『Pokémon LEGENDS アルセウス』ーアクションゲームとしての工夫について考察するー
『Pokémon LEGENDS アルセウス』をプレイしました。
ポケモンシリーズ初めての「アクションRPG」ということで、これまでのポケモンとは全く異なる体験を得ることができました。
「ポケモン×アクションRPG」としての面白さをどう実現するか、という工夫が散りばめられており、
今までの当たり前だったポケモン体験とのトレードオフになっているところを逐一見直して面白さを磨いていったのだな、という感想を得ました。
アクション要素を中心に、詳しく分析してみようと思います(若干のネタバレを含みます)
アクションゲームとしてのコンセプト
まずは、アクションRPGとしてどう面白さを積み上げていったか、というアクション部分を分析してみようと思います。
面白さの核となるアクション操作をポケモンのゲーム性のどこに置くか、という視点で言うと、「投げる」というアクションに焦点を絞ったことが分かります。
具体的には、以下のような「投げる」のアクションを通じて、ポケモンの育成・アイテム入手・ストーリー進行という目的を果たしていきます。
次は、「投げる」をベースにしたそれぞれの行動について見ていきたいと思います。
ポケモンを捕まえる
今作の目玉となる「野生ポケモンに直接ボールを投げて捕まえる」というアクション。
今までのポケモンを捕まえる体験とは大きく異なり、
という、かなり直感的なポケモン捕獲体験になっています。
「距離感を調節し、狙いを定め、ボールを直接投げる」という直感的な操作による、よりリアリティを感じるポケモン捕獲体験が重視されています。
この直感的なポケモン捕獲体験をさらに詳しく見ていきます。
ポケモン捕獲体験に対して面白さや遊びやすさ、気持ちよさを感じられるように工夫しているとしては、例えば以下が挙げられると思いました。
①ポケモンの種類によって捕まえ方に創意工夫の余地があること
ただボールを投げれば良いのではなく、ポケモンによって捕まえ方に工夫が要ります。
例えば、以下のようなケースです。
「ポケモンをよく観察して特徴をつかみ、どうすれば確実に捕まえられるか」ということを考える奥深さがあります。
(またちなみに、「フェザーボール」や「めかくしだま」など、素材を集めてクラフトをすることで入手できるアイテムが必要になってくるため、ポケモンを捕まえるための素材集めのためにマップ探索をする、というマップ探索への導線としても機能しています。)
②アクションが苦手でもポケモン捕獲の成功体験を積みやすいこと
以下の仕様があることで1匹のポケモンを捕まえるハードルが低く設計されているので、「狙って、ボールを投げて捕まえる」というアクションが少し苦手な方でも遊びやすくなっています。
このような仕様になっていることで、ポケモンを捕まえることに何度も挑戦することができ、ポケモン捕獲の成功体験を積めるので、その成功体験が嬉しくてついつい次のポケモンを捕まえに行きたくなります。(=ハマります)
③ポケモンを捕まえる時に段階的なフィードバックがあること
草むらに隠れて見つからずに野生ポケモンにモンスターボールを当てた時は、普通に捕まえた時とは異なり、気持ちの良い音とエフェクトが流れます。
普通に捕まえた時と見つからずに捕まえた時のフィードバックが違うことで、見つからずに捕まえた時の気持ち良さがより引き立つようになっています。
このように、「ポケモンを捕まえる」体験のフィードバックが段階的に用意されていることで、「あの気持ち良い体験をもう1回味わいたい!」と、頑張って見つからずにポケモンを捕まえようという気持ちにさせてくれます。
以上3点の例を挙げましたが、「ポケモンを捕まえる」という基礎的な体験が十分に面白く、遊びやすくて気持ち良いので、何度もポケモンを捕まえたくなるんですね。
ボス戦
ボス戦は、「投げる」に加えて「避ける」に特化したアクションを求めることで、ポケモンを捕まえる時のアクション性とはまた違う体験を作っています。
例えば「ドレディア」戦。
具体的なアクションとしては、以下のようなものです。
今までのポケモンでは全く味わえない、かなりテンポの早いアクションゲームという体験でした。
相手の攻撃タイミング、攻撃範囲を真剣に見極めてタイミングよく避けないと負けてしまうので、アクションゲームとしての手応えを感じました。
