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森とのつながりのお話(2) ~ドイツ留学から日本を見ると~

はじめましての記事で書いたように、いろいろな人に森とのつながりのお話を聴き始めました。

お二人目は林業女子会友だちで、先日ドイツの大学院で森林管理を学んで帰国されたばかりのHさんです。

Hさんのお話

「森と人が楽しく支え合う関係を作る、両方がいきいきするように」という大目標には共感します。いまは人が森を搾取しすぎていると思っていて、共生できる社会になるといいと思います。

ドイツの大学院で学んだことの一つに「森を保護する、管理する」がありました。日本でも「管理」という言葉はよく使われますが、その「管理」よりも森を人間の支配下にて管理する・コントロールするという意味合いが強くあった気がします。日本の森林管理は、人間か管理する中でも自然やその土地柄を優先したり、ちょっとそのまま成長させてみようとか、自然の力を借りてといったニュアンスが含まれている気がします。もちろん、ドイツの国立公園等では、「let nature be nature」という方針もありますが、人工林管理では人間の支配下に森がある感じがしました。

西洋と東洋で自然に対する考え方や捉え方が異なることは聞いていましたが、実際にその違いや思想の違いを目にした気がします。日本やアジアでは森が生活の中にあって、関わり合いながら暮らすという考え方があると思います。とはいいつつ、日本では昔は人と自然・森が共生できていたけれども、いまはしにくくなっていますね。

(私が、大目標の一歩として、山の所有者を明らかにすることが必要だと思っていると話したことに対して)

所有者を明らかにすることは必要ですね。日本人は律儀でひとのものを取っちゃいけない、争いは避けたい、だから入っていいかわからないと手を出せないといった考えになりますよね。以前は森林境界を明確化する際に利用できる地図作成をする仕事をしていました。森林境界はその土地の地形や目印となる樹種を森林境界とすることが多かったため、航空写真や微地形図をもとに大まかな森林境界を定めた後、現地に行って最終的な境界をひくために所有者を訪問して境界確定を行うのは森林組合の人でした。
東日本大震災で、大きな地殻変動があったので宮城県、岩手県、福島県は対象地域の地籍をやりなおしたため他県と比較して山間部でも地籍完了率が高くなっています(http://www.chiseki.go.jp/index.html)。ただし、所有者との紐づけは完了していません。そのため、平成31年4月から施行された森林経営管理制度(*1)が大きな役割を果たしています。この制度のおかげで、市町村から登記上の森林所有者に手紙を出し、公告期間内に返信や反応がない場合は、市町村に山の所有者が分からない森林の経営管理を行う権利(経営管理権)が設定されます。これによって、所有者が不明であったとしても上物(森林)の管理ができるようになり、放置林ではなくすことができるようになります。

実は、ドイツでも森林の所有者不明問題は問題となっているのですが、森林経営管理制度のような制度は個人の権利を侵すことに対する考え方が厳しいドイツでの実施は難しいと思います。

山に道をつけることはすごく大事だと思います。ドイツではどの森林にいっても道があって、特に市街地に近い森ではベビーカーでも入れます。森でBBQをすることが日常で、平日でも学校帰りのこどももいっしょに森に行きます。気合をいれなくても森が身近にあるのがいいですね。マウンテンバイクやキャンプなどもとても身近なものです。日本の山は急峻で道をつくるのも大変ですが、人が比較的行きやすい森には道をつけて、気軽に森入れるようになるといいと思います。

一方で、日本国内での盗伐(許可なしの森林伐採、伐採許可範囲を超えての伐採、計画と異なる伐採等)が注目を集める機会が増えてきました(*2)。日本は国土の約70%が森林のため、目が届ききらず管理が難しいと思います。ドイツは森林率が約30%ということもあるし、フォレスター制度が充実しているため、人の目が日本よりも届きやすいと思います。

ドイツの大学院での修士論文テーマは森の経済的評価についてでした。具体的には木材生産以外の森林のレクリエーション機能の経済的評価と人がどんな森が好きなのか、どんな森林生態系サービスを重要と感じているのか調査した研究です。森林管理の財源は、公共財という観点から国からの補助金と木材生産でまかなっていますが、私たちが享受する森を起点とする様々な森林生態系サービスに鑑みるとそれだけでは収支が合いません。森の木材生産以外の経済的価値を森林のレクリエーション機能をもとに評価する研究をしました(*3)。また、公的資金を森林管理に投入している場合、その森林を利用する人々の意向や嗜好、森林に期待する生態系サービスの発揮を森林管理に含めるべきなのでは、といった思いも込めて、人々の森林に対する認知研究も含めました。

例えば、日本人は森から水の恩恵をうけているけれども気付いていない人がほとんどだと思います。その理由としては使っている水がどこからくるのかが見えていない、見ていないからだと思います。さらに、日本は食料品の輸入(例えばアボガド)などでバーチャルウォーター(*4)を多く使っており、他国の森林の恩恵に預かっているという事にもなります。水は大きく見れば循環していますが、実際に私たちが利用できる淡水はわずかで、その分布は偏っていますし、汚染の危機にも瀕しています。水などの環境について危機感を持つ人が増えると日々の生活様式も変わってくると思っています。

日本の食料自給率の低さもスイス人に驚かれました。農業にしても、森とつながっているので、森+”α”を含めて流域で森林を様々な視点で学際的に考えていくことが大切だと思います。私たちの生活がいかに森からの恩恵を受けているