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2022年11月24日新型インフルエンザ等対策推進会議基本的対処方針分科会の政府提案への意見書

基本的対処方針の変更案について意見書を提出

基本的対処方針の変更に関する政府提案への意見書
2022年11月24日
大竹文雄・小林慶一郎

1. オミクロン株の重症化・死亡リスクを最新のデータに変更すべき

今回の基本的対処方針の変更案では、新型コロナウイルス感染症の重症化・死亡リスクに関する記述が第6波の2022年3月から4月に診断された人のデータを用いたものであり、第7波の状況が反映されていない。最新のデータに変更するべきである。

具体的には、政府案の4ページの下記の記述である。
「令和4年3月から4月までに診断された人においては、重症化する人の割合は 50 歳代以下で0.03%、60歳代以上で1.50%、死亡する人の割合は、50歳代以下で0.01%、60歳代以上で1.13%となっている。なお、季節性インフルエンザの国内における致死率は 50 歳代以下で0.01%、60歳代以上で0.55%と報告されており、新型コロナウイルス感染症は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60 歳代以上では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある。ただし、オミクロン株が流行の主体であり、重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下している。」

現行のこの記述は、2022年7月15日に変更されてから4ヶ月間変更されていない。第7波から時間が十分に経過しているにも関わらず、今回の変更案でも変更されていない。第6波の新型コロナの重症化・死亡リスクが基本的対処方針に反映されたのが対象データの時期から3ヶ月後であった。私権制限の根拠となる数字が基本的対処方針に反映されるまでにこれほどの時間がかかるのは問題である。第7波は7月から8月が中心であったので、仮に情報の確定に前回の変更と同様に時間が必要だったとしても、既に、第7波の重症化リスクに関する情報は得られているはずである。

この点については、2022年11月11日の第20回新型コロナウイルス対策分科会の参考資料8として意見書を提出した。意見書の一部をここに再掲する。
「新型コロナウイルス分科会、東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議、厚生労働省アドバイザリーボードのデータをもとに作成された財政制度等審議会財政制度分科会の資料で、新型コロナ感染症の第7波と季節性インフルエンザの重症化率と致死率の比較がされている。季節性インフルエンザの重症化率は、60歳未満で0.03%、60歳以上で0.79%である。BA4,5が主体であった第7波の重症化率は、60歳未満で0.01%(大阪)、60歳以上で0.14%(大阪)である。また、季節性インフルエンザの致死率は、60歳未満で0.01%、60歳以上で0.55%である。BA4,5が主体であった第7波の致死率は、60歳未満で0.004%(大阪)、0.01%(東京)、60歳以上で0.475%(大阪)、0.64%(東京)である。つまり、第7波の新型コロナウイルス感染症は、重症化率でも致死率でも季節性インフルエンザよりも低いか同程度になっている。」

 このデータのうち、季節性インフルエンザの指標は現行の基本的対処方針の数字と同じである。また、東京のデータは2022年10月27日の東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議の資料である。大阪のデータは9月16日の新型コロナウイルス感染症分科会に提出された資料である。なお、大阪については、11月8日の大阪府新型コロウイルス対策本部会議の資料で10月30日判明時点のデータが公表されており、そのデータから最新の数値を算出すると第7波の重症化率は、60歳未満で0.01%、60歳以上で0.17%であり、致死率は、60歳未満で0.006%、60歳以上で0.75%である。

基本的対処方針の新型コロナウイルス感染症の致死率を第7波の数値に変更すれば、大阪の最近の数値を使った場合であっても60歳以上で0.75%である。もちろん、季節性インフルエンザと新型コロナウィルス感染症の重症化率や致死率を比較する際には様々な注意が必要である。しかしながら、コロナ死者としてカウントされている死者のうち約半数がコロナ以外の死因である事、感染が届けられていない新型コロナ感染者が多数いると考えられることを考慮しつつ、さらには現時点で基本的対処方針に紹介されている数字以外の様々な季節性インフルエンザの致死率推定値等も参考にすると、今回の基本的対処方針の「新型コロナウイルス感染症は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60 歳代以上では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある。」という文章の「相当程度高い」という表現は適切だとは言い難い。

新型コロナウイルス感染症の重症化・死亡リスクの判断は、基本的人権に制限を加える根拠となるため極めて重要なことである。基本的人権の制限についての重要な判断が恣意的になされるべきではない。

新型コロナウイルス感染症が、新型インフルエンザ等特措法で、様々な行動制限をする根拠は、新型コロナウイルス感染症が「当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」(感染症法第6条7項)だと判断されているからである。
ここで「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある」という程度については、「新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度」を超える場合だと定義されている(特措法第15条第1項)。この場合に、政府対策本部を設置され、特措法の対象になる。そして、「政府対策本部が設置される条件のいずれかが満たされなくなった場合は、政府対策本部は廃止される」(特措法第21条第1項)と明記されている。

現在、新型コロナ感染症が特措法の対象であるという根拠は「新型コロナウイルス感染症は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60 歳代以上では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある」ことである。他の年齢層では季節性インフルエンザと比べて新型コロナウイルス感染症の重症化・死亡リスクは既に相当程度高くないことは明らかである。そして上記したように、第7波においては60歳代以上の致死率に限っても季節性インフルエンザと比べて「相当程度高いとは言い難い」と判断するのが自然である。

基本的対処方針の新型コロナウイルス感染症の重症化率・致死率の情報は、第7波の重症化率・致死率のデータに速やかに変更すべきである。法律に基づいて人権制限を行う国であれば、最新データへの数字の変更に伴って、新型コロナウイルス感染症は特措法の対象から外れ、政府対策本部は廃止されることになる。その後、もし重症化率・致死率が上昇することがあれば、その時点で速やかに特措法の対象に戻し、政府対策本部を新たに立ち上げれば良い。

