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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~小さいままで生き続ける~

  さて、今回もかつての里山に生える低木の続き。上はマンリョウという木。高さはせいぜい1メートル。深い緑色をした葉に真っ赤な実を付け、”二色効果”で鳥の目を惹きます。名前が名前だけに庭木にしたり、飾り物に使われたり。寒い冬の森のなかで実をつけているので、冬眠をしない鳥たちの貴重なエサになるようです。

 ちなみにセンリョウという植物もあり、ヒャクリョウ、ジュウリョウもあります(イチリョウもあったか‥?)。センリョウというのは実際にセンリョウという低木があるのですが、ヒャクリョウはカラタチバナ、ジュウリョウはヤブコウジという低木のことを指します(イチリョウはツルアリドウシだったか?)。どれも赤い実が付くので、付く量によってかつての人たちが遊びながら呼びはじめたのではないでしょうか。さらに最後に、アリドオシ(こちらは”アリドウシ”という低木がある)をつけることもあり、この話を聞いたとき単純に、おもしろいなと思ったけれど、よく考えるてみると、植物の世界にまで人間の欲を持ち込んでしまって、「なんだかな・・」という気がしないでもありません。

 上はミヤマシキミという低木の花。この花はまだ肌寒い早春から咲き始めます。実の色はやはり赤。このミヤマシキミも先のマンリョウも一年中、葉をつけている常緑樹。常緑樹は吸収する光の量が少なくても少しづつ成長するので、光が届きづらい森や林の地面(林床=りんしょう)にあっても生きていくことができます。

 一方、上はモミジバイチゴ。高さはせいぜい1メートル程度の低木。冬に葉を落とす落葉樹なので、陽の光が少ない森や林の”なか”にはあまり生えず、陽当たりのいい森の切れ目や、同じように冬に葉を落とす落葉樹の林のなかで見かけます。

 マンリョウにしろミヤマシキミにしろ、そしてこのモミジバイチゴにしろ、どれも1メートルを越すような高さにはなりません。森の地面でせいぜい1メートルほどの高さのままで花を咲かせ、実をつけ、子孫を残していきます。それが低木の低木たる由縁なのですが、かつての大学の恩師が、「低木が低木のままって不思議やないか?」と言われたことをいまでも思い出します。大学生だった頃は師が言うことをそれほど不思議には思いませんでしたが、いまではその不思議さがわかる気がします。木は空に向かって高く伸びていくもの。でも、低木と呼ばれる木々はどういうわけか背の低いままで生き続けているわけです。

 低木には「高さ1メートル以上には伸びない」というような情報が遺伝子にインプットされているのでしょう。でもどうして、「1メートル以上には伸びない」ことにしたのか。それは、「そのほうが生きているのに都合が良かった」ということなのでしょう。森や林に生える木がどれも高さ20メートルほどになる木だったらどうか。当然、ひとつひとつの木が生きる空間は狭くなってしまいます。でも、20メートルもの高さにならず、10メートルほどの高さや1メートルほどの低木の姿で生きる道を選んだらどうでしょう。そこには生きていく空間が十分に広がっているわけです。

 こうして、低木が低木のままでいる、というのは、他の種が生活場所としなかった場所(専門的には”ニッチ”といったかな?)を生活場所にしようとした結果なのだと思います。わたしたちは木といえば枝葉を広げ、大きくなるもの、と思いがちですが、低木と呼ばれる木のように、大きくならずに生きている木もあるわけです。

 

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