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「日本を前に進める」 書評 〜サタプロ講演と合わせて〜 2 「外交・安全保障」

「河野太郎という政治家が何をしてきたか」について述べられています。ここでは筆者なりに補足と過去の発言から河野氏がどのような考えを持っているのかまとめていきたいと思います。

*河野太郎氏の生体肝移植は現在色々と調べながら執筆中ですのでご期待下さい。

サタプロでは第二部として河野氏とのトークショーをしました。そこで話題に挙げた一つが「外交と安全保障」でした。中の人は外交に並々ならない関心があるので絶対に取り上げたい内容でした。このnoteではその時にお話しした内容とともにお伝えしたいです。

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第三章 新しい国際秩序にどう対処するのか-安全保障・外交戦略

この項の中心はやはり

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「中国の台頭とアメリカの新戦略」についてとそういった情勢の中でどう「日本が立ち回って行くか」「ポストコロナ時代こそ日本の存在価値が生きてくる」

といった喫緊の東アジア情勢についてです。トゥキィディデスの罠という言葉がある通り、全時代の覇者とそれが作った秩序に挑戦する新興国の対立というものはいつの時代も避けられないものです。この状況に陥った時、外交問題として解決していき新たな覇者に引導を渡すのか、そうでないのかと衝突し戦争として解決されるのかは二国間だけでなく世界のあらゆる政治舞台、経済市場、学術界に影響を与えます。トキィディデスの罠の例としては第一次大戦前のドイツとイギリス、第二次世界大戦前の日本、ドイツとイギリス、アメリカなどが頻繁に挙げられます。他にもあると思います。こういった新興国と既存の覇者の対立において考えていかねばならないのは両者の価値観の違いです。アメリカと中国について例をだせば、中国は天下という言葉がある通り、見渡す範囲は全て中国のものだという漢代からの潜在的意思があります。中国3000年の歴史から見れば中国こそが世界の覇者だというのが本音です。一方中国史は異民族の侵入、王朝の崩壊と新王朝の樹立、内乱、崩壊の歴史を何度も辿ってきました。(もちろん漢代の禅譲というのもありますが)大陸国家である中国は常に隣国から侵略されている恐怖心を持っているのです。こういった意識が反映されている例としては、近年中国政府のウイグルやチベット、内モンゴル自治区での自治権の奪取、民族文化の破壊が横行しています。これらの地域はウイグルはトルコ系イスラム教徒の突厥、チベットは古代の羌・氐氏、中世にはモンゴル帝国が支配、内モンゴルはもちろん元などの遊牧民族の末裔が多く暮らしています。第二次世界大戦後、共産党はこういった統治の上での脅威を取り除くため、大陸各地に侵攻しました。今さらに締め付けを強化しているのは、大国として成長が進みつつも民族的不安を抱えて、対外的にはアメリカはじめ自由主義国会との対立をするまさしく「内憂外患」の状態のジレンマの表出だと多くの専門家が分析しています。外に対して猜疑心を多く持つ中国は東シナ海、南シナ海での日本やASEAN各国への敵対的行動を続けています。

アメリカは第一次、第二次世界大戦、冷戦を通して長く世界一の国を自称してきました。戦後世界ではアメリカのその覇権的とも言える軍事行動により自由主義の勝利を確固にした例も多くあります。ただそういった覇権的な自負心のまま突入したベトナム戦争、中東戦争では状況を好転できず泥沼化して国力を減退させました。アメリカは対中包囲網を各国と結び、その位置を譲らまいとしていますが、今後20年以内にその地位を中国に明け渡さざるを得ない状況になるとも予測されています。コロナ禍においてもウイルスの起源やマスク外交、ワクチン外交などの舞台で対立を繰り返し、それ以前から続く経済戦争はより激しさを増しています。こういった状況の中、河野太郎氏はどういうようなビジョンで日本の立場を決めるのか紐解いていきましょう。

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*前半部分は筆者による国際情勢の簡単な補足を入れ、本書とはあまり関係がないことをご了承下さい。

1アメリカと中国の関係を注視する

「これからやはり注目していかなければならないのは太平洋を挟んで向かい合うアメリカと中国の関係です。」

前項でも述べた通り、21世紀は米中競争の時代になるでしょう。その中で河野氏は中国の経済的、軍事的台頭や権威主義についてこのように述べています。

近年、中国は経済成長を背景に、急速に軍事力を拡大してきました。軍事費の額においてそう遠くない時期にアメリカと肩を並べ、やがて追い越すのは確実と見られています。

中国の軍事装備は近年急速に近代化し、近代的な潜水艦や第4、5世代戦闘機(いわゆるステルス戦闘機などを含む)などにおいては日本の配備数を超えています。


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また、中国は確立された国際法や秩序とは相容れない独自の主張に基づいて、力を背景とした一方的な現状変更を東シナ海や南シナ海などで試みています。