2.オミクロン株の特徴を踏まえた感染防止対策について

 既に述べたように、オミクロン株の特徴を考慮すれば、季節性インフルエンザより厳しい感染対策を国民にとるように政府や自治体が要請・呼びかけをすることは望ましくない。今までの新型コロナ感染症対策の経験から、日本では政府・自治体による呼びかけ・要請で、企業や学校等の組織だけでなく個人レベルでも行動変容をしてきた。その結果、社会経済活動に大きな影響を与えてきた。

したがって、25ページに、「令和4年秋以降の新型コロナウイルスの感染拡大においては、これまでの感染拡大を大幅に超える感染者数が生じることもあり得るとされており、また、季節性インフルエンザとの同時流行が懸念されている。その場合でも、オミクロン株と同程度の感染力・ 病原性の変異株による感染拡大であれば、二(4)1)及び2)の記載に関わらず、新たな行動制限は行わず、社会経済活動を維持しながら、高齢者等を守ることに重点を置いて感染拡大防止策を講じるとともに、同時流行も想定した外来等の保健医療体制を準備することを基本的な考え方とする。」という方針には賛成する。
ただし、28ページの「新レベル分類の「レベル3 医療負荷増大期」においては、地域の実情に応じて、都道府県が「医療ひっ迫防止対策強化宣言」を行い、住民に対して、感染拡大の状況や、医療の負荷の状況に関する情報発信を強化するとともに、より慎重な行動の協力要請・呼びかけを実施すること、事業者に対して、多数の欠勤者を前提とした業務継続体制の確保に関する協力要請・呼びかけを実施すること等を選択肢とした取組を行う。」の呼びかけの内容が、事実上の行動制限とならないようにすべきである。

3.軽症者用経口薬の特例承認にともなう外来逼迫の防止策

塩野義製薬の軽症者用経口薬ゾコーバが特例承認されたため、今冬は、新型コロナの軽症者がゾコーバの処方を求めて医療機関に殺到し、外来医療が逼迫する可能性がある。オミクロン株を特措法の対象外として通常の医療保険の対象として3割自己負担で処方し、外来逼迫を防止することが望ましい。特措法の対象を続けるとしても、より多くの医療機関が診療を行い、特にできる限りオンライン診療を増やしてゾコーバの処方箋を出せる体制を整備することが外来逼迫を防止するために有効であると考えられる。

持ち回り会議での意見

政府案に対する意見
大竹文雄

「基本的対処方針の変更に関する政府提案への意見書」に、詳しい意見を述べたとおりです。第一に、オミクロン株の重症化・死亡リスクを最新のデータに変更すべきです。このデータは、新型コロナウイルス感染症が特措法の対象になるか否かを判断する極めて重要なものです。現在、感染が拡大している変異株やワクチン接種の状況による重症化リスクに応じて対策を検討すべきです。第6波の情報をもとに、第8波の対策を検討するというのは、合理的ではありません。第二に、「医療ひっ迫防止対策強化宣言」については、事実上の行動制限とならないように注意すべきです。第三に、軽症者用経口薬の特例承認に伴う外来診療の逼迫を防止する政策を実施する必要があります。基本的にはこの感染症は特措法の対象外となるべきであり、通常の医療保険の対象とすべきです。特措法の対象を続けるとしても、より多くの医療機関が診療を行い、特にできる限りオンライン診療を増やしてゾコーバの処方箋を出せる体制を整備することが外来逼迫を防止するために有効であると考えられます。

2022年12月2日に公開された議事録での政府からの回答


①について ・ 対処方針P4の重症化する人の割合・死亡する人の割合に関するデータについては、現時点で、厚生労働省において、ADB・専門家との間で調整中と承知しており、今回の基本的対処方針の改正で更新することが難しいと考えております。できる限り速やかにデータを公表し、公表され次第対処方針にも反映するようにいたします。 ・ なお、ADB等で提出されていた自治体のデータについては、厚労省によれば、重症化を判断するに当たっての十分な観察期間を設けられているか等の一定の課題があるデータとされており、こうした点にも対応したデータとして、3自治体協力のもと算出した重症化率・致死率を公表しているとのことです。(※石川県、茨城県、広島県の協力を得て算出した重症化率・致死率。別添資料) ・ ただ、上記(3自治体協力のもと算出した重症化率・致死率)についても信頼区間が記載されていない点をADBにおいて課題として指摘されているため、最新データについてはADB・専門家と調整中という状況とのことです。

②について ・ ご指摘のとおり、行動制限であるかのように受け止められないように都道府県とともに運用に気を付けてまいります。

③について ・ 現状、ゾコーバについては、厚生労働省において、企業と100万人分の購入契約を締結しており、全ての薬剤が納入されています。 飲み合わせの問題(併用禁止)がある中で、速やかに全国で処方を開始できるよう、最初の2週間程度は、既に承認済みの経口薬パキロビッドの処方実績のある医療機関での処方や薬局での調剤ができる体制を整えることとしています。 その後は、特段の要件を設けず、地域の実状に応じて、各都道府県が選定した医療機関での処方や、薬局での調剤ができる体制とする予定です。 3 重症化リスクの低い患者をはじめとする外来医療費等の公費支援(予算補助)のあり方については、ご指摘も踏まえ、引き続き検討していまいります。

2022年11月24日基本的対処方針分科会議事録

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