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ホグワーツ・レガシーの面白さを分析してみた

ホグワーツ・レガシー』をプレイしました。

あの『ハリー・ポッター』の世界に自分がいて、自由に探索できて、魔法を自在に使って・・・、
と、完全にホグワーツの学生になった気分で最初から最後まで遊ぶことができました。
特に、あれだけの多種多様な個性あふれる魔法(33種類も!)を1つのゲームに落とし込んで遊びを成立させるというゲームデザインが凄いなと感心しました。

反面レベルデザインについては、遊びながら「もうちょっと工夫の余地があったんじゃないかな」と思うところがあったので、ゲームデザインとレベルデザイン両方について考察してみたいと思います。

ゲームデザイン

IPモノのゲームを作るにあたり、「原作再現」は大きなテーマだと思います。

IPモノで「映画で見たあの感じのままだ!」という感想はとても大切

ホグワーツ・レガシーでは原作再現にあたり「魔法を自由自在に使って学生生活を豊かにする」というコンセプトを立てることで、お客さんに喜んでもらおうと企画したのではないかなと思います。

その上で、開発陣は以下のような要件を固めたのではないかと思いました。

  • 『ハリー・ポッター』で見たイメージのまま、ゲーム内で魔法を使うことができる

    • 杖の振り方、効果の見た目が映画・小説で見たものと同じであること

  • 「魔法を使う」というアクションが、ゲームの中で様々な遊びを提供するために効果的である

    • ゲームを遊ぶ中で「この攻略の仕方、別に魔法を使わなくても良かったんじゃ・・・」という感想にならないこと

  • 代表的な魔法はもちろんのこと、なるべく多くの魔法を使うことができる

    • 色んな魔法を使えてこそ自分は「ホグワーツの生徒だ」と認識できる


多種多様な魔法を1つのゲームに落とし込む工夫

改めて、「魔法を自由自在に使って学生生活を豊かにする」というコンセプトの中で、あれだけのたくさんの種類の魔法を1つのゲームの中で成り立たせるゲームデザインはすごいと思いました。

ホグワーツ・レガシーで使える魔法たち

どのように設計していったのかを想像してみます。

設計した順番としては、以下になるかなと思います。

  1. 「このゲームでどのような遊びをさせたいか」を整理し、分類する

  2. 遊びのカテゴリごとに、使えそうな魔法を当てはめる

それぞれ詳細に深掘りしていきます。


①「このゲームでどのような遊びをさせたいか」をカテゴリに分類する
このゲームの基本の遊びを分けるとすると、以下の5つにカテゴリ分けできます。

①バトル
②謎解き
③ステルス
④収集
⑤クラフト


②遊びのカテゴリごとに使えそうな魔法を当てはめる

次に、それぞれの遊びに対して、どのような体験を実現したいかを言語化し、それを実現するために適した魔法を当てはめていくという作業になってくると思います。

  • バトル

    • 敵の耐性に応じて、弱点を突いてから攻撃を畳み掛ける遊び

      • 例:紫のシールドを張る敵には強制呪文を唱えてシールドを破壊してから攻撃呪文を当てる

      • 例:亡者には弱点の炎系呪文を当てる

    • 敵の動きを見て、タイミングよく防御して攻撃を畳み掛ける遊び

      • 例:プロテゴで敵の魔法を跳ね除け、ステューピファイを繰り出して敵の動きを止める

紫のシールドを張る敵には強制呪文を唱えてシールドを破壊してから攻撃呪文を当てる
プロテゴで敵の魔法を跳ね除け、ステューピファイを繰り出して敵の動きを止める


  • 謎解き

    • 障害物を破壊して道を切り開く

      • 例:岩で塞がれた扉をデパルソで吹き飛ばす

    • オブジェクトを引き寄せ、移動させることで道を切り開く

      • 例:ウィンガーディアムレヴィオーサで足場を移動し、レヴィオーソで浮かせて高台に登る

    • 壊れたオブジェクトを元に戻すことで道を切り開く

      • 例:レパロで壊れた橋を元に戻して渡る

レパロで壊れた橋を元に戻して渡る


  • ステルス

    • 敵に気づかれないように近づき、無力化する

      • 例:目くらまし術で自分の姿を隠し、敵の背後に近づきペトリフィカス・トタルスで無力化する

目くらまし術で自分の姿を隠し、敵の背後に近づきペトリフィカス・トタルスで無力化する


  • 収集

    • 魔法生物、素材を収集することで攻略を有利にする

      • 例:捕獲袋で魔法生物を捕獲する

捕獲袋で魔法生物を捕獲する
  • クラフト

    • 例:必要の部屋で出現呪文を使い、魔法植物クラフト台を出現させる

必要の部屋で出現呪文を使い、魔法植物クラフト台を出現させる


このようにして、約30種類もの魔法を遊びのカテゴリに対して上手くはめ込むことで、魔法を使う遊びの体験を成立させていったと考えられます。


バトルにおけるゲームデザインの工夫

バトルにおいては、「敵の弱点を突いて攻撃を畳み掛ける」というアクションが基本の遊びとなっています。
そのうえで、敵を倒すための攻撃がワンパターンになって飽きが来てしまわないような工夫が色々なされています。

飽きさせない工夫について3つの視点で深掘ってみます。

飽きさせない工夫①:敵の弱点の種類を多様化させる

敵の弱点をカテゴリ分けした魔法に対応させることで、敵の弱点を多様化させています。
具体的には以下のような敵がいます。

  • 紫のシールドを張った魔法使い→紫の強制魔法

  • 黄色いシールドを張った魔法使い→黄色の制御魔法

  • 亡者や赤いシールドを張った魔法使い→炎系の攻撃魔法

  • 主にリーダークラスの敵→古代魔法(投擲)

シールドの色に応じて弱点となる魔法の種類が変わる


飽きさせない工夫②:敵の射程距離を多様化させる

弱点だけでなく、攻撃の射程距離も多様化させています。

  • 近距離物理攻撃:ゴブリン、亡者、狼

  • 中・遠距離魔法攻撃:魔法使い、遠距離武器持ちゴブリン

  • 近~遠距離物理攻撃:トロール


近距離物理攻撃:ゴブリン
中・遠距離魔法攻撃:魔法使い
近~遠距離物理攻撃:トロール(突進、岩を投げる)


プレイヤーは基本的に魔法攻撃を行うため、自然と中〜長距離でバトルを進めることになりますが、中〜長距離のバトルがずっと続くと、バトル体験に違いが生まれずに飽きやすくなってしまいます

そこで、ゴブリンに近距離物理攻撃をさせたり、狼に突進をさせることで、近距離の攻撃に対して上手く立ち回る必要が出てきて、バトルの体験にアクセントが生まれます

さらに、そのような敵に対してガード不可攻撃をさせることで、プロテゴ(防御魔法)だけではなく上手く回避もする必要があるというアクションゲームとしての面白さを生んでいます。

ゴブリンは近距離物理攻撃を行う。
ダメージを受けないためには回避が必須。


飽きさせない工夫③:コンボを気持ちよくする

「敵の弱点を突いて攻撃を畳み掛ける」がバトルの基本コンセプトなので、畳み掛けるためにはコンボの気持ち良い体験が必須です。

アクションゲームにおいて攻撃を畳み掛けるために必要なのは「敵に対して大きな隙を作ること」だと思いますが、その隙の作り方が魔法の数だけあるというのが、ホグワーツ・レガシーならではの面白さと言えます。

例えば、以下のようなパターン。

  • グレイシアス(凍らせる)→攻撃魔法畳み掛け

  • レヴィオーソ(浮遊させる)→攻撃魔法畳み掛け

  • アクシオ(敵を引き寄せる)→攻撃魔法畳み掛け

  • 古代魔術の投てき→攻撃魔法畳み掛け

  • プロテゴ(防御魔法)→ステューピファイ(麻痺)→攻撃魔法畳み掛け

プロテゴ(防御魔法)→ステューピファイ(麻痺)→攻撃魔法畳み掛け
このコンボは気持ち良い

このように、様々な魔法を駆使して敵の隙を作り、攻撃を畳み掛けるコンボには気持ち良さがあり、何度も体験したい基本アクションだと言えます。


レベルデザイン

レベルデザイン観点で、面白かったところ、気になったところを深堀っていきます。

4つの試練

ボスステージ的な位置づけの試練ステージは面白かったです。
というのも、試練ステージは、このゲームにおける基本の遊びをおさらいしてくれるようなステージになっていたためです。

試練は4ステージあり、

  • 最初の2ステージ:ギミックを魔法で動かして奥に進んでいく謎解きがメインの遊び

  • 3つ目のステージ:見つからないように道を進むステルスがメインの遊び

  • 4つ目のステージ:バトルがメインの遊び

という構成でした。

「ゲームを進めていく中で習得した魔法を、上手く使えるかな?」という開発者のメッセージが伝わって来るような構成と難易度になっており、手応えのある遊びを体験できました。

謎解きの最後にはボスとの対決で、試練らしいステージ
ある試練では見た目がガラリと変わり、遊びの体験でなく見た目の印象も記憶に残る


気になったところ

遊んでいて、レベルデザインの観点で気になったところを挙げていきます。


①バトル難易度の上げ方

レベルデザインにおいて、バトル難易度の上げ方はちょっと気になりました。
というのも、難易度の上げ方が「敵の数を増やす」という方向に偏っていたからです。

難易度を上げるために、敵の数を増やすことは一定効果があると思いますが、実際に体験してみると、「とにかく忙しい」という印象が強く、「頑張ってこの場を乗り切ったぞ!」という達成感より、「はぁ~どっと疲れた・・・」という疲労感が強く残りました。

敵1人ひとりに対して集中することが難しく、避けては攻撃、避けては攻撃と、とにかく忙しくてワチャワチャしていたらいつのまにかバトルが終わっていた、という体験が多かったです。

敵の数が多いので、上手く立ち回るにしても、四方八方から敵の攻撃が飛んで来るのでノーダメージは難しく、敵を全滅させたとしても「上手く立ち回れたな~」という成功体験は掴むことができませんでした。

見えている範囲だけでゴブリン5体(画面外にも数体のゴブリンとトロールがいる)
とにかくワチャワチャして忙しいバトルが多い印象でした。

なぜ忙しくて疲労感が強かったかをもう少し分解してみると、
1人の敵に対して「敵の弱点を突いて攻撃を畳み掛ける」というアクションの気持ち良さを体験し切る前に、他の敵からの攻撃に対処しなければならないシチュエーションが多かったからだと考えます。

「敵の弱点を突いて攻撃を畳み掛ける」という気持ち良さを得るには、以下の3つのステップを体験する必要があります。

敵の観察:敵の攻撃準備動作を観察する or 敵のシールドの色を確認する
対処:プロテゴ(防御魔法)を張り、敵の攻撃を跳ね返す or シールドを破る魔法を放つ
攻撃:攻撃魔法を連続で放って攻撃を畳み掛ける


10~15人などの集団戦になると、

1人の敵に対して「敵の観察」をして「対処」に入ろうとした時に、
後ろから近接攻撃をされかけて回避

もう1回体制を立て直して「敵の観察」を始めようかという時に、
最初に対面した攻撃はすでに攻撃体制に入っていて、また回避

というような形で、1~3までのステップを最後まで踏むことが難しい状況が続きます。

眼の前にいるゴブリンを見て
「よし、黄色いシールドだから制御魔法を打とう!」と考えている間に、
別のゴブリンが近づいてきて回避必須の物理攻撃をしてくる&
画面外にいるゴブリンが回避必須の範囲魔法を打ってくる

