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音楽を聴くのが面倒くさい

 音楽を仕事にしている者の発言としてはトップクラスに終わっていると思うのだが、正直誰でも一度は思った事があるのではないだろうか?勘違いしてもらいたくない事は、あくまでも音楽を聴くのが面倒くさいというだけであって、音楽が嫌いという訳ではない。寧ろ音楽は好きだし何だかんだ今でも良いと思った曲は調べるし、場合によってはCDや配信で買う事もしている。私が言いたいのはその音楽を聴く為のハードルの話だ。

 数十年前はレコードから始まり、CDが広まっていった。私が音楽を聴き始めたのはこのCDの頃だ。当時はウォークマンを持っていたし、MDも持っていた。MDを買うと自分の好きなプレイリストとしてマイベスト的なMDを量産したものだ。カセットを使っていた時期もあったのだが、MDに出会ってからはMDばかり使っていた。今でも残ったのがMDよりカセットなのはビックリしたが、カセットの音ってアナログ感としては抜群のデバイスなのだ。

 CDが良く売れていた時代でも、カセットやMDに音楽を入れて聴いていたという事は、やはりCDという媒体は選曲の自由を制限していたように思う。CDアルバムなんてアーティストがコンセプトや曲順、そういったものを拘って作っていても、利き手としてはまず全ての楽曲を聴きたいかどうかと言われれば多くの方はNOと答えるのではないだろうか?少なくとも私はどんなに好きなアーティストのアルバムでも、1曲2曲は嫌いな曲が混ざっていたし、その曲は飛ばしていた。そういう面倒をMDやカセット、CD-Rは解消してくれいてた。ちなみにCDアルバムで1曲も飛ばさずに聴けるアルバムに出会うまでに23年も掛かった。一生出会えないと思っていたので、本当に良いアルバムに出会えた事は喜びである。

 こうして出会ったアルバムが1曲も飛ばさずに聴けるものであれば全然良いのだが、残念ながらそんなアルバムに出会えなかった人も中には居るのではないだろうか?というよりほとんどの人が恐らく出会えていないのではないかと思っている。

 その1曲も飛ばさずに聴けるアルバムに出会うまでの23年間の間には、当然CDやMD以外のものが出始める。例えばiPodだ。私はiPodが出て暫くしてからiPodに手を出した。周りではやっとMDが人気になり始めた頃だと思う。中学の頃にもMDを使っている人は居たが、流行りっていたのは高校の頃なので、CDを友達に借りたり、レンタルショップで借りたりしたものを入れている人が多かった。

 そんな中でiPodはHDDのストレージに曲を入れていけばいいので、アルバム単位で楽曲を入れる事も出来るし、内部でプレイリストを作る事が出来たのでMDを持ち歩かなくてもiPod一台あれば楽曲を聴けるのだから、高校の頃は非常に重宝していた。しかし、iPodの脆さは尋常ではなく、結局HDD型のウォークマンに移行したのだが….(ワンセグ付きのものだったので、入院生活の頃は本当に助かった)

 HDD系のプレイヤーを使うようになると、音楽配信サービスにも手を出すようになる。今のapple musicだったりXアプリのようなサイトは20年以上前からあって、当時はJukeboxとかsonic stage(はアプリの名前か)とか使っていて、配信されている楽曲の安さについついポチりまくっていた。CDといえば1,000円で買うような買い物だったし、アルバムなら大体3,000円だ。それが1曲210円だったのだから、子供の頃は買いたい曲が沢山あったのに1枚1,000円なのでとても手が出ない。しかし、1曲210円であれば5曲も買える。勿論アルバム単位で買う事も出来るが、アルバム曲の中から好きな曲だけを買ってストレージに入れられるというのは、リスナーとしては本当にありがたい存在であった。恐らくその頃のアーティストはアルバムをコンセプトをもって作っていたと思うので、非常にモヤモヤしたのではないだろうか?

