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CHAGE&ASKA「砂時計のくびれた場所」について

CHAGE&ASKAの10周年アルバム「PRIDE」に入っている曲である。
なお、アルバム「STAMP」でもカバーされているが、こちらの方が展開が分かりやすい。

「はじまりはいつも雨」で語った、件のいとこの兄貴は、カセット版の「PRIDE」のアルバムも持っていた。 つまり、自分史としては、チャゲアスを好きになった最初期のタイミングにこの曲も揃っていたのだ。

この記事では曲から感じる感覚について細かく触れてみた。
曲に関する思いが強すぎて、書き切るまでにかなりの時間がかかったが、取りあえず公開することにする。

タイトルからして強烈なインパクトを持つ曲。
この曲「砂時計のくびれた場所」に関しては詩もそうだが、曲の構成と壊れそうな雰囲気がたまらなく好きだ。
聞くたびにピリピリとした感覚と、心に宿る暖かさを感じる曲である。

イントロはキリキリとした、硬質で壊れてしまいそうなメロディから始まる。 教会音楽をも思わせる雰囲気である。

闇に溺れそうな 星に包まれて
僕はあなたに 溺れた
ただの優しさで取り乱すあなたに
僕は安らぎ 覚えた

闇の中で消えてしまいそうに瞬いている星の中で、その闇に溶け込むように始まる関係。 「僕はあなたに溺れた」……時にハッとさせるようなワードを使って、曲にアクセントを残す。なんてパワーワードか。
優しさに「ただの」と付くところもポイントだ。

次のフレーズに「孤独顔」とあるように、初めは、相手のみせた隙につけこむような狡さすらあった。 笛の音は星の瞬きか。

抱きしめたらそっと抱いてくれる 昨日までの痛み
全ての羽根をあずけた

そうやって始まった関係なのに、色々なものに傷つきさまよった鳥が羽根を預けるような、心の置き場所になった。
「全ての羽根をあずけた」の賛美歌のようなコーラスと、目の前が開ける感じがたまらなく好きだ。

寝つけない夜の子供のように 風の動きを感じて La La La...
夢の中まで染みるくらいに 貴方の吐息を集めた
孤独顔で貴方に近づいて 時を分けるふたり ふたり

元のメロディに戻り、張り詰めたような感じが続く。
閉じた部屋なのに動すら表現してみせる。
風の動き=貴方の吐息だけを感じる、完全な二人の世界。
静かさ故に「染みるくらいに」感じる。

なんとBメロ2回目の終わり付近までドラムすらなく進むのだが、ここでようやくリズム/ベースが足される。3連・2連符のベースを経て、加速していくようにサビの開けた大空の展開に繋がっていく。

届かない夢が欲しくなった こんなに胸が暖かい
空を追い駆けて見たくなった いつかもがれた羽根なのに

傷ついた鳥のモチーフから、「届かない夢=空」が自然と連想できる。
サビについては文末で語ろう。

朝が来るまでに 恋にしてみようよ
やさしさ ぬくもりだけじゃなく
無意味な力で恋を抑えないで
心のミュートを外して

「やさしさ、ぬくもりだけじゃなく」Dメロでも繰り返されるワードだ。
恣意的な気持ちや計算高さ=無意味な力、から行動することをやめ、無心に相手を思う恋に変えてみよう、ということだと思う。

心のミュートって表現、素晴らしすぎないだろうか。
これはほんのちょっとだけギターを触ってみてわかった。コードからずれた位置に指が行ってしまうと、その音はミュートになってしまう。
ミュージシャンならではの詩的な表現だ。

砂時計のくびれた場所を見てた
そこが今のふたり ふたり

ここは、是非ベースが先導する素晴らしいメロディに注目して聞いていただきたい。
歌詞の意味としてはライナーノーツをみてわかったところだ。
恋愛としては半端な場所=「砂時計のくびれた場所」から、きっと自然な流れで恋に落ちていける。
しかしまあよくこれをモチーフにしようと思ったものである。

Dメロからは2番のサビを引き継ぐようにエレキが気持ちを表し、ドラムのリズムが曲にのめり込ませていく。 A/Bメロではぐっと抑えているからこその盛り上がりだ。
Dメロで大きく展開し、最後でBメロに戻るのだが、
最後の「ふたり ふたり↓」で落としてからラスサビに行く展開も素晴らしい。 少し落とすことで逆にラストを引き立たせているのだろうか。

さて、サビについて語ろう。

届かない夢が欲しくなった こんなに胸が暖かい
空を追い駆けてみたくなった 勇気じゃない あなたの愛で

1・2番ではエレキの切ないメロディに注目して頂きたい。
メロディは、「届かない夢が欲しくなった」の部分では完結せずフワッと次のフレーズに続き、「あた・た・かい」の3連符で終結する。
「と・ど・か(ないゆめが~)」と前半で割り当てているところを、
「そらを(おいかけて~」と3連になるところも、素晴らしく技巧的だ。

歌詞の譜割りも前半部分では半端な感じを残して、後半部分で完結させている感じがする。「~したくなった」という歌詞は曖昧すぎて普通は使われないと思うのだが、それを後半のワードで成り立たせているというか。

2番では「勇気?じゃない」と疑問形で歌いつつ、
ラスサビでは「勇気じゃない」と言い切っており、段々と確信を持っていくように展開している。
また、ラスサビになってやっとコーラスが入り、弦・エレキ・リズムと全てが足され、まるでマーチにも聞こえるようになっている。
単純にサビを繰り返すだけではなく、参加する楽器のメロディを足し引きすることで曲の展開を表すのは、ASKAさんの曲でよく見られる手法である。
1音1音の楽器に明確な役割を持たせているからこそであろう。
ラストはイントロと同じ楽器構成に戻るが、安心感というか確信感が残る。

「空を追い駆けてみたくなった」
このサビは本当に好きだ。僕が恋愛というものに感じる最大限の理想といえる。 無理なこと、一度は諦めたことすらもやれるんじゃないかと思える、自分だけではけして生まれない力が生まれてくる。
それが想いが通じ合うことの強さかもしれない。

自分の中から出てくる勇気だけで挑むというだけじゃない。
また、明確な理由が心のなかにあるわけでもない。
敢えて言うなら、「こんなに胸が暖かい」からなんだろう。

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