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酵素に期待する人は酵素に何を期待できるのか

発酵食品、それは伝統的で洗練され体にも優しい食品という幽玄な響き。

発酵の「酵」の字ってなんだろう・・・酵素の酵か・・・じゃあ酵素も体にいいんだね!

という単純な話ではございません。

でも酵素を売りにした健康食品とかドリンクとか色々ありますよね。じゃああれは一体意味があるのか?ないのか?

そんな酵素のお話を紐解いていきます。

ちなみに、今回はいつものように最初に簡潔な結論を書くのは諦めました。端的にいうと酵素である意味ねぇよって言いたくはなるんだけど、もうちょっと多面的に眺めてみたいので、お付き合いください。

そもそも酵素とは

酵素とは、生体内外で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子である。(中略)
酵素は生物が物質を消化する段階から吸収・分布・代謝・排泄に至るまでのあらゆる過程(ADME)に関与しており、生体が物質を変化させて利用するのに欠かせない。(中略)
多くの酵素は生体内で作り出されるタンパク質を主成分として構成されている。したがって、生体内での生成や分布の特性、熱やpHによって変性して活性を失う(失活)といった特性などは、ほかのタンパク質と同様である。

Wikipedhia
https://ja.wikipedia.org/wiki/酵素

つまり、
・酵素の主成分はタンパク質
・物質の化学反応における触媒となる
・消化や代謝など生体内外で活躍している
といったところでしょうか。


さて、突然ですがクイズです。

みんな大好きタンパク質(プロテイン)ですが、地球上に最も存在量の多いタンパク質が何かご存じでしょうか?

タンパク質だから、やっぱりお肉や魚かな?それとも昆虫もタンパク質が豊富って言われてるから昆虫?あるいは大豆もタンパク質豊富だよな。


気になる正解は・・・


リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ!!

え、聞いたことない?あれですよ、ほら、通称Rubiscoってやつ。

聞いたことねぇよって方も多いと思いますが、この役割を聞けば納得が行くことでしょう。これは、炭素固定に関連する酵素で、すなわち植物体の中で二酸化炭素という無機物をカルビン-ベンソン回路(還元的ペントースリン酸回路)を経て糖などの有機物に変換するといういわゆる光合成に関連しており、人類にとって欠かすことのできない酵素の一つです。

ちなみに、この反応の効率はあまり良くないようで、だからこそ葉緑体の中に多くのRubiscoが存在しており、結果地球上最大量のタンパク質になっているとか。

ということで突然Rubiscoの話を出してしまいましたが、Rubiscoは緑葉中に多く含まれるタンパク質で、ほうれん草や茶葉などのタンパク質の多くはRubiscoだと言われています。

つまりね、普通に食べてるんですよ、酵素。酵素なんて意識してないけど。なんなら地球上で一番多いタンパク質ですよ?

この事実からも酵素を摂ると体に良いと言われても、そもそも普通に摂ってますけど?と一蹴できています。

つまり酵素なら無条件に体に良いなどと思考停止になることなく、じゃあ酵素がなぜ体に良いという主張がなされるのか、もう少しブレイクダウンする必要がありそうです。

ちなみに、Rubiscoの話は後にも出てくるので、光合成に関連する酵素として頭の片隅に残しておいてください。

酵素の特徴から捉える健康

繰り返しになりますが、
・酵素の主成分はタンパク質
・物質の化学反応における触媒となる
・消化や代謝など生体内外で活躍している
という特徴があります。

これを基本にして酵素を摂取することのメリットを考えてみましょう。

タンパク質としての酵素

しつこいようですが酵素の大部分はタンパク質。つまり、酵素を摂ることは普通にタンパク質を取ることと同じ意味合いは最低限あります。
先ほどのRubiscoもほうれん草に含まれていますが、酵素としてというより単純にタンパク質として、つまり栄養素として使われるわけです。

これはこれで当然意味のあることでしょう。つまり、生体調整(三次機能)ではなく栄養(一次機能)として期待するわけです。

栄養と機能性の違いって何?って方はこちらのコラムをご覧ください。


消化担当としての酵素

我々の体にも酵素は存在しています。

例えば、お米を噛めば噛むほど甘くなるのは、唾液中のαアミラーゼが触媒となりでんぷんを糖に分解するからで、このような「消化酵素」と呼ばれるものは消化管に多数存在しています。(消化器官を「体の中」と表現して良いかは一旦無視してください)

これらの体の中の酵素は通常我々の持っている遺伝子と呼ばれる設計書によって、DNA→RNA→タンパク質といういわゆるセントラルドグマの概念で作られるわけですが、では私とは異なる存在である食品から取り入れた消化酵素が体の中で活躍できるのでしょうか?

