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Middlesbrough vs. Hull 〜適切な戦術〜

EFL Championshipは第21節。
2週連続でDAZN放映カードに選ばれたHullは、Middlesbroughのホームに乗り込む。

ホームのMiddlesbroughは見事なまでにスタートダッシュに失敗したものの、まさかの6連勝で復調。昨季の勢いを取り戻しつつある。しかし、また連敗が続いているのでここで連敗をストップしたい。

一方、前節のHullは降格圏のQPRに対し敗戦を喫してしまい、プレーオフ圏から離れる形に。なんとしても圏内を確保するためには連敗を避けたいところ。

お互いに勝利が絶対で連敗を止める・避けるための重要なミッドウィークの一戦。

ゲームハイライトはこちらから。↓


前半

スタメンから確認する。
Middlesbroughは前節から1枚を入れ替え、右SBにはDijksteelが入った。ターンオーバーはせずに臨む。
Hullは3枚を入れ替えた。大きく変わったのはSH。前節負傷交代のFhilogene(左SH)は出場できない。左にはTwine、右にはSlaterが入る。


コンセプトの観察

では、早速両チームのコンセプトから見ていく。

やはりボールを保持する時間が多いのはHull。
前節はボールを繋ぐことに固執したがために序盤から苦しむような展開であったが、今節も序盤はしっかりボールを繋ぐことを大事にする。とはいえども、プレスがかかっている状況も多いため、ロングボールの使用率と頻度は今まで以上に高くなっている印象。

ボールを持つHullに対し、Middlesbroughは前からプレスを施行。相手のCB(GK)保持時は、4-1-3-2のような形で嵌める。全体的にコンパクト。
トップはCBやGKへ向けてプレスを開始し限定方向の決定と、ボールのリリースを焦らす役割を果たす。それに合わせて周りは連動しマークの決定と囲い込みの動きをする。

Middlesbroughの狙いは前からのハイプレスからのショートカウンター。
Hullは繋ぎながら前進を目指す。これは哲学的に変化はなさそう。

Hullビルドアップの入り口
橙:Hull 赤:Middlesbrough


逆の立場から。
Middlesbroughは保持時はビルドアップの意識は高く繋いで前進することに恐れない。相手のプレスを掻い潜りながら前進・侵入を試みる。GKも使いながら。
入り口は3+1の形で、相手の2トップに対し最終ラインが3枚。相手のCH2枚に対してアンカー1枚で2v1の局面だからこそマークが曖昧になる。

Middlesbroughビルドアップ入り口


Hullも前からのプレスを継続し高い位置での奪取を目指す。しかし、プレスの効果はそこでで、食いつきすぎて狙い目(奪い所)がない状態が多くあるので剥がされる・逃げられるで全体的に空回りな守備をしてしまう。相手のSBで強くプレスをかけることを狙いとして持っているが、そのプレーを実行できているかは不明。CBに対してもどこでもプレスが強く、スイッチが入ったままで落ち着かない。

(前プレ時に5バックになり陣形を変化させているシーンも一瞬あった。5-3-2の形で守る。しかし、これでは3の両脇が空いてしまうのでサイドから前進される。大外のハントを狙い目にしていてもここでは嵌めない?その後の、SBのところで攻撃をストップできれば良いのだが、引き込ませて前線にかかるリソースを減少させるイメージなのか…。結局5バックを使ったのはこのシーンだけだった。)

というか、そもそも陣形的に嵌まらないのでプレスをかけても逃げられる。相手の最終ラインの3の外で逃がされプレスが無効化。ここで前向きに持たれて前進を許す。その外に対してSHが出ればプレスが連続するが、SHは相手のSB(さらに大外)を気にしないといけないので簡単にはいけない。味方のSBにマークを預けようにも次は、SBがマークしている相手のSHが空いてしまうのでズレが連続してしまう。
さらには、DFラインと中盤のライン間にもスペースが生まれてしまいここで前を向かれる(相手のトップ下がいる+CBはトップにマーク+CHは前プレに連動したい=それぞれのマーク・意志によってラインをコントロールできない)。マークを気にせずにゾーンの原則のように味方の動きに連動するならこういうことは起きないが、どうしてもマークを捕まえておかないとフリーが発生するので簡単にチャンスを作られる。状況に応じての使い分けかチームスタイルに委ねられる。

Middlesbrough保持時の事象


食いついてくるプレスに対し保持側のMiddlesbroughはプレスが来たらリリースして次に渡すを繰り返しシンプルに繋ぐことだけに注力。来たら離すをしていれば奪われることもないので、ただそれだけ。
ゾーン2付近からは中盤での入れ替わりや前線へのスペースへの放り込みでカウンター的なサッカーを展開する。擬似カウンター的な雰囲気があり、守備からショートカウンターを目指しているように保持からもカウンターを仕掛けという一貫した狙いがある。