(ちなみに僕の場合は自分のポケモンを一切出さずに避けて投げてを繰り返してクリアしました。それもあってか、「ポケモンをプレイしている」という感覚は薄かったです)
アクションゲームとしてのテンポの良さを実現するために今までの体験を見直したところ
次は、「ポケモンを捕まえる」という基本の遊びに限らず他の要素において、「テンポの早いアクションRPGゲームを実現するためにどのような仕様にしたのか?」という観点で見ていきます。
色々見てみると、従来のポケモンの「限られたリソースをどう管理するかをじっくり考える遊び」とはトレードオフになっているところがいくつもあり、今作のために仕様を変えたところがたくさんあったのが特徴的でした。
バトル
バトルの演出を中心に見てみると、今作のバトルもターン制コマンドバトルではありますが、スピード感、テンポの良さを感じる体験になっていることが分かります。
具体的には、以下の仕様によって、ターン制バトルなのにテンポの良さを感じます。
総じて、「ターン制のコマンドバトルだけど、スタイリッシュな演出や見せ方によってテンポの良さを感じられる」という『ペルソナ5』的なバトル体験に近いですね。
開発時にベンチマークしていたのかなと感じました。
育成
ポケモン育成というアウトゲーム部分においても、インゲームのようにテンポ感、スピード感を感じる仕様になっています。
このような仕組みのおかげで、全体的に手持ちポケモンの成長スピードを早く感じられます。
このような仕様にしている理由としては、以下のように解釈しています。
テンポよくポケモンを捕まえてマップを探索するのがメインの遊びのため、テンポが遅くなる要素を改変する必要があった。
従来のように進化シーンが自動遷移だったり、1体ずつ技やニックネームを考えさせる時間を設けていると、テンポが遅い体験になってしまう。
ここは、従来のポケモンにあった、「捕まえたポケモンにニックネームをじっくり考えてつけて、新しい技を覚えた時はどの技を残すかをウンウン悩んで考え・・・」というような、ポケモン1体に対して愛着が自然と湧いてくる体験はトレードオフになっていると感じます。
(今作では、進化させるための苦労がそれほどないので、進化させた時の達成感もあまりなかったですね)
まとめると、以下のように言うことができますね。
ゲーム全体のテンポを優先した結果、
テンポの良いコマンドバトルを体験することができた。
ポケモンを何匹もテンポよく捕まえることができ、成長スピードも早いため捕獲体験と育成体験をサクサク進めることができる
一方で、以下のような体験も同時に起きている。
バトルをすることなく、同じポケモンを何体もポンポンと捕まえられるので、捕まえた一匹に愛着が湧きづらい
「進化」や「技覚え」が選択式なので、進化や技覚えをした時の達成感が薄い
ただし、これは今作のコンセプトである「ポケモンを捕まえる」アクションゲームとしてのテンポの良さを優先した結果、従来のポケモンにあった育成の達成感・愛着の体験をトレードオフしたものになっている。
気になったところ
最後に、プレイしていて「この機能はなんでこんな仕様になったんだろう・・・?」と気になったところを以下にまとめて、考察してみました。
図鑑機能
今作では、これまでの作品以上に図鑑の完成が深いやり込み要素になっています。
「捕まえた数」「倒した数」など、同じポケモンでも数をこなすことで図鑑が徐々に完成されていくという仕組みになっています。
「捕まえた数」「倒した数」の目標数は最初から可視化されており、さらにポケモンを捕まえたり倒したりすると、その進捗が逐一更新されていくような見せ方になっています。
僕が気になったのは、
最初から図鑑機能のやり込み要素が可視化されていると、以下のようなデメリットがあるのではないか、ということです。
初心者プレイヤーにとっては複雑なゲームのように見えてしまう
遠すぎる目標を見せられるのでやる気が削がれてしまうのではないか
図鑑の進捗が逐一更新されるため、いつのまにか図鑑完成を進捗させることがメイン目標に切り替わり、ストーリーを進めてもらえずに図鑑レベルとポケモンのレベルだけ大きく上がっちゃうのではないか
結果、「このストーリーパートはこれくらいのレベルで遊んでほしい」というバランスが崩れてしまうのではないか
実際に僕の体験であったのは、
「見つからずに捕まえた数」「倒した数」が1体、3体、5体、10体・・・と表示されているため、1体捕まえたら次は3体、5体・・・と、目先の目標が「数をこなしていく」にいつの間にか切り替わっており、メイン任務の目的地に行くのがかなり後回しになりました。
(ポケモンを捕まえる行為自体が楽しくて気持ちが良いので、それを何度も続けたい、というのもありました)
・・・と上記のようにデメリットがあるんじゃないかなと考えていたのですが、さらに考察を続けてみます。
仮に図鑑のやりこみ要素が無い(もしくは最初から可視化されていない)場合、以下のようなデメリットがあると思いました。
ポケモンを1体でも捕まえれば満足する体験になる。
その結果、同じポケモンを何匹も捕まえる目的が無くなる
その結果、同じポケモンでもフィールド環境によって捕まえる難易度が変わってその難しさを楽しむ、といった遊びも無くなってしまう。
このデメリットは今回のコンセプトである「ポケモンをテンポよくポンポン捕まえる」という体験を損なってしまうため、同じポケモンを何匹も捕まえる価値付けとして図鑑のやり込み要素が最初から可視化されていたのかなと思いました。
しかも、「ヒスイ地方では得体の知れないポケモンの生態を解明するために、何匹も捕まえる必要がある」という世界観から見た納得感もあるため、最終的にこのような仕様になったんだろうな、と想像しました。
トレーナーとのポケモンバトル
続いてトレーナーとのバトル。気になったポイントは以下です。
相手が次のポケモンを出すタイミングで自分はポケモンを変更できない仕様
今までなら「カビゴンを出そうとしている。ポケモンを変えますか?」と、相手が次のポケモンを出すタイミングでこちら側もポケモン選択ができましたが、今作ではできません。
そのため、相手トレーナーが必ず自分の生き残っているポケモンとの相性が良いポケモンを出してきて、十中八九自分のポケモンが倒されるはめになりました。
心なしか今作はこうかばつぐんのダメージバランスが大味だったので、トレーナーとの勝負は、「初手で相手のポケモンと相性の良いポケモンを出せるか勝負」になっている印象がありました。
ゲームバランスの大味さは、野生ポケモンとのバトルをテンポよく進められるよう、意図されたバランスなのかなと思ったので、個人的には過去作通り、相手が次のポケモンを選ぶ時に自分のポケモンも選べる仕様にしたいと感じました。
「早業」と「力業」
最後に気になったところは、「早業」と「力業」です。
このシステムは今作ならではのシステムで、「早業」「力業」を選ぶことで行動順や威力、命中率に影響が出るためバトルに深みが出ています。
といった形で、リスクとリターンの関係があるので、どういう戦術を取るか、という試行錯誤が面白い部分です。
この仕様で気になったポイントは、なぜテンポが落ちそうな「早業と力業」を入れたか?という点です。
野生ポケモンとのバトルでも、「早業」「力業」を使えますし、野生ポケモン自身が「早業」「力業」を使ってきます。
そのため、バトルの深みは増しで、1回のバトル中に色々と考えを巡らせる時間が長くなるかと思われます。
そうなると、「ポケモンをテンポよく捕まえる」というテンポの良さは失われてしまうのではないか、と思いました。
ではなぜ「早業」「力業」を入れたのかについては、2つ仮説を考えてみました。
1つのフィールドで同じタイプのポケモンとテンポよく何度もバトルする機会が多いので、バトルを繰り返しているとだんだんと味気なくなったから、考える面白みを足したことで飽きづらくしたという仮説。
「早業と力業」を野生ポケモンが使ってくれば、より野生ぽい(同じポケモンでも、個体によって戦い方が変わってくる)体験になり、未知なる部分が多いポケモンの野生感を演出したという仮説。
テンポが良くても、同じアクション・バトルが繰り返されると飽きてしまいますもんね。テンポとバトルの駆け引きの奥深さ、バランスが大切ですね。
以上、『Pokémon LEGENDS アルセウス』をプレイしての色々な考察でした。
僕は直感的な操作のアクションゲームが好きなので、ポケモンでこういった体験ができるのはとても嬉しくて、ストーリーそっちのけでずっとモンスターボールを投げては「やったー捕まえた~」と感動しっぱなしでした。
ポケモンの種類によって捕まえ方を変える遊びは面白かったので、『Pokémon LEGENDS』シリーズが続くなら、その遊び方が拡充されていくのかなぁと思いました。
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