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中日ドラゴンズ新外国人選手アキーノの打撃フォーム分析~カギを握る「ヒッチ」とは~

2023年2月1日、ついにプロ野球春季キャンプが開始。全野球ファンが待ち侘びた「球春到来」を迎えました。

我らが愛してやまない中日ドラゴンズもまた、今年は多くのファンに囲まれながら、そして2年ぶりとなる「新外国人選手」を迎え入れてのキャンプインをはたしました。

その中でも一際メディアの注目を浴びるのが、MLB通算41HRを誇る超大物新助っ人「アリスティデス・アキーノ選手」です。

先日のフリーバッティングで場外弾を2発披露するなど、早くもその優れた才能の片鱗を見せつつあるアキーノ選手。

練習態度もコーチ監督ともに感心するほど真面目で、指導者の意見に耳を傾け、改善する姿勢が高く評価されています。

しかし、そのなんでも貪欲に吸収しようとする真面目さ故なのか、MLB時代からシーズン中に打撃フォームが二転三転してしまうアキーノ選手。

今回はそんなアキーノ選手の打撃フォームについて、ドラフト候補や新外国人候補に関する幅広い知見を有する「ゆきちなさん(@zombie0010)」のとあるツイートをキッカケに分析を行っていきます。(引用許可いただきました)

どうぞお付き合いください。

記事の見出しの素敵な写真は、沖縄キャンプを訪問してる私のドラゴンズファンの友人から譲ってもらったものです!みんなかわい(*^^*)

また、私は以前にドラゴンズがアキーノ選手を獲得した際に、彼をデータを用いて分析した記事を執筆しました。

もしまだ読んでいないという方は、軽く目を通して頂くとこの記事を内容が頭に入っていきやすいと思います。

よろしければ一読よろしくお願いします^^


・昨季の打撃フォーム変更とその指摘

先ほど述べたゆきちなさんの指摘は以下のような内容でした。

「アキーノ選手は元々小刻みにヒッチを入れるタイプだが、シーズン途中に肩にバットを載せてヒッチを一度だけ入れるフォームに変更し良化した。」

ゆきちな殿下

私はこの指摘の内容がすぐにピンときました。

というのも、アキーノ選手は昨シーズンのMLBからドミニカウィンターリーグにかけて、打撃フォームをこの、「小刻みにヒッチを入れるフォーム(22年MLB前半)」「ヒッチを一度だけ入れるフォーム(22年MLB後半)」の2つのフォームでシーズン中打席に立っていたからです(細かい変更は省く)

そして個人的に意外だったのが、「ヒッチを一度だけ入れるフォーム」の方が成績が良かったという点です。

私が本格的にアキーノ選手の打席を見ていたのがオフのドミニカウィンターリーグで、前半はMLBから持ち込んだ「ヒッチを一度だけ入れるフォーム」で試合に臨みましたが結果は散々な成績。

その後フォームをウィンタリーグが中盤にさしかかるあたりにMLBでシーズン序盤に採用していた「小刻みにヒッチを入れるフォーム」に戻したのです。

この変更後すぐに「1試合2HR」という明確な結果を残し、私に「やっぱあの変なフォーム(ヒッチを一度のフォーム)はやめたほうが良かったんだな!!」という錯覚を起こす結果となりました。

しかし、フォームを戻して成し遂げた「1試合2HR」を放った日以降も変わらず不調は続き、明確にその不調から脱することなく、今季のウィンタリーグを終え、ドラゴンズとの契約を結ぶこととなりました。

今回の記事ではこの「ヒッチ」に焦点をあて、フォームを変更した日付で区切った成績やデータと、私が描いた下手っぴな絵などを用いて、さらに内容を深堀していきます。



・そもそも「ヒッチ」とは?

「ていうか、そもそもヒッチってなんだよ!」と思った方も多いかと思われますので、まずはそこから説明していきます。

バッティングにおけるヒッチとは一般的に、

「打者がスイング前にグリップの位置を上下に動かす予備動作」

を意味します。

この動作は多くの選手に主にタイミングをとるのを容易にするために採用され、中にはパワーが増すなどの効果を得られる選手も存在するようです。

わかりやすくヒッチを採用している例となる有名なプロ野球選手は、読売ジャイアンツの丸佳浩選手です。

丸選手は、バッティング時に軸足に体重がのると同時に、グリップの位置を大きく下げ(ヒッチを大きくとり)その後再度グリップを上げ、トップを作り、スイングするという流れのフォームです。

絵も字汚くて申し訳ないです!