尖閣諸島周辺海域への恒常的な中国海警や海軍の侵入やスクランブル(緊急発進)回数は過去最高を更新しています。また、ASEAN諸国に対しては、「南シナ海における紛争や国内の反政府勢力への支援」などが軍事的脅威となっており、いわゆる「九段線」を主張し、南沙諸島(スプラトリー)には大規模な埋め立てを強行、戦闘機や爆撃機が発着できる本格的な飛行場やミサイル、電子戦装置を配備しています。

また、宇宙やサイバーといった新分野でも軍事的な動きを強め、2019年までに60機の偵察衛星を打ち上げ、50機を超える測位衛星(アメリカのGPS全地球測位システムが有名)である「北斗」の運用を開始しました。

データ管理力を背景とした中国の膨張も脅威です。顔認証システムや過度な個人情報との結びつけによる政府の監視が強まっているとの指摘もあります。

「テロ対策や交通管理といった名目で、顔認証システムを組み込んだ監視カメラのシステムを相手国の都市に供与し、そのデータ管理を中国が請け負うことも始めています。」


2 これからの安全保障

「(防衛装備品から宇宙、サイバーといった領域において)日中の防衛予算や人員でも既に大きな差があります。中略 この差をこれまでの延長線上で埋めていこうとすれば、莫大な防衛予算が必要となり、財政の制約を考えれば、現実的ではありません。」

そこで、この問題への解決策として河野氏は利害の一致する部分の多い「日米同盟」の軍事的な面だけでなく、「経済的な面での協力関係を密接にする必要がある」と述べられています。

これからの中国やロシアといった権威主義国との紛争はグレーゾーンでの局地戦となることが多く、軍事力の介入ではそれを未然に防いだりすることが難しいかもしれません。ですが、経済制裁などの経済的なオプションを持てばヨーロッパ諸国やカナダ、オーストラリア、シンガポールなどと連携して、経済的な圧力をかける戦略を立てることができます。

「日米に加え、自由や民主主義、法の支配、基本的時間といった価値観を共有する国が集まり、万が一の場合にはお互いを支援し合い、中国に圧力をかける同盟組織を真剣に検討するべきです。」

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また、「戦略的自立性」や「戦略的不可欠性」の獲得が大事だと述べられています。

「戦略的自立性とは、社会経済活動を維持するのに欠くことができない基盤を、日本がしっかりと備えることによって、どんな状況であっても、特定の国に過度に依存することなく、日々の生活と正常な経済運営という安全保障の目的を実施することです。」
「戦略的不可欠性は、世界各地に広がる様々なサプライチェーンや産業構造の中で日本の存在が不可欠であるような分野を戦略的に拡大することによって、日本の長期的、持続的な繁栄と国家安全保障を確保することです。」

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(ここからは筆者の補足です。)

コロナ禍においても、当初マスク生産の大半を中国やベトナム等に依存していた日本は急激なマスク不足におちいり、粗悪品のマスクも出回りました。また、ワクチン開発も日本製のものも随時治験に入ったものもありましたが、接種できる段階になく、結果的に欧米の物に依存しています。ワクチンもマスクも外交の手段になり得るもので、これらはパンデミックにおいてはある種の武器であり、それらを他国に依存していたことへの危機感を国内でより共有すべきです。

防衛装備品については尚更そのサプライチェーンの安全性、安定性が求められます。アメリカでは2009年に、精密誘導ミサイルの制御盤などあらゆる近代兵器には欠かせない高性能磁石を製造するマクマネクエンチ社がアメリカ国内の工場を全て中国に移しました。中国はアメリカで開発された最新磁石技術を得ただけでなく、アメリカ軍の供給を依存させることに成功したのです。この事件に関してはアメリカ国内で移転後に問題が明らかになりました。詳しくはこちらの本の第7章をお読みください。(急に雑で申し訳ない。いいニュース記事が見つからないもので)

こうした武器調達における安全保障上の脅威はマグネクエンチ社の例もある通り法整備や規制の薄いところを掻い潜って、いつのまにか軍事機密や優位性が第三国に移っている場合があります。こうした場合、その国と対立した場合には日本が2010年に尖閣諸島漁船衝突事件の後中国がレアアースの一部を輸出制限にした際、先端技術産業で混乱が起きた事と同じようなケースが発生しかねません。ある種の戦略的自立性が有事の際には特に重要視されるのです。

