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特別をもう目指さない。


声優のオーディションに落ちた。


別に、本気だったわけじゃない。

なんとなく女の子はみんな憧れる、可愛い服を着てステージに上がる仕事。

そんなはずがないでしょう、それだけなわけがないでしょう。

声のお仕事、声で人を感動させるお仕事。

なんかやっぱり、努力はすっごく大切で、だけど。

だけどやっぱり、最初から選ばれている人っている。

一生かかっても届かない、それを目指して心をどれだけ削ればいいのか分からない場所に、あの人の道は繋がってる。


分かってるよ、もちろん分かってる。


そこから歩くのには体力が必要で、時には支えられることも必要でしょう。

神様に愛されるだけ掴める運も、最後に掴み切る眼差しの強さも。


私には何一つない、覚悟もない。


控室に入るとき、”ちがうひと”は見てすぐにわかる。

あぁ、何一つ勝てる場所がない。

圧倒的だから。


だから私の番号が呼ばれなくても驚かない。

驚かなかったけど、そうだろうなって思ってたけど、

そりゃあ、どこかで期待してたから。


帰りながら、なんだか少し空しくて。

さっき来たばかりの道を、もう逆戻りしているなんて。


何か準備をしてやってきたわけじゃない。

かける情熱が重いものでもなかった。


ただなんか、漠然とあった憧れは、

もう夢にもならないんだと思った。


それでもまだ目指す?非日常を追いかけて。



目指さないな、私はもう目指さないんだ。


特別な存在になりたい、数多いる女の子たちをかき分けて。

スポットライトに選ばれる、歓声に愛される唯一にはなれない。


だって、その星には生まれていないから。


こうやって、それでも諦めたくないなんていえないから。

いつの日からか心に灯っていた淡い夢は、さっぱりと消える。


だって私が、もう手を伸ばさなかったから。


全ての夢を、諦める?


いいや。


何より大切な夢、一生を賭けたい夢はまだ残ってる。


また選ばれないかもしれない、

圧倒的な何かに押しつぶされるかもしれない。



それでも、諦めたくない夢ってあるみたいだ。


『言葉が好き』私がオーディションで語ったこと。


本気で好きなんだ、誰かの救いになる言葉をあげたい。


ねぇ、例えばの話。


スポットライトの下で輝く、この世界に生きない人に命をあげられるあなたが。

私の言葉に、意志を宿してくれるのなら。


それ以上のことってないね、ないんだろうね。


きっと私は、この夢を諦めない。




『私の書いた文章で、誰かを感動させる』


私の声ではないけれど、私以上にその体温を分けてくれるのなら。

いつか、それが私の目指すもの。



特別なんてもう目指さない。

私は、私自身は特別にならないでいい。なれないから。


私の文章は、私の作る世界は、物語だけは。

どうにか、どうやってでも生き残らせてやる。


伝えたいことがあるから、君にまだ言えていないことがあるから。


だって私、文章で選ばれなくても諦めないよ。



世界でいちばん、圧倒的に好きだから。



この言葉だけは、文章だけは輝いて。


私の一等星、君にあげる。




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