Hullは相手の攻撃に対し中盤だけでなく自陣でも緩さが出てしまい、簡単に深い位置まで入られてしまいピンチが多数。ストップする位置が定まらないとこのままだ。なるべく中盤のところで潰しきって、逆に自分らの攻撃に繋げたい。

皮肉にもHullが目指す攻撃はMiddlesbroughが展開する。
前節同様に、相手に本来やりたいことがやられているよう…


Hullの保持とMiddlesbroughの守備

コンセプトのところでお互いの狙いはわかったがもう少し細かく。

Hullは保持する時間が多い中で、前進するきっかけを探す。
ビルドアップの出口はSBのところであるがそこから前線へボールが入らない。これも前節同様の流れ。ビルドアップからアタックに移れないことが多い。左サイドからは前進の雰囲気を感じることはあるが、右サイドではロストやミスが目立ち嫌な雰囲気。単純にタテにつけようとし過ぎているがためにDFにプレーが読まれている。左サイドでは連携を活かしてワンツーで局面から脱出するシーンは度々ある。

そんな中で前プレを仕掛けるMiddlesbroughは前半6分。
左サイド(Hullの右サイド)でボールを奪いショートカウンター。ポケットへ侵入しボックス内の混戦をRathが流し込んで先制に成功。良いネガトラでボールを奪取し素早いポジトラで仕留めた。
前プレ施行の意識から高い位置でハントし先制。奪ってからの速攻というコンセプトがハマった。ポケットを取る流れもスムーズでこれも狙いになっていそう。

得点シーンの前からMiddlesbroughは、HullがSBを出口にビルドアップすることはわかっていたので、中盤にはマンツーでついてコースを警戒しSBに出た瞬間にスライドしプレスを強める(圧力をかけて囲い込む意識)。
そして、Hullの右サイド(Middlesbroughの左サイド)のところをハントの狙い目に設定した。
設定したことに関わるのかはわからないが、試合開始からHullの右サイドではミスが多発しており奪取できると思っていたのかもしれない。そしてビルドアップを観察すると右SBに対してはタテを切れば前進はないと理解し、ここでプレスを強めれば取れるだろうということに。

Middlesbrough守備時のハント


なので、Hullは右サイドでのミスやロストがさらに増加した。パスカットされる回数も多くなった。奪われる位置と奪われ方が悪かった。
ビルドアップ時に嵌められてミスを拾われアタックされる。ビルドアップ時は前への意識を持ってリソース(枚数)が前線なので、奪われてショートカウンターを喰らうと数的不利でピンチ。

また、ゾーン2では受け手にボールが入るも前を向けない。後ろ向きで受ける機会が多い。SBもCHもマークを背負っているのでターンもできる余裕がない(プレッシングを受けている)。SBのミスが多いのはこれも関連しており、消極的な選択(バックパスで下げるしかない)だけに強いられているということも考えられる。
という状況では、レイオフのように2,3人目が関わるなどの工夫が欲しい。受け手へのサポートでおとしを受けて前を向くなど。受け手が孤立して囲まれる前にボールの逃し口を作っておく。逃し口が前進のきっかけにもなり得る。

CHは前を向けない
レイオフ的な工夫


脱却するためには

ビルドアップからアタックに移れない中でロストし失点してしまったHull。これ以上同じような展開を避けたい。

そうなるとロングボールの使用が多くなる。コンセプトでも多いと書いたが失点後はかなり増加したのでここでも書いておく。

ロストのリスク軽減と中盤のコースを使えない(=展開できるプレイヤーが捕まえられている)で、ポゼッションからの前進を諦めざるを得なくなったので、GKからのロングを使用。しかし簡単にはチャンスにはならない。なぜなら、ここの時間帯ではプレスから逃げることを意識して蹴ってしまっているから。狙い目のないロングは最終的にロストするだけになる。また。単純な攻撃になるので相手は対応しやすい。

というプロセスを続けていくと段々と擬似カウンター色が強まってくる。いつもより早めの導入である。
しかし、相手も前プレに伴い最終ラインも高くなっているので一発でウラを狙うのは効果的である。ウラへ蹴ればラインが下がる=プレスライン下がる=自陣での回しに余裕が生まれる という効果にも期待できる。

その恩恵かビルドアップから前進を試みて敵陣ハーフスペースをとって一気に侵入。ポケットやボックス前まで行きチャンスも雰囲気も呈する。ただ、敵陣での攻撃のアイディアがないので決定機を作るまでには至らない。前節の前半のように、サイドで仕掛けられるプレイヤーがいればなんとかタメを作ったり・DFを引き付けたり・サイドアタック仕掛けたり とできれば良いのだがメンツ的にサイドで1v1ができるようなプレイヤーがいない。それがFhilogeneなのだが今節は負傷でいない…。

敵陣侵入し保持していても、サイドで時間を作れず落ち着けない。結果、慌てて繋いで崩そうとするしかなく奪われる・チャンスが潰れる。


リードの保持

リードのあるMiddlesbroughは、攻め方を変えてきた相手に対しては冷静に対処しつつ、自陣ではゴールへのルートを閉めながらもボールへはチャレンジし奪う意識はやめない。

また、攻撃時にはショートカウンターや速攻性も落とすこともしない。カウンターを目指しているが、時にはブロックを組まれることもある。なので、敵陣侵入後はブロックを崩すためのプレーに変わる。サイドを変えて揺さぶることやワンツーで打開するプレーなど工夫は仕掛けている。
ブロックを組まれる前に素早くシュートまで到達することも大事なのでこれももちろん意識。

ただ、敵陣ではショートカウンターがハマるのでセカンドの回収やプレス時のこぼれは拾い切る。これも継続。

カウンター時やブロックを崩すときに共通していることはポケットを狙うこと。サイドが持った際にアンダーラップでポケットへ侵入するプレイヤーが存在しており、ここまで入れば得点の雰囲気がある。先制点もポケットをとってからだった。攻撃時の目的・目標としてはっきりしている。

このポケットを取るためのサイドアタックも守備時に重きをおくのも、どちらも左サイドからで攻守においてポイントとなるサイドになっている。

Middlesbrough ポケットの狙い例


前半終盤へ

ロングボールからシンプルな押し込み・チャンスメイクで攻撃時間を増やそうとしたHullは、終盤になっても保持時間が多く支配はできている。しかし、決定的な場面を作れないのも変わらない。

Middlesbroughは守りに重きもおきながら、攻撃的な意識を忘れずにプレス・カウンターといったことを継続。相手の思うような展開にはさせない対応を取り続ける。

そのまま前半は終了。1-0でホーム Middlesbroughがリードし折り返す。
Hullは前半でシュートは4本(枠内1本)のみ。Middlesbroughは7本(枠内2本、1ゴール)。


後半

対応され続けチャンスさえも作れないHullはどう改善するのか。リードのあるMiddlesbroughはどういう試合運びをし試合をクローズするか。そんな後半が開始。


継続的な取り組み

後半序盤のお互いのスタイルを見ると、攻撃の部分ではそれぞれ変化はない。

Middlesbroughはタテへ速いカウンターのスタイルを継続。サイドから逆サイドまでの展開も速く、素早い展開からゴールへ迫っている。良い流れと連携・距離感。前半のように鋭さのある攻撃を繰り広げる。

Hullは背後への狙いをはっきりさせウラを狙う回数が増える。前半中盤ごろからの擬似カウンターの色を完全に出してきている。
ビルドアップでSBのところで嵌まることが多かった前半に対し、SBはボールを受けてからプレスを受ける前に前線へロングボールを供給しウラ返す。前半だと、前線へのボールは地上のゴロパスが多く足元へ向けたパスが多かった。しかし、後半は相手の背後・ウラのスペースを狙うことにし、受け手もウラへ走って受けようとする。

このようにお互いの攻撃コンセプトは前半(終盤)から変わらない。


Hullの守備時の工夫

前半の前プレは嵌まらなかったHullは後半はしっかり修正してきた。

相手の最終ライン3の外に対してはSHを繰り出し、SBはそのSHの後ろを追跡し次の受け手へかける。次の受け手とは相手の大外(SB)のこと。さらに、Middlesbroughは保持時にSBが開くとSHが中に入る動きを見せる。これで中に入ってくるSHはHullのCBが見ることになり、HullのSBは後方のマークを気にせずに前へ前へとプレスに出ていける。

また、SHを最前線に配置し3枚でプレスを開始することもあり、これなら相手のビルドアップの入り口の3に対し同数でプレスをかけられる。リソース不足がないのでどちらのサイドにボール動かされてもマークが付いているので前線からのプレスが嵌まらないということにはならない。

Hull守備の改善1
※後半なのでコートチェンジしている
Hull守備の改善2


このようにし後半序盤から前プレの嵌め方が決まったHullは守備での課題をなくすことに成功。

さらには、ボールへのチャンレンジが増える。前半はプレスをしていてもそこまでボールを刈り取るようなことはできず、構える形でボールへのチャンレンジが少なかった。そうして前進されて自陣では交わされるという緩さが目立った。しかし、後半はプレッシングの変更で囲い込みから激しくボールにあたれる自信がついた。ボールを奪うという意識をしっかり持ち奪取の回数が増えた。