丸選手ほど大きくはありませんが、アキーノ選手もこのグリップの上下運動である「ヒッチ」を打撃フォームで採用しています。



・アキーノ選手の2つのフォーム

分析に入る前に、先ほど述べた昨シーズンの2つのフォームが具体的にどのようなものであるかを、またしても私の下手な絵を用いて明確化し、分析をわかりやすく進めるための材料としていきます。

再度確認しますが、アキーノ選手の昨シーズンMLBでのフォームは大きく分けて二つ、「ヒッチを小刻み(二度)に入れるフォーム」と「ヒッチを一度入れるフォーム」です。

まず、MLBデビュー当初から採用されており(スタンスの幅の変更等、途中の細かい変更あり)、19年MLBで56試合19HRを生み出したフォームでもある、「ヒッチを小刻み(二度)に入れるフォーム」を解説します。次の絵をご覧ください。

ペンタブで字書くのムズいんだよ!

アキーノ選手はこのフォームを、今季は22年の開幕から8月27日まで採用していました。

まず、彼の代名詞でもある独特のオープンスタンスから、投手が投球モーションを開始したあたりで一度ヒッチを入れ、さらに投手のリリースの少し前に、体を引くと同時にもう一度細かくヒッチを入れ、スイング動作に入るというフォームになっています。

MLB時代のはじめこそ、無双状態を演出したこのフォームですが、2年目以降から今年にかけて投手の対策も強化され、通用しなくなっていったフォームでもあります。

この打撃フォームを以降「フォーム①」とします。

次に「ヒッチを一度入れるフォーム」です。

少し書くの慣れてきました

こちらは元広島ライネル・ロサリオ選手を彷彿させるバットを担いだ状態のオープンスタンスの構えから、そのままバットを立てるようにヒッチを入れ、その後トップはほぼ固定されたままスイングに移るというフォームです。

以前のフォームより足の上げ方は控えめになり、トップの位置もやや高くなったように感じられます。

全体的に前のフォームより動作がシンプルになっている印象を受けました。

このフォームは以降「フォーム②」とします。

※可能であればYoutube等で今解説した点を注視しながらアキーノ選手の映像を確認すると、よりわかりやすいかもしれません。



・2つのフォームの成績とゾーン管理力の比較

では実際にこの大きなフォーム変更が行われた2022年8月28日を境に成績を比較していきます。

まずフォーム①の成績です。

採用期間 開幕~8月27日まで
打席数 166打席
四死球 9個
打数 157
三振 70
安打 28
本塁打 4
塁打数 46
フィールドアウト 51
四死球率 .054
打率 .178
出塁率 .223
長打率 .293
OPS .516
三振率 44.6%

MLB公式より独自集計

なかなか大変な数値を記録しています。

特に前半戦は4月30日にDFAを受けマイナー降格するまでOPS.200台と著しい不調で苦労が伺えました。

それを加味すると、ここまでよく持ち直した方とも言えるかもしれません。

次にフォーム②の成績です。

採用期間 8月28日~閉幕まで
打席数 110打席
四死球 8個
打数 102
三振 31
安打 23
本塁打 6
塁打数 48
フィールドアウト 45
四死球率.073
打率 .225
出塁率 .281
長打率 .471
OPS .752
三振率 30.4%

MLB公式より独自集計

打席数が②の方が少ないにも関わらず、四死球がほぼ同数であったり、本塁打数に至っては多くなっていることがわかります。

指標のみピックアップし、変化をわかりやすくしましょう。

四死球率 .054 → .073
打率 .178 → .225
出塁率 .223 → .281
長打率 .293 → .471
OPS .516 → .752
三振率 44.6% → 30.4%

