見出し画像

4.1/fゆらぎは何故発生するか(2)

前回に枝分かれモデルを説明したい図4と同じ図を再び示します。

図1 Branching Process Model

前回の記事では、初めに全体でk個の粒子があった場合、ごく微小な時間⊿t後に粒子数がn個となる確率P(k,n,⊿t)を考えて、粒子数が変化する様子を考えました。今回は粒子観測に関連した量を考えます。初めにk個の粒子があったとして微小時間⊿t後に粒子数がn個となり、その 間に粒子を1つも観測(検出)しなかった確率P(k,n,0,⊿t)も、確率P(k,n,⊿t)とほぼ同じ方法で、数学的に厳密に計算できます。

確率P(k,n,⊿t)は検出することを考えていないので、あらゆる数の検出数の場合を全て足し合わせたものとなります。つまり
 P(k,n,⊿t)=P(k,n,0,⊿t)+P(k,n,1,⊿t)+P(k,n,2,⊿t)+P(k,n,3,⊿t)+……..
と言うことです。だから
 P(k,n,⊿t)-P(k,n,0,⊿t)=P(k,n,1,⊿t)+P(k,n,2,⊿t)+P(k,n,3,⊿t)+……..
となります。もし微小時間⊿tが短ければ、その間に2個以上の粒子を検出する可能性(確率)は限りなく小さく無視できます。すると
 P(k,n,1,⊿t)≅P(k,n,⊿t)-P(k,n,0,⊿t)
つまり、微小時間⊿tの間に1個の粒子を検出する確率はP(k,n,⊿t)とP(k,n,0,⊿t)との差から計算できると言うことです。

上記の式を用いて、ある粒子を検出した後次の粒子を検出するまでの時間間隔(粒子検出間隔)の変化を計算した例の一つが前の記事「1/fゆらぎは何故発生するか(1)」の図2(b)です。その図をもう一度示します。

図2 (a)は粒子数のゆらぎ、(b)は検出間隔のゆらぎ

粒子数のゆらぎと比べて検出間隔のゆらぎは明らかに間欠的で突然の変化が多いと言うことが分かります。この検出間隔ゆらぎのスペクトルを計算したのが次の図3です。

図3 検出間隔ゆらぎのスペクトル

横軸の周波数(frequency)の範囲を見ればわかりますが、7桁位の周波数範囲で1/fゆらぎの様子を示していることが分かります。この結果が示していることは、図1に示したように枝分かれや吸収によって変化する粒子数の一部分だけを観測(検出)した場合、その検出間隔の変化は1/fゆらぎとなると言うことです。

更にこのモデルで分裂や吸収などの条件を様々に変えて更に検討したところ、非常に大きい連鎖が一つだけしかなくてその連鎖上の(図1のa, b, cのような)粒子のみを観測した時には広い周波数領域で1/f ゆらぎの振舞いをするが、同じく図1のdのように異なった連鎖上の粒子の観測が混入してくる場合には1/f ゆらぎの振舞いをする領域が狭くなるという結果を得ました。これらについて詳しい説明は、参考資料の(1),(2),(4)にあります。

この結果は「因果関係で結ばれた連鎖上にある出来事一部を観測した場合、その観測から得られた物理量の変動は広い周波数領域において1/f ゆらぎの振舞いをする」という風に一般化できます。

この枝分れモデルは非常に単純でしかも分かり易く普遍性があり、自然現象の多くの場面で1/f ゆらぎが現れるという事実とも整合性があります。更に従来の他のモデルでは不可能だった7桁以上に渡って1/f ゆらぎの振舞いを再現できるということもその有効性を裏付けています。「ゆらぎと音楽」の記事で示した気温の変動や風速のゆらぎなどの1/f ゆらぎを示す例では、ある程度大きな地域全体の気温や風速の変化を限られた場所で堆積物や風速計を使って観測したものであり、上記のモデルで説明できます。その他の例においても観測方法などは異なるものの、ある現象の一部だけを見ているという点では同様です。つまり現象の全体を観測しているのではなく、何らかの観測方法でそれらの一部だけを観測していると言うことです。

これら示した例では3桁以上の周波数領域で1/fゆらぎの様子を示していますが、高速道路上の自動車の流量の場合は1桁半ぐらいの範囲しか1/fゆらぎを示していません(参考資料3)。

図4 高速道路上の自動車流量の変動

自動車を運転する場合、その速さや前後の車との間隔などは周りの車の運転状態に影響を受けます。つまり自動車の流れの状況は、その流れ内の車同士の相互作用による因果関係によって影響を受けると考えられます。この様な意味で高速道路上ではインターチェンジ間の長さの車列内の車の関係は単一の連鎖上にあると考えられますが、それ以上の長さとなると次のインターチェンジでの新たな車の出入りがあり、図1のdのような観測も入ってくるのでそれほど広い周波数領域で1/f ゆらぎを示さないだと思います。

次回では1/fゆらぎとフラクタルとの関連性を考えます。

参考資料

  1. T. Kobayashi, ‘1/f Fluctuations on a Chain of Causal Relationships (Ⅰ); Formalization’, https://doi.org/10.31219/osf.io/2f6r4

  2. T. Kobayashi, ‘1/f Fluctuations on a Chain of Causal Relationships (Ⅱ); Computer Simulations’, https://doi.org/10.31219/osf.io/3b6qy

  3. 武者利光, ‘ゆらぎの世界’, 講談社(ブルーバックス), (1980).

  4. 下のpdfファイルは上記資料(2)の日本語版


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?