対応されたMiddlesbroughは前半のようにスルスルと前進することはできなくなる。
サイドでの配置にアレンジを加えてしまい、それが逆に嵌まってしまった。先ほど書いたように、SHが中に入ってボールを受けようとする。すると、前線で幅がなくなり、サイドウラを狙うプレイヤーがいないため脱出ルートがない。前進のきっかけになるパスコースに入りたい。前半はシンプルにウラを狙っていたがそれがなくなると攻撃の方法が少なくなってしまう。カウンター色のある展開を狙うがそれさえもできない。

SBとSHが同レーンに入ると嵌ってしまうことがあるから工夫したのかもしれないが、ここではSHが開いたままなら相手のSBをピン留めでき自陣での保持時に受ける圧力を軽減できる。ビルドアップの開始から枚数的にもズレを生み出せているが、逆にそのズレを埋める(相手にアシスト)ような形になってしまい自ら苦しむ形になってしまった。


ペースを掴んだのは

攻守において自信をつかみ、やり方がオーガナイズされたHullはここから一気にペースを掴みに行く。

リードを守るためにブロックを敷き始める相手に対し自陣からの放り込みで速攻へ。ブロックを組まれる前に敵陣へ侵入しチャンスへ。という形でシンプルに攻める。自陣で持てば相手は前プレで前がかりになるのでその瞬間を狙う。

すると、69分。前線への放り込みから押し込みCKを獲得。右CKから最後はDelapが押し込んで同点。明確にした攻撃が功を奏し得点に繋げる。

そのようなシンプルながらも効果的な攻撃を継続すると、82分。
ロングフィードから敵陣でセカンド回収し左からサイドアタックを仕掛ける。途中出場のVinagreがクロスを供給。ファーでこちらも途中出場のDochertyがおとし、ボックス浅いところからこれもまた途中出場のTufanがねじ込んで逆転!途中出場のプレイヤーが躍動し逆転まできた。

この2点目では、1stがハイボールを競れたこと・セカンドを拾えたこと・クロスまで行けたこと。この3点をしっかりと遂行できたからこそ生まれた得点。ロングを使う上で行うべきことを行いゴールまで漕ぎ着けた。

放り込むというシンプルな攻撃方法であるからこそ、やるべきタスクがはっきりし相手より出足が良くなったことも大きく関係しているだろう。


終盤へ

保持時に対策され、前プレはウラ返しで剥がされ….で様々な後手を踏んで逆転を許したMiddlesbroughは攻めに行くしかなくなる。

攻撃はここでもカウンターからのチャンスやセットプレーの流れから。しかし、Hullの決死のブロックを前に決めきれない。得点という大きな成果をあげれない。

Hullは4-4-2のブロックで堅く。安定的な守備を行い確実に勝利を掴みに行く。セットプレーでビッグピンチを迎えるもGK Allsoppのビッグセーブもあり失点を防ぐ。

結局1-2でHullが敵地で逆転勝利。
苦戦のデジャヴかと思われた展開の中で戦術を整理し逆転まで持ち込むという爽快な結果に。逆に敗れたMiddlesbroughは同じような展開で2失点。1失点目の時点で守り方に不安を感じなかったのか。修正は試合を通じて行われなかった。前半から対応できていることで驕りが生まれたのか…?


総括

Hullは仕切り直しの勝利。ここから連勝を続けていくことが大事になる。しかし、内容的には満足できない部分があり2試合連続で先制を許す展開になっている。前半からリードを持ち優位に進めるという余裕のある試合を目指したい。そして、サイドアタッカーのいない状況でどう攻めていくのか。今節はシンプルな形から点を取れたが、他のチーム相手にはここまで簡単にやらせてもらえないかもしれない。一辺倒な戦術だけでは戦えない。という中でポゼッションの重要性が出てくるか。柔軟な使い分けをしながら適切な戦い方に期待。

Middlesbrough。前半から整理された守備と特徴的な攻撃で相手を苦しめていたが、それが後半に対応されてどうしようもなくなってしまった。相手の変化に対し自分らはどう対応すべきなのかが明確にならなかった。
わかりやすく押し込んでくる相手を抑えきれず。2失点ともアプローチのされ方が同じようだったのが残念なところ。しかも、連続失点ではなくある程度時間が空いた中での2失点目だったので修正できる時間はあったのでは。たまたま、失点してしまったと考えられるがそういう結果になってしまった以上言い訳はできない。試合運びとクローズの仕方に不安を感じる。

両チームとも次節は勝ち点差の小さい相手との一戦。(HullはCardiffとで3差、MiddlesbroughはSwanseaとで2差)
落とせばひっくり返る可能性のある中で自分らより順位の低い相手に勝利を奪いたい。

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