このようにフォーム①よりフォーム②で打席に入っている方がどの指標においても良化するという結果を得ることができました。

出塁率と長打率は大幅改善し、OPSも.200以上上昇。

さらに依然高くはあるものの、三振の割合は減少し、インフィールドに打球が飛ぶ確率も上昇しました。

まさに、ゆきちなさんが示した通り、フォーム②のほうがより良い成績を残しやすいということが証明されたのです。

それと連動して、ゾーン管理力(Plate Discipline)の改善も見られましたのでこちらも見ていきましょう。

22年 O-Swing%(ボール球スイング率)
①のフォーム 43.7%
②のフォーム 42.4%

22年 O-Contact%(ボール球コンタクト率)
①のフォーム 48.3%
②のフォーム 50.0%

22年 Z-Swing%(ストライク球スイング率)
①のフォーム 76.6%
②のフォーム 78.3%

22年 Z-Contact%(ストライク球コンタクト率)
①のフォーム 77.1%
②のフォーム 79.7%

Fangraphsより

これらのデータより、フォーム②を採用したことにより「選球眼は良化し、同じようにコンタクト率もストライクボール問わず良化した」ことがわかりました。

良化後の数値をもってしても、いずれもMLB平均を下回る数字となっていますが、リーグレベルをNPBに落とすことも加味すると期待を持たせてくれる傾向と言えそうです。

実際の映像を確認した際も、この良化傾向は感じとることができました。

特にインサイドの球に対して、②のフォームの方がより素直に、そして鋭くバットが出てくる印象を受けました。

また、外の球にも以前より手が届くようになり、アキーノ選手らしい外角の球を引っ張ってレフト線付近に持っていくバッティングもたびたび見られました。

成績比較からもわかるように、シンプルになったからと言って長打力が落ちることはなく、むしろ上昇しているので、その点は心配無用でしょう。

ヒッチの回数も勿論、無駄な動作を省き、いかによりシンプルなフォームで打てるかがカギになっていくかもしれません。


・現在のフォームは

先日、初の実戦形式となるフリーバッティングが行われ、アキーノ選手の最新の打撃フォームを見ることができました。

現在のフォームは、以前よりスタンスを狭くし、投手のリリース前に一度バットを後ろに傾け、その後ヒッチを一度いれ、スイングするというフォームに見えます。(アキーノ選手のインスタで来日直前の打撃練習映像を見たときはまだヒッチ小刻みだった気がする)

HRという結果出たことはもちろん、これは先ほど述べた「ヒッチは1度で、全体的によりシンプルなフォーム」を実現できているように感じられます。

今回の記事の内容を基に推察すると、現段階では大きな期待を持つことができそうです。(ポジポジ)

わずかにタイミングがあってないようにも思えますが、そこはこれから日本人投手の独特の投球リズムに慣れていって欲しいところですね。



・まとめ

では最後にこの記事の内容を簡潔にまとめていきます。

・アキーノ選手は19年のMLBデビュー当初から採用していた「ヒッチを小刻みにいれるフォーム」を数々の細かい変更を経て、昨季夏場に「ヒッチが一度のフォーム」に大幅変更した。

・「ヒッチを小刻みにいれるフォーム」より、全体的に動作がシンプルな「ヒッチが一度のフォーム」の方が成績もゾーン管理力も上であった。

・現在のフォームはヒッチが一度で、よりシンプルになっており良い傾向が継続できていそう。

以上となります。

3Aクラスではヒッチ小刻みのフォームでも無双状態ですし、NPBの球速帯なら合ってしまう可能性もありますが、少なくともMLB級では以上のことは証明できますので、マニアックに観察する際の場所として、この「ヒッチ」と「動作のシンプルさ」にぜひ目を向けてみてください。

ちなみに私は動作解析のプロでもありませんし、野球もド素人です。

なので、大きく変化した点を見極め、そこを区切りとして成績やデータを比較し、わかりやすく目に見える両者の違いを指摘することしかできませんので、決して「これが正しいのだ!」という主張ではありません。

あくまで、今後もキャンプや実戦が消化されていく中で、新たな発見が多くあると思いますので、その皆様の発見のお手伝いにこのnoteがなることがあればと思っています。

アキーノ選手が好きすぎて愛があふれて止まらず、1年に2回書くか書かないかというレベルの投稿頻度が、ここ最近は3か月で3つというハイペースになっていますが、なるべく記事の質が落ちないように頑張りますので、よろしければ今後も皆様よろしくお願いいたします!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

感想やご意見等お気軽にお待ちしております!!

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