それはほとんど期待できない、というのが私の見解です。

まず、消化酵素を摂取したとしても、その酵素が働く最適な条件(温度、pHなど)にフィットしているかわからないということ。

次に、口から入ったとして、胃まで到達するとそこは胃酸の海。強力な酸性の条件では変性してしまう酵素も多く、つまり消化機能は失われてしまいます。実験などで酵素を扱った経験のある人はよくご存じでしょうが、酵素は非常に不安定で取り扱いに気をつけるものが多いです。

極め付けは、そもそもお前誰やねんという話。消化酵素と一口にいっても本来色々あり、でんぷんを分解するアミラーゼ、脂質を分解するリパーゼ、タンパク質を分解するプロテアーゼなど、さまざま。そんないろんな人がいて、仮に消化機能を期待するにも関わらず「消化酵素を食べて消化を助けよう⭐︎」みたいな表現はちょっと都合が良すぎませんかね。主語がでかい。

じゃあ消化酵素を摂取しても全て意味ないの?と思ったそこのあなた!いやいや実はそうでもありません。これ、消化酵素を口から入れても分解されるから意味ないと思っている人も結構いると思いますが、実はちゃんと上の三つをクリアして消化機能を働かせる奴もいるんです!

例えばパイナップルに含まれる「ブロメリン」というタンパク質分解酵素。

パイナップルは春や夏になると好んで食べられる果物だが、直接食べると舌や口がぴりぴり痛むことが多い。それはパイナップルには高活性のブロメリンなどが含まれているためで、それが口腔粘膜や舌、食道のタンパク質を分解するためだ。

https://spc.jst.go.jp/news/180601/topic_3_01.html

うん、働いてるけど悪い方向に行っちゃってるね。ちなみに、60度以上で加熱すると酵素が失活するそうなので、そうすると大丈夫とのことです。

蛇足ですが、この子はゼラチン(タンパク質の一種)を固めてゼリーを作る時にも邪魔するらしく、酵素がちゃんと働いていることはとても実感させてくれる逸品。

また、某社のお肉を柔らかくする粉もパイナップルに含まれる成分と同じ働きの酵素書いてあるので、似たような感じかもしれませんね。

あとは、アルコールを酢酸に変換する酢酸菌由来の酵素を入れたサプリメントをお酒の前に飲む、みたいなのもあるらしいですが、本当に消化管内でも酵素が働く(つまり吸収される前に酢酸になる)のか詳しく知らないので、詳細データをご存知の方はぜひ教えてください。

ちなみに、お薬の中には酵素製剤という形で確かに消化を助けるようなものはあるそうです。ただそれは、体の中でもちゃんと働くことが証明されてるはずだし、そのために色々苦労した(変性しないようにするとかね)上でそうなってるので、食品に対して安易にそれを期待するのはよろしくありません。

代謝担当としての酵素


酵素は体の中でもさまざまな化学変化をサポートしています。例えばお酒を飲むことでアルコールが血中に入るわけですが、それをアルデヒド、そして酢酸に代謝してくれるのも酵素の働き。この酵素は持ってる人と持っていない人、強い人と弱い人など遺伝的に決まっているのはよく知られていますね。

では、ちょっと前に書いた酢酸菌由来の酵素が体の中に入れば、アルコールを退治してくれそう。果たしてこれは起きうるのか?

答えはNOです。これはまず起こることはありません。

繰り返しになりますが、酵素はタンパク質が主成分であり、タンパク質というのは非常に大きい分子であるため、そのまま小腸から吸収されることはまずありません。つまり、もっと小さい単位のペプチドやアミノ酸にまで分解されてから吸収されます。そうなったら酵素も何もなくなり、ただのペプチドアミノ酸。酵素としての機能を発揮することはまずないでしょう。

代謝酵素は、ちゃんとその設計図があるかどうか、またその設計図をもとに酵素を作ることができるか、という体の中での調整が重要であり、外から取り入れてなんとかできる代物ではないことは覚えておきましょう。

だって、ほうれん草食べてRubiscoを摂取しても、我々は光合成できないでしょ?つまりはそういうことです。我々は光合成するための酵素を作る設計図を持っていないのです。

酵素の働きから捉える健康


うーん、ここまで酵素の分があまりに悪い。タンパク質とほぼなんも変わらないか、なんならちゃんと働いてたら舌や食道を分解してヒリヒリさせる張本人みたいなむしろ悪者になってる。

では酵素自体ではなく、酵素が働くことのメリットは何かないだろうか?

可能性があるとしたら、やはり酵素が食品成分の分解をサポートするので、それによるメリットを考えることでしょうか。

例えば、タンパク質分解酵素とタンパク質を反応させることで、分解されてアミノ酸やペプチドになります。
これを体の中で行うのではなく、製造工程の一つとして入れることで低分子化することで、体の中での吸収スピードを高めるなんてことはあるでしょう。そんなプロテイン製品やコラーゲン製品は確かにあります(酵素を全面に推すことはあまりないでしょうが)。

また、植物などのエキスを発酵熟成して(つまり酵素が働くようにして)、高分子のものを低分子にすることで、体での消化の負担を下げて栄養補給しやすくする、なんて酵素系商品もありますね。この場合は酵素そのものの良さではなく、酵素でできたものの良さを売り出しているようです。

