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忘れられない2組の"少年"

こんにちは、フローリストです。最近ずっと文学の話ばかりで、フローリストの名前を知っている人にとっては違和感しかない発言を繰り返してきたのでここらで本垢で主に話している音楽の話をしていきたいと思います。私が人生で出会った数多の音楽の中でも、今回はバンドをやる大きなきっかけとなった、2組の少年の話をしていきましょう。

というのも、以前からこの記事の下書きをしていたのですがなんだかんだ先延ばしにしていたところ、Amazonでちょうどアルバムを見つけてしまい。秒でポチっていました。(全くお前は〜〜!)

ゆえにこれが好機!と思い記事を書いています。


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私が少年たちに出会ったのは10歳の頃の話。右も左も分からないただただ子供で、だけど誰よりも大人として生きていたかったあの頃の話だ。そんな頃に私はある2組の"少年"に出会った。彼らの名前は"突然少年"と"最悪な少年“。私が彼らに出会った時、彼らは高校生で、駆け出しのアマチュアロックバンドだった。そして彼らはライバル同士───最優秀賞の枠を争う、ロックフェスティバルのファイナリストたちであった。

そのロックフェスティバルはSCHOOL OF LOCK!、TOKYO FM、Sony Music、auがタッグを組んで行われる現「未確認フェスティバル」の前身である「閃光ライオット」というロックフェスティバルだ。10代限定のアマチュアのアーティストが限定で、最優秀賞を勝ち取れば、賞金とCDを単独リリースできる権利が送られる。(だった気がする…記憶違いだったらごめんね) Official髭男dismや、マカロニえんぴつ、緑黄色社会、崎山蒼志など現在のロックシーンで活躍するアーティストたちが出場経験があることでも知られるロックフェスティバルで、音楽好きの間で知らない人はいない若手アマチュアバンドの登竜門のような役割を果たしていた。

わたしはそんなロックフェスティバルで、カルチャーショックを受けた。

以前は日中、田んぼを駆け回って鬼ごっこをして遊び、夜には読書と天体観測をしているような保育園児だったので正直音楽とは無縁だった。ただ小田和正とかユーミンとか(余談だが私は最近までムーミンとユーミンの違いを知らなかった。ユーミンって人間なんですね……)はよく親の影響で知っていたけど、流行には疎かった。

そんな私だけど、何かの本で寝る前に音楽を聴いている女の子が載っていた。確か、インテリア系の本だったはず。当時私は風水や占いにハマっていて、部屋を掃除したり小物を飾ったりするのが好きだった。(女の子なら誰しもが一度は通る道、だと思う。勿論そうじゃない人もいるのは知っているけど)それを見て、寝る時に音楽を聴くなんておしゃれだなあと思った。昔から本を読むとつい影響されてその本に載っていることで出来ることはなんでもしたくなってしまう。だから新見南吉のごんぎつねを読んでふかふかの手袋を買ったし、教科書に載っていたサラダの物語を見てサラダを作っていたし、片付けの本を読んで断捨離したこともある。(ちなみにこんまりさんの片付け本は今でも私のバイブル本で、私の本棚のど真ん中に並べられている) 当時の自分に言いたいのは、だったら藤十郎の恋と人間椅子と桜の森の満開の下の作者の名前覚えとけよこのバカーーー!ということである。勿論ぽんこつな頭にそれを期待する方が無駄なのは知っているが。

そこから先はSCHOOL OF LOCK!の記事にも書いた通り。ウォークマンを買ってもらい、寝る前に音楽を聴くのを楽しんでいたらたまたまラジオを見つけて聴き始め。そして、ある夏のこと、毎日楽しく聴いていたラジオから流れてきた一つの音楽が私の心を掴んだ。