外交

ポストコロナ時代こそ日本の存在価値が生きてくる

サタプロ第39回でもトークショーの話題にした外交。トークショーだったので生徒側の講演者の二人のうち私の方が河野大臣にスライドを用いて受講者の方に近年の外交状況を説明した後、質問しました。質問を要約すると、「米中対立や、コロナ禍で顕在化した格差の問題を踏まえて、今後の日本の外交に求めるものは具体的に何ですか?」これに対して河野大臣は「たくさん紹介してくれましたので、一つ私が外務大臣時代のエピソードを紹介したいと思います。」

1 アジアの民主主義

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「ミャンマーのラカイン州のイスラム教徒の問題で、日本はさまざまな努力をしてきました。ミャンマーのラカイン州に住むイスラム教徒はよくロヒンギャと呼ばれます。しかし、日本政府はミャンマー政府の意向を尊重して、ラカイン州のイスラム教徒と読んでいます。ミャンマーの国民の大多数は仏教徒で、ラカイン州ではイスラム教徒が村ごと焼き討ちになったりして、隣国バングラデシュに避難しています。この時国際社会の立場としては欧米諸国はミャンマー政府や国軍を加害者として責めがちで、国連の人権調査団を受け入れるようミャンマー政府に求め、ミャンマー政府は強く反発していました。一方日本はこのモンファイ時間してミャンマー政府が当事者として積極的に介入することが必要だと主張してきました。

ミャンマーは国民のほとんどが仏教徒でイスラム教徒の側に立つ国連の人権調査団は公平な調査を行うとは思わず、国連調査団を受け入れた場合ミャンマー政府は国民からの支持を失いかねません。その一方で受け入れを拒めば、国際社会からの批判を免れませんでした。そこで日本がミャンマーと欧米との仲を取り持って次のような提案をします。

「2018年4月のG7外相会議では、共同宣言でのミャンマー問題の記述を巡って日本と欧米の意見が分かれ、事務方では調整がつかず、私と欧米側を代表するボリスジョンソン英外相が差しで話して決着しました。私は他国の大臣として初めてミャンマー政府からラカイン州の視察を認められて、訪れていて、その時の様子をジョンソン外相が根掘り葉掘り聞いてきました。後日、彼もラカイン州を視察しています。その後の電話会談でもミャンマーのことを話題にするほどこの問題に熱心でした。話し合いでは、「アウンサンスーチー政権に寄り添うことが必要だ。」という私の意見に対して、ジョンソン外相は「ミャンマーに国連の調査団を受け入れを求めるべきだ。」と強硬な態度を崩しません。」私は「それは返って逆効果になる恐れが高く、日本としては別なやり方を取るべきだと考えています。」と説得し、最後は「わかった。タローの言う通りにしよう。」と日本のやり方でやってみると言うことになりました。

ミャンマー政府は日本政府の勧めもあり、独立調査団ICOEを組織し調査を委ねました。ICOEはラカイン州での大量殺害に関する証言を得て、大量の住民が治安部隊や地域住民によって殺害され、放火 殴打 略奪があったとの報告が集まりました。これに対し、I COEはミャンマー国軍法務局に対して、指揮命令系統全体において責任を有する軍人に関して、必要な操作及び責任追求を迅速に行うことを勧告しました。また、ミャンマー政府と国軍に対して、人権、国際人道法、国際刑事法、及び交戦法規に関する軍人及び警察要員の教育、訓練を強化することを求めました。その結果ミャンマー政府がICOEの勧告に同意しただけでなく、国軍も、軍規定に沿って措置を講ずることに同意しました。これを日本政府は「ミャンマー自身の責任追求に向けた重要な進展である」と評価し、ボリス・ジョンソン首相率いるイギリス政府も「ICOEの勧告は、重要な最初のステップである」と述べました。のちに河野氏は外務大臣としてしたことを防衛大臣としても引き継ぎ、防衛大学校の准教授をミャンマーに派遣し、ICOEが勧告する国際法規に関する教育支援を行うことにしました。


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2 ミャンマーのラカイン州のイスラム教徒問題を解決に動かしたもの

これこそに日本の外交姿勢とその未来が隠されていると河野太郎氏は指摘しています。

欧米のNGOには、「G7はアジアの民主化をもっと加速させるべきだ」と強硬に主張するものもあります。しかし、戦後独立したアジア諸国が一足跳びに欧米と同じになることはできません。一歩ずつ、しかし確実に前に進めるように、アジアの国々に寄り添っていくことが大切です。ー中略ー 自分たちがこうだからといって、他の人々も同じように進むべきだとは言い切れません。

