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映画『天気の子』感想 その心は憧憬から献身へと

新海誠さんの最新作、映画『天気の子』を見てきました。

文句なしに最高でした。Blu-rayをくれ。

※本記事のうち「『君の名は。』『天気の子』の一番好きなシーン」の段落には、『天気の子』『君の名は。』のクリティカルなネタバレ、及び『ソードアート・オンライン アリシゼーション編』終盤のオブラートに包んだネタバレが含まれます。

ヒロインのための物語

僕は普段から映画を見るわけではないし、新海さんの作品も『君の名は。』しか見ていないので「これが最高傑作!」と語るのもおこがましくはありますが、それでも『天気の子』は100%王道の青春・ボーイミーツガールでした。決定版!

本作をラブストーリーと呼んでいる人も多いですが、個人的には本作は「恋」の物語でもあるし、「愛」の物語でもあるけど、「恋愛」の物語かと言われるとちょっと違うんですよね。本作の主人公・帆高は16歳、ヒロインの陽菜は18歳……と言えどそうは見えない幼さなので、恋愛模様というには子供過ぎるかな、という印象を受けました。(もしかして自分の視点が上がってしまっているせい?)

でも、この作品の本質は紛れもなく「愛」です。それは「愛してる」というような甘い言葉ではなく、「この人を幸せにするために、全てをなげうつ」という強烈な覚悟です。

幼い彼らのボーイ・ミーツ・ガールは、ともすれば一夏の淡い恋心から始まったのかもしれません。そんな、恋──憧憬から繋がった主人公とヒロインが、物語を通してその絆を深め、やがて、愛──献身へとその心を移ろわせてゆく。そうした心の空模様が、全編を通して描かれています。

僕は長い間、自身の描く物語としても、また楽しむ物語としても、「ヒロインを幸せにするための物語」という芯を第一としてきました。

ヒロインの力を得て主人公の物語が動き出し、やがて主人公はヒロインのためにその全霊を捧げる。例えヤンデレと呼ばれるような結末を迎える物語でも、それでヒロインが幸せになれるなら、僕はハッピーエンドだと捉えます。ともすれば主人公もヒロインも、相手を救うためなら自らの身を顧みないかもしれない。しかし、もしヒロインの幸せな未来に主人公の姿が映っているのだとしたら、それすらも含めた最高の結末を目指す──それが主人公の使命であり、ヒロインのための物語であるということだと、僕はそう考えています。

『天気の子』という作品には、映像表現の美麗さ、キャラクターデザインや素晴らしい作画、映画館音響の迫力、幻想的な世界観、手に汗握るストーリー展開といったさまざまな魅力が詰まっていますが、僕は何よりもその「王道なボーイミーツガールストーリー」に強く感銘を受けました。

『君の名は。』『天気の子』の一番好きなシーン

『君の名は。』で一番好きなシーンは、瀧くんが「もう二度と名前を忘れないように」と三葉の手のひらに自分の名前を書く、はずだったのに、いざ手のひらを開いてみるとそこには「すきだ」とだけ書かれていて、

「これじゃ、名前分かんないよ……」

と、嬉しさと寂しさの混じった表情で涙ぐむ場面。

一方、『天気の子』で一番好きなシーンは、陽菜が失踪した朝、警察に捕らえられた帆高が事情聴取の中で彼女が年齢を偽っていたと知り、

「なんだよ、俺が一番年上じゃねえか……!!」

と悔いるように顔を伏せる場面です。

振り返ってみると、どちらも離れ離れになった主人公・ヒロインが、相手の残した想いに気づき、自らの心に向き直す転換点になっているようにも思えます。

天気の子ではもう一つ、ラストの帆高のセリフも印象的でした。

物語終盤、東京の空と引き換えに陽菜を救う選択をした帆高は、「自分たちの一存で世界を変えてしまってよかったのだろうか」と思い悩みます。それに対し、かつての依頼主である立花さんや編集プロダクションの須賀さんは、「東京のあの辺は元々海だった。結局元に戻っただけとも言える」「気にするな、世界なんてもともと狂っていたんだから」と、大人らしい言葉を投げかけます。

確かにそれは間違いではないし、自分たちはあくまで世界を元あった姿に戻しただけ。世界を変えるなんてのは子供じみた幻想だ──そうやって自身を納得させながら、陽菜に会いに行った帆高。しかし、3年の時を経て高校生になった彼女を見た瞬間、彼は気づきます。

「……違う。僕たちが、世界を変えたんだ。あの夏、あの空の上で、僕は青空より陽菜さんを選んだんだ」

この言葉を聞いたとき、僕は『ソードアート・オンライン アリシゼーション編』終盤のシーンを思い出しました。非日常から日常へ戻り、押し寄せる現実に心褪せていく中、果たしてあの夏の、あの世界での出来事は、いっときの幻想に過ぎなかったのか──

“子供はいつか大人になる”。それは成長であると同時に、喪失でもある。では、誰しも大人にならなければいけないのか? いつまでも子供の心を持っていてはいけないのだろうか?

そうして現実に流されそうになっている僕たちに代わって、彼らは抗うのです。違う。そうじゃない。あの世界は、あの空は、すべて本物だ。僕たちが見たものも、感じたことも、選んだ未来も──すべて、色褪せるものじゃない、と。

『天気の子』は、物語が完結してもなお、最後の最後まで僕たちの心を湧き立ててくれる素晴らしい作品でした。

暗雲を吹き飛ばすような映画音響

『天気の子』では総数5曲の劇中歌が度々挿入され、ミュージックビデオのように場面を彩っています。

その中でも最も印象強かったのが、PVでも流れている楽曲『グランドエスケープ』。

映画館では観客を囲むように配置されたサラウンドな音響設備も大きな特徴ですが、そもそもの大型設備による大迫力の音響演出も醍醐味なのだと実感しました。

こればかりは映画館で聴いてみるほかありませんが、ただ「音量がでかい」「音圧が高い」というだけでなく、まさに新海さん曰く“世界の声”のような、世界の内から心の奥底まで響き渡る、雨のように鋭く、風のように吹きつけ、青空のように澄み渡った歌声が非常に印象的でした。

もう少しいろんな作品を映画館で見ていきたいな、と思えるほど魅力的な物語演出だったと心に残っています。

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『天気の子』は若者に向けた青春の物語でもあり、現代の異常気象をファンタジーとして解釈した作品でもあり、そしてなにより、ど真ん中王道の“ヒロインを幸せにするための物語”でした。

というわけで、『天気の子』Blu-rayと『グランドエスケープ』フルバージョン待ってます!!

余談ですが、『君の名は。』の三葉も、『天気の子』の陽菜も、あるいは他作品ですが文中でも言及した『ソードアート・オンライン アリシゼーション編』のアリスも、三人とも「巫女」という象徴的な役割を担っています。「ヒロインのための物語」と同様、まさにこれも僕が志し、憧れる物語の形の一つであり、僕がこれらを決定的に印象的な作品に位置づける理由の一つとなっています。

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