そもそも体での消化の負担を下げるのがどこまで良いのか?とか、低分子化して悪いこともないのか(食物繊維が糖になってないよね)?とか、気になることはちょいちょいありつつ、酵素で反応させること自体は食にさまざまな可能性を与えることは確かにありそうです。

酵素とトクホ/機能性表示食品

ということで、私の知る限りでの酵素のメリットはそんなところです。

酵素自体に期待するなら栄養補給として捉えるならまあそうかなとは思うので、栄養成分表示のタンパク質の欄を見て判断したらいいかなと。
酵素の働きからできたものに期待するなら、低分子化されることに何か期待できるならそれもありかもしれません。

機能性の観点で言えば、少なくともトクホや機能性表示食品で酵素を推し出した製品は私や知る限りありません。ちょっと調べた限りでは、商品名は酵素推しでも、機能性関与成分は別(食物繊維や乳酸菌など)の物はどうもあるようですが。もし酵素が関与成分になっているものがあればぜひ教えてください!

どちらかというと、体の中にすでにある酵素の働きを調整することで、食品の機能性を発揮するものはたくさんありますけどね。

例えば、

αグルコシダーゼという糖の分解酵素の働きを阻害して、血糖値の上昇を緩やかにするもの。

膵リパーゼという脂肪の分解酵素の働きを阻害して、脂質の吸収を抑え、食後の中性脂肪の上昇を穏やかにするもの。

ACEという血圧上昇に寄与する酵素の働きを阻害して、血圧高めの方に効果のあるもの。

脂質代謝に関わる遺伝子発現を促し、関連する酵素を増やして脂肪を燃焼させるもの(語彙力に難)

などなど。酵素自体を摂るのではなく、体の中の酵素を制御する方がむしろ現実的です。

結局酵素が関係あろうとなかろうと、それはあくまでメカニズムの話であって、健康食品一般としてどう付き合っていくかに変わりはありません。

どう付き合っていけば良いかは以下のコラムに色々まとめたので、「酵素が気になるなぁ」と思ったらその前提としてこちらを参考にしてみてください。


酵素とファスティング

最後に・・・触れようか迷いましたが触れてみますが、なぜかファスティングと酵素がセットになっているものをよく見かけます。

理由はよくわかりませんが、「ファスティングで悪いものを排出して、良い酵素を取り入れよう」という話であるなら、それが望み薄であることはここまで読んだ方ならわかるでしょう。

結局ファスティングと酵素が繋がるのって何故なんでしょうね??

大前提として、厚労省など公的機関でファスティングの効果や有用性に触れた物はまず見当たりません。なので、まず万人にとって良いということはないでしょう。正直なところ私はファスティングに関してそこまで詳しくないので、取り急ぎデトックス関連で検索して出てきたものを引用しておきます。

「デトックス」および「クレンジング」について研究でわかっていることは?
人に対する「解毒」プログラムに関する研究はごくわずかしかありません。体重や脂肪の減少、インスリン抵抗性、および血圧に関して有益な結果が得られた研究もありますが、それらの研究自体は質が低く、研究デザインに問題があったり、参加者が少なかったり、またはピアレビュー(品質を確保するための他の専門家による評価)がないものもありました。

2015年のレビューでは、体重管理または体から毒素を除去するための「デトックス」ダイエットの使用を裏づけるための説得力のある研究はなかったと結論づけられました。2017年のレビューでは、ジュースのみの食事と「デトックス」による食事はカロリー摂取量が少ないために初期の減量を可能にしますが、通常の食事を再開すると体重が増加する傾向があることが示されました。「解毒」プログラムの長期的な効果に関する研究はありません。

厚労省eJIM   https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c05/07.html

すべての絶食プログラムは「デトックス」および「クレンジング」とみなされますか?
一部の絶食プログラムでは「デトックス」をうたい宣伝されている一方で、断続的断食法(intermittent fasting)および定期的断食法(periodic fasting)などの他の絶食プログラムは、健康増進、疾患予防、老化の改善、そして場合によって減量について研究されています。しかし、それらが人の健康に及ぼす影響について確固たる結論は出ていません。絶食は、頭痛、失神、脱力感、脱水を引き起こすことがあります。

厚労省eJIM   https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c05/07.html

極端な食事制限は体にさまざまな悪影響を及ぼす恐れがあるので、そもそも私は推奨しません。ただ、どうしてもという人は管理栄養士さんなど頼りになる人のサポートを受けながらならいいんじゃないでしょうか(多分管理栄養士さんで勧めてくれる人もいないでしょうけど)。

まとめ

ということで、最後は完全にファスティングの話になってしまいましたが、食品と酵素に関してはこんなところです。

酵素自体は発酵においてメインの働きをしたり、食品製造において重要な役割を果たしたり、生体調節のターゲットとして関与したり、重要な物であることは間違いありません。

なので、酵素自体を眉唾なものと考えるのではなく、酵素のことをよく知って、酵素がどう関わっているのか考えながら付き合ってみてください。

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