので、その山頂が見えていれば道中も楽しいものであった。次に「1の分割」というここまでの論法の一般化の説明がある。この手法はこの後も何度か使われ、非常に便利な手法であることが判明する。申し訳ないぐらいいろんな命題を簡単に証明できるようになる。最後に正則点・臨界点の解説。あとで必要なのはおそらく「正則点の逆像が部分多様体」という件ぐらい?

五章ではベクトル場が導入される。この概念は次の章で非常に重要になるので、次の章を読みながらも反芻する必要があった。多様体の各点に接ベクトルが対応しているという状況を考えるが、接ベクトルは「方向微分の操作」であったので、いわゆる初等的なベクトル解析で出てくるベクトル場とはだいぶイメージの異なるところから入っていくことになる。また、スカラー場を別のスカラー場に変換するのにもこのベクトル場が使えたりと、予想外の応用に戸惑った。次の積分曲線の説明では微分方程式の知識の必要な個所で「ここはポントリャーギンの本を読め」とあり、「たしか数十年前に読んだな、、」と思いながらその本には立ち寄らずに進めさせてもらった。

最後の六章は微分形式の説明。ここは難しかった。二回読んだ。でもこれを知りたかったので、読んだ価値が十二分にあった。「微分形式は、単刀直入に定義を述べるのがいいと思われる。そのうちにある種の直観が生まれてくると思われる。」との事だが、自分は違った。「定義は分かった、計算もできる、でも一体これは何をしたことになる?」というのが一回目の感想。二回目は接ベクトル、ベクトル場、スカラー場をより幾何学的にイメージしながら再読。やっと「直観」をつかむことができ、最後のストークスの定理の説明もよりイメージしやすくなった。

この本はラノベ呼ばわりされており、自分もそのつもりでたらたらノートも取らずに読みだしたが、三章ぐらいからノートに多少まとめながら理解せねばならなくなり、最後の微分形式は何度も試行錯誤することになった。

また、Youtubeの以下の動画シリーズも大変参考にさせてもらった。接ベクトルの理解が正しいかの確認に役立ちました。(途中省略はあったものの)

この動画の先生(石川将人先生という方だそう)、今年もこの講義の新バージョンの動画を撮りなおして公開してくださっているようで、そちらはもっと見やすいかもとのことですが、自分は見ていません。

この本は前書きにもあるが「(説明を丁寧にしたため)盛りだくさんの内容を含んではいない」とある通りなので、続けて次の本を読んでいる。

松本幸夫先生のあとがきでは、「これだけの内容が消化できれば、すでに研究者レベルの知識に近いと思う。」とのこと。(それでいて「入門」とは!)

この本の「リー群」の部分を読みだしているが、これぞよくある数学書という感じで確かに難しい。あと、∀とか∃とか∈をあまり使わないので記述が冗長でつらい感じ。でもこのリー群の章を読み終えた暁には、その箇所だけの書評を書こうと思います。


読んで頂きありがとうございました。これからも楽しい記事を書いていきたいと思います。