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3分小説 『月の耳と星の耳』 #シロクマ文芸部


『月の耳、星の耳を食べてみませんか?』


 帰り道に見つけた店先の黒板に書かれた文字をじっと見つめる。

月の耳、星の耳ってなんだろう?
それって本当に食べられるのかな?

むくりと疑問がふくれあがり、ふわりとした香りが鼻をくすぐる。

「よかったら、中へどうぞ~」

 ぼくの存在に気づいたのか茶色いエプロンをしたお団子頭のお姉さんが、お店の中からひょこっと顔を出す。

「でも……」
「いいから、入って入って」

と、ためらうぼくを店内に招き入れた。

「月の耳と星の耳が何か気になったんでしょう?」

お姉さんはニコニコしながら、イートインスペースに座ったぼくに問う。

そっと差し出された牛乳に口をつけていいものか悩みながら正直にうなずく。

外に漂っていたよりも焼き立ての香りを感じながら、店内を見回すも、どこにも月や星が関係しているようなものは見当たらない。

「じゃあ、まずは星の耳を食べてもらおっかな」

ウキウキとした足取りで、お姉さんが運んできた器には、キラキラな星粒をまぶしたような棒状のお菓子がのっていた。

これ知ってる。たしか……


「シュガースティックっていうの。サンドイッチを作る時に切り落としたパンの耳でできてるんだ。まだ試作品だから、好きなだけ食べていいよ」

そう言われると断るのも悪い気がして、ぼくは一つ摘まんでかじってみる。

ザクッとしたパンの耳とジャリジャリとした砂糖が口内で楽しそうに演奏しているようでぼくは次から次へと口に運ぶ。


「いい食べっぷりだねえ。まだお腹空いてる?」

そう言われてハッと我に返ると、器はもう空っぽだった。食い意地が張っている自分に気づいて俯きかけたぼくに

「次は月の耳を持ってきてあげるから楽しみにしてて」

とお姉さんはいたずらっぽく笑った。


 今度は丸い器の黄色の中にパンの耳が見え隠れしていた。そのでこぼこした見た目が、昔、お父さんと天体望遠鏡で見たクレーターがあるお月様に似ている気がした。

「これはパンプディングっていって、パンの耳を使ったあったかいプリンって感じかな? 熱いから気をつけてね」

ぼくは早速、月の耳をいただく。ほくほくして見えたパンの耳は、熱々のプリンのおかげかしっとりとしていて、あまりの美味しさにぼくは天にも昇るほど幸せな気持ちになった。一人で家計を支えることになったお母さんにも食べさせてあげたいな。

「美味しい?」
「うん!」
「よかった! その顔が見たかったの。満天の星空のようにキラキラした君の笑顔をね」

 お姉さんの言葉に、ぼくは照れながらも、
お父さん譲りのえくぼを浮かべた。

えくぼってちょっとクレーターに似てるかもなんて思いながら。


 食べ物の描写が上手な作家さんに憧れているのですが、少しでも近づけてたらいいな~

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