結果、「うおぉ、とにかく避けなきゃ、避けなきゃ・・・弱点を狙って攻撃を畳み掛ける
一連の気持ち良さが途切れちゃう!」
となってしまう。

そのために、気持ち良さよりも忙しさ、疲労感が勝ってしまうと思いました。

ゲーム性が異なるので単純比較はしづらいですが、『Ghost of Tsushima』の集団戦だと、「敵1人ひとりが間合いをしっかり取ってくれて、1対1の戦闘を順番にしてくれる」という体験でしたので、より基本アクションの気持ち良さを感じられるなと思いました。

さらに余談ですが、敵の数が多い戦闘では「とりあえずインペリオを放って敵の1人を味方にしつつ、敵の攻撃を避けながらコンフリンゴとディフィンドを繰り返し撃ちまくる」というパターンが個人的に最適解だったので、このパターンを繰り返すことが多く、「多様な魔法を使いこなして敵を倒す」という体験は得づらかったです。


改善案としては、個人的には「敵の数を増やす」という難易度の上げ方とは別軸で、「ステージのギミックを活かした戦い」の方向性で難易度を上げるのはアリなんじゃないかなと思いました。

例えば、以下のようなアイデア。
・アクシオで山肌にある岩を引き寄せてゴブリンに当てる
・インセンディオで小屋を燃やしての中にデパルソでゴブリンを放り込んでダメージを与える
・用水路をせき止めている岩をコンフリンゴで壊してゴブリンを溺死させる

せっかく、謎解きの遊びでは色々な魔法の使い方があったので、バトルにもそれが応用されると面白いのになと思いました。


②平坦な戦場

2つ目は地形の話ですが、平坦な戦場で戦う時の体験が気になりました。
これはどちらかというとダンジョン探索中に発生するバトルパートでの話がメインで、1つ目の集団戦とも絡んでくる話です。

ダンジョン探索中に、蜘蛛やゴブリンの集団とのバトルをやることが多いのですが、(先ほどの集団戦での課題とも一部重なりますが)以下のような体験の課題があるなと感じました。

  • 平坦な戦場だと、プレイヤーにとって有利な場所(安息できる場所)が無く、さらに敵が自分の背後に回り込んで来る立ち回りをする。

  • 後ろに回り込んだ敵は、画面に映らない所から攻撃を仕掛けてくるため、プレイヤーにとっては急に攻撃予兆エフェクトが発生して対処が難しい

  • そのためどのように戦うかの戦術的な思考の暇がない。結果、ただ敵を捌くのに忙しいという印象しか残らない。

敵との距離をある程度取れば一定は考える暇が生まれるのですが、プレイヤーの背後に回り込もうとする敵がいるので、あまり余裕は無かった印象でした。

加えて、敵の攻撃を受けない安息地が無いステージも多かったので、やはり忙しく、疲労感が強かったです。(机や柱などがある要塞のようなステージの場合は安息地はあったのですが、それよりもシンプルに平坦な戦場が多かった印象でした)


蜘蛛とのバトルではこういうステージが多かった印象。

安息地を作り、戦術的な戦いを考える暇を与えれば、自分が考えた通りに倒せて気持ち良い=楽しいという体験になったはずです。


ちなみに洞窟ダンジョンでよくあった体験として、

  • 入ってきた場所と進むべき場所の通路への出口に区別がつかない

  • 平坦な戦場なので、戦場の真ん中から見るとどちらも同じ出入り口に見える。(しかも暗い洞窟なのでなおさら同じように見える)

  • 敵が自分の後ろに回り込んでくるため、グルグル回って回避して敵を倒した結果、どちらの方向に進むべきかが分からなくなった

といったことがありました。
これも、入口と出口には見た目の差分を付けるなど、もう少し改善した方が良いのではないかなと思いました。


以上、ホグワーツ・レガシーのゲームデザイン、レベルデザインの観点で考察してみました。

一部気になるところはあったものの、トータルは面白いゲームでした。
特に、ホグワーツ校内は散策するだけでも楽しくて、本当にこの学校の生徒になった気分でした。(それだけでもこのゲームを勝って良かったなと思えました)

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