そして河野太郎氏は日本のG7の中での特異性についてこう述べています。

「日本は唯一、欧米のキリスト教的文化圏の外にあり、しかも民主主義、自由主義、資本主義といった価値観を共有しています。私は外務大臣時代、なるべくアジアや中東、アフリカといった非欧米国の視点をG7の議論に持ち込もうと努力してきたつもりです。」

河野太郎氏の指摘の通り、日本は世界をリードしてきたヨーロッパ諸国にはない独自の視点を持っています。例えば中東においてはイギリスやフランスのような植民地支配や三枚舌外交など歴史的事実による摩擦がなかったり、キリスト教的ではなく宗教を押し付けない日本だからこそできることがあると中東の項目でも主張なさっていました。いわゆる河野四箇条「知的・人的支援」「人への投資」「息の長い取り組み」「政治的取り組みの強化につながっていくのです」


日本は経済的つまり石油、天然ガスなど資源の面でのつながりが強いですが、これからは大国としての「中東での政治的関与・責任」を強化していく必要があります。パレスチナ問題 イスラム過激派によるテロ イランの核合意をはじめとする諸問題 アフガニスタン撤退・タリバン占領 国際社会が注目する多くの問題を一つでも解決することはかなり難しいです。今までの日本の外交はこうした問題に提言等はあっても積極的に関わろうとはしてきませんでした。しかし欧米主導の各種政策が息詰まっている現在そこに突破口を見出すのは日本かもしれません。

O D A についても河野氏は詳しく述べられていました。河野氏のODAへの熱い思いが見られる講演の映像がありましたので、詳しい説明はそちらに譲りたいと思います。

これからのODAの未来は量よりも質であり、ここに河野氏の実態を常に重視するレアリストとしての姿勢と人に寄り添うことの大切さを説く姿勢、そして日本にしかできないことを進めていくその突破力が見られます。

最後に まとめと河野氏に期待すること

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ここまで「日本を前に進める」第3章外交・安全保障について前回とはまた違った方法でまとめてきました。ここでサタプロでの話を少々。外交でのミャンマーラカイン州のイスラム教徒問題について河野大臣はお話しなさいました。ICOE設立の経緯を語った後、「日本にしかできないことがやっぱりある。日本人の心と視線で、困難の中にある人を救ってほしい」と述べていらっしゃったことが今でも心の中で響いています。河野氏は日本の国力が衰退していることを念頭に置きながら、こうしたことをおっしゃた背景には前にも述べた通り、「常に実態を正確に把握し、それに基づいた政策を展開するレアリストとしての性格」があると思います。コロナ禍において常に状況を適切に把握してそれに基づいた行政をするというのはとても大事だと思います。

総裁選そして総理に向けて

ネット上では一部のユーザーから「河野は親中派で、親韓だ気に食わん」「河野は日本のことをよくわかっていないやつだ」など事実無根の主張が繰り広げられています。親中かどうかは防衛大臣、外務大臣時代の姿勢をみれば明らかです。河野氏はどこの国と決定的な対立を避けながらも、日本の国益を第一に考えて行動しているように見えます。「中国が軍事力を強化しているのに、どうして中国、韓国の許可が必要なんですか?」この記者からの質問への返答はまさしくこれを示していると言えます。ネット上で中国外交部の報道官 華 春瑩(か しゅんえい)氏とのツーショットを掲げて「ほらみろ河野は親中だ!」などといっている人がいますが、全く指摘になっていません。外交というのは他国との関係を整理し、自国の国益を最優先に重視して友好に努めることです。たとえその国が領海周辺で敵対的な行動をとっていたとしても、トップに近いもの同士は互いを信頼し、最悪の事態を避けるべきです。河野大臣は外務大臣としてまさしく日本の国益にかなう行動をしたと言えるでしょう。

最後に、河野氏が総裁選に勝利後待ち受けているのは、未だ新型コロナウイルス対策に追われ、米中対立のより激化した国際情勢と低下する日本の国力です。日本の国益を第一に河野氏が持ち前の『突破力』と『実行力』を用いて(ちなみにこの二つの言葉は作者がサタプロで河野氏を紹介した文言と同じだったのでメディアでそのまま用いられているのを見てびっくりしました。)どうこの難局に立ち向かっていくのか、ぜひその姿を見たいです。

以上河野太郎最新著作「日本を前に進める」書評とサタプロ担当の徒然草でした。もしよろしければ前回のnoteもよろしくお願いします。

https://note.com/foipkono227/n/nda4d5f62b57c

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