そうして出会ったのが、冒頭の2人の"少年"である。

彼らの印象は真逆だった。当然だろう、バンドが別なのだから。ただ、心に衝撃を与えるという点では二組ともかなり強いインパクトを与えた。

2組の"少年"たちの名前は「突然少年」、「最悪な少年」という。


「突然少年」は、クラスの目立たない男の子たちが全力で青春を楽しんでいるバンドだ。私はラジオから音を聴いた時、服を脱ぎ、裸になった彼らが楽器を手にしてステージに立ち、スポットライトが神を迎えた祝福のご来光のように彼らを照らす、その光景がありありと浮かんでいた。どこまでも青臭くて等身大な彼らの姿は放課後、屋上でジャカジャカ楽器をかき鳴らした男子校生が文化祭だけ一瞬光り輝く。それでいて、音が終われば彼らは普通の男子高校生に戻る。それが切ないと感じてしまうけど、私たちはいつもその「刹那」に惹かれてしまうのだ。「青春」と呼べる10代をほとんど過ぎた大学生になった今思うのは、誰もが経験する青春の光はとてつもなく眩しいということ。無力な一日も、恋にときめく一日も、推しに騒ぐ一日も、歩き疲れた通学路も。一瞬一瞬の「今」があるから私たちは精一杯声を上げて踊れる。

こんな楽しいライブの後に           ひらひら踊って  このまま         「時間が過ぎなきゃいいのに」         突然少年/さようならIN MY DANCE

突然少年は、そんな私たちが忙しさの中で忘れている「閃光」に気づかせてくれる。彼らの音楽が鳴り響けば、「時間が過ぎなきゃいいのに」と私たちに思わせてくれる。そうして彼らは、いつだって屋上から、等身大の音楽をかき鳴らしてくれるのだ。



一方の最悪な少年は、切ない。こちらも「一瞬」を切り取るのだが、言葉でいう「一瞬」よりも「刹那」の方が近いのではないだろうか。突然少年が青春の「閃光」を切り取るバンドなら最悪な少年は花火が美しく散る「刹那」。彼らの歌詞は高校生が作ったと思えないほど絶妙な「語彙」を奏でる。そして彼らの音楽はその絶妙な語彙と飾らない音作りが美しく切ない。聞く者の耳から流れてくる音だけで、切ない情景を彷彿とさせるのが非常に技巧的だ。特にこの歌詞。この言葉に私は痺れまくってしまう。

​それはしょうがないことで           それはどうにもならないことで         感情なんてこんなもの             帰り道 コンビニのゴミ箱にでも捨てて帰ろうか 最悪な少年/愛しさが止まらない

恋愛面のやらせない気持ちを捨てる先が、コンビニのゴミ箱。あまりにも身近すぎて、一見粗雑な印象を与える。だけどコンビニのゴミ箱という粗雑なものに捨てて帰るぐらい雑な扱いをこの"感情"に対してしないといけないと考えてしまう。それは転じてこの"感情"をそんなふうに粗雑に扱えない、という葛藤を表す「コンビニのゴミ箱」なのだ。これに痺れずして何に痺れるというのだろうか。いつかこのバンドがふたつ並ぶところをもう一度見られたら。そう願ってやまない。




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だが、現実は残酷だ。この2組のバンドは、今はもう並び立つことはない。

片方の「最悪な少年」が解散してしまったからだ。

でも、私の心の中で今もこの2組のバンドは生きている。再生プレーヤーのボタンを押すたび、私は目を閉じる。昔の音楽に傾倒し、心を躍らせたあの日々。バンドのステージに立つ自分を想像してわくわくしている日々。そんな少し青臭い日々を思い出させてくれる。

そして、もう一つ。

最後の一組のバンド「突然少年」。最近「初恋」へと名前を変えたけれど、私はコロナ禍が収まってきたのでそろそろ一度、ライブハウスへ足を運ぼうと思っている。せめて一度でいいから自分の原点のバンドの片割れのステージをこの目で見届けたい。


最後に

今も愛しさは止まらないし、この気持ちは一生コンビニのゴミ箱になんて捨てられないけど、気持ちの整理はしたいのでリュックの中にしまって時折大切に取り出して撫でている。

そんなバンドが私の中ではこの2組のバンドです。

さよならなんて多分一生言えそうにないし、時間が過ぎなきゃいいのにと思うけど、世の中は残酷なので閃光が瞬くのは一瞬なのだ。

けど、刹那の閃光であろうとも、私は一生忘れることは出来ない。このふたつのバンドに出会えたことは私の中で大事に抱えていく宝物だから。

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