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【離婚後共同親権】世論はどのように操作されるのか(8)「リベラル雑誌で繰り返される、共同親権プロパガンダ」

※前記事

前回までにご紹介したように、離婚後共同親権は、与野党の垣根を超えて、その実現を様々な思想的バックボーンの政治家たちが主張しているという、”同床異夢”な状況となっています。

そして、残念なことに、社会の木鐸であるべきジャーナリズムの世界も、似たり寄ったりというのが実態です。

その代表的な例が、朝日新聞系の週刊誌「アエラ」で繰り返される、離婚後共同親権のプロパガンダ報道をみてみましょう。

嚆矢となったのは、以下の記事です。

無邪気な前提、そして詭弁のオンパレード

ひとり親という言葉があるが、亡くなったのではなく離婚をした場合の表現としては、実はおかしい。離婚をしても、子どもにとって親はふたり。子どもはどちらの親からも愛されて育つ権利があるはずだ。
(記事より)

という陳腐な問題提起から始まる本記事において、筆者・上條まゆみ氏は、「(離婚後の父親の存在は)タブーではない」「母親も離婚のダメージを最小限にできる」という理由から、共同養育の必要性を訴えています。

しかし、前提が薄っぺらい。

面会交流をしていない理由は様々だが、母子家庭の場合はとくに「相手とかかわりたくない」という答えが目立つ。そう、多くの子どもたちが、親同士の感情のもつれから、片親との交流を奪われているのである。

という冒頭部分は、「かかわりたくない」という表現が「奪われている」という表現にすり替えられ、露骨な藁人形論法を用いています。

そして、共同養育の推進をはかるNPOの関係者の発言を次のように引用しています。

「私が考える共同養育とは、子どもが両親の顔色を見ずに素直な気持ちで『お父さんに会いたい』『お母さんに会いたい』と言えたり、自由に行き来したりできる環境を、親同士が協力し合ってつくっていくことです。その環境さえあれば、たとえ親同士が直接顔を会わせることができなくても、共同で養育していると言えると思います」
(記事より)

このNPO関係者の主張は、ご自身が元夫に対し、父親としての交流再開を提案し、それが上手くいったという、たった一事例に基づいた主張です。

実際に、子どもが監護親に遠慮している可能性は否定できません。しかし、”それが全て”であるとなぜ断定できるのでしょうか?

あまりに無邪気すぎる前提というほかありません。

皮算用と決定的矛盾

そして、共同養育のメリットが監護親にもあるとして、次のように主張します。

「離婚をしたからといって一人で子育てを背負おうとはせず、相手のマンパワーも活用することで、時間にもお金にも精神的にも余裕が生まれます」
(記事より)

養育費の支払い率がこれほど低い国において、子どもと会えるようになったら、突然経済的負担を男性が担うという前提は、根拠が全く不明です。
正直申し上げて、ただの皮算用というほかありません。

百歩譲って、上條氏の目論見通り、上記のような効果が生じるならば、現在、離婚後においては原則として面会交流を実施されるため、ひとり親家庭の経済環境が劇的に向上していなければなりませんが、それを示すデータはありません。
決定的矛盾です。

繰り出される似非科学と事実の歪曲

上條氏は、2020年の後半から、「アエラ」電子版上において、精力的に離婚後共同親権の導入を訴える記事を掲載し始めます。

冒頭に「世界の先進国のなかで、離婚後の単独親権制度をとっているのは日本だけ。」という重大な事実誤認があるほか、離婚後共同親権を積極的に主張する土井浩之弁護士(仙台弁護士会)の、「強制的共同親権」というファナティックな主張に基づいて、記事を組み立てています。

医学上の根拠が証明されておらず、主に非監護親のみが主張するという似非科学、「片親疎外」を取り上げた記事。記事には片親疎外に関する医師等の専門家の見解は一切掲載されておらず、反対に監護親(父親)側から出された児童精神科医の診断書に、非監護親(母親)の感情的な非難コメントのみで反駁したうえ、判例上存在しない「連れ去り勝ち」論を展開しています。

なお、この記事で紹介されている監護親(父親)、非監護親(母親)というケースは、実は非常に少数です。(現在、親権者指定は90%以上が母親になる、という統計があります。)
離婚後共同親権は、主に監護親(母親)・女性から大変評判の悪い制度です。女性からの支持を集めようという、露骨なプロパガンダの意図が透けて見えます。

アンフェアに編集された双方の主張

これまでの記事では、「一方当事者しか取材していない」という批判が多かったので、少しはこたえたのでしょう。
2回に分けて双方の言い分を掲載しましたが、これが轟々の非難を浴びることになります。

読み比べていただけるとわかりますが、本ケースでは、妻側に精神疾患、DVがあり、妻側の問題が多いケースです。
ところが、この記事では夫側のモラルハラスメントを上條氏はほとんど問題にしていません。治療の必要が明らかに認められる妻を転居させるという、医学上考えられない暴挙に及んでいるにもかかわらず、です。
また、夫が妻にワンオペを強いていた事実も本人の弁解をそのままスルーしています。

この2本の記事では、奇妙な事実があります。
夫は反省の弁を何ら述べていませんが、妻だけが一方的に反省している、という構図です。

この奇妙な事実を上條氏は全く調べようとしていません。まるで、双方の言い分がそのまま真実として取り扱って良いかのように。

もはや手抜きです。

果たしてこれが、「連れ去り」なるものの実態を一般的に反映しているといえるのでしょうか?
離婚後共同親権に反対する、猪野亨弁護士(札幌弁護士会)は、次のようにツイートしています。

レアケースを過度に一般化する詭弁

これらの記事は、日本の離婚カップルに一般的にみられる傾向、
・DVやハラスメントは男性が圧倒的に多い
・親権者、監護者は女性が多い
・「連れ去り」被害を主張するのは、男性の非監護者が圧倒的

といった事実を1つも代弁していません。

しかも、コメントを寄せた弁護士は、共同親権推進派の中でも非常に稀な「強制的共同親権論」を主張しています。

これが、法政策として離婚後共同親権の実現を正当化する、”立法事実”だといえるでしょうか?

一般的な傾向からではなく、レアケースを過度に一般化する典型的な理由は、それが事実の解明ではなく、自説に有利な事実だけを取り上げるマッチポンプ、すなわちプロパガンダだからです。

(了)

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