 こうして便利になった一方、やはり1曲210円で買えるようにしてしまった事は、音楽の寿命をぐっと短くしてしまった気がしなくはない。入るはずの収益自体が安くなっているから当然である。何せ当時はWinnyをはじめとしたファイル共有ソフトの悪用もされていた事もあって、音楽の売り上げはかなり落ちていた。面白い事にWinnyが出た頃ぐらいから露骨にオリコンのCD売り上げランキングで発表されていたCDの売り上げが激減していたのだ。

 売り上げの話になると脱線気味になるので話を戻すが、やはりCDを毎回入れ替える手間というのは結構ストレスで、MDやCD-Rにプレイリストを作ったり、ストレージ系のプレイヤーの中にプレイリストを作って再生したいというのが本音だと思う。

 それで満足をしていた私なのだが、そこからまた面倒が出てしまう。それはストレージ系プレイヤーはいつまでも持つとは限らないという事。要するに壊れてしまった時には買い直さなければならないという事。

 買えばいいじゃん?って話なのだが、問題は買った後にまたストレージに聴きたい曲を入れ直す作業が待っている事になる。ストレージ系のプレイヤーは少しずつ楽曲を入れていくからこそ曲数が増えていき、ライブラリーからプレイリストを作る事が出来るようになる。しかし、買い直したプレイヤーは当たり前だがデータは無い。今まで聴いていた楽曲を全て入れ直さなければならないって思ったら、気が遠くなる作業になるだろう。しかも、当時と今では好きな曲は絶対的に変わっている事、好きな曲でもレンタルや配信サービスで購入したものはデータが残っていない等、再度手にしなければならない場合もあるだろう。この面倒くささはリスニングのハードルをかなり上げてしまっていると思うのだが、こればかりは避けようのない話だと思う。

 後、最近の話になるとスマートフォンとストレージ系プレイヤーを一緒に持ち歩く人ってかなり減ったのではないだろうか?昔はどっちも持って歩く事に抵抗は無かったのだが、歳を取ると余計なものは持ち歩きたくないと思ってしまうものでスマートフォンに楽曲を入れてしまおうかとも思うものの、スマートフォンは別の用途でも使っているのでストレージに関してはホイホイ音楽ばかり入れていられないのだ。後個人的にiPhoneを使っているのだが、同機システムはゴミシステムだと思っていて、好きな曲をドラックしてぶち込んで行けばよかった作業を、同機じゃないと楽曲を入れられなくなったクソ面倒なシステムでiPhoneにデータを入れなくなってしまった。

 こうして音楽を聴く習慣が減ってしまったのだが、今ではストリーミング再生が出来るサービスもあって、世間ではYoutubeやspotifyなんかで楽曲を聴いている人もいるのだが、聴きたい時に好きな曲を再生しようっていうフットワークの軽さとしては最高のサービスだと思う。

 が、ここまで書いてみるとそりゃアーティストの取り分が減りすぎて、音楽活動のハードルは低くなったけど、売り上げを作れないよなと。新人を育てるだけの予算も捻出出来ないよなと。

 だが、高いCDを買って、面倒なリスニング環境で聴いてくれるお人よしは今となってはかなり少ないだろう。ここまで書いてみるともうCDを買おうなんて思えないもの。ストリーミングサービスか、音楽配信サイトで販売しているのであれば、そちらで良いってなりやすい。そもそも昨今の楽曲の作りが奇抜さの押し売り過ぎて大嫌いという事もあるので。(これに関しては若い子の感性かと思っていたが、若い子の懐メロ人気を考えると、絶対この奇抜さの押し売りに疲れている層がオッサン世代だけのものではない事は明白である)

 ここまで読んでくれた方に改めて問いたい。音楽を聴くのが面倒くさいと感じる事はないだろうか?私は悪いけど非常に面倒を感じていて、とても好き好んで聴ける心理になることは出来そうにない。

 そして、がっつり否定していた方も即座に否定しづらくなったのではないだろうか?否定意見は変わらずとも、少しは悩んだのではないだろうか?でもそれは間違っていない。悪いけど音楽の良し悪しと、リスニングへ繋がる行動力は違う話なので。

 そして音楽を聴くまでのハードルってやっぱり大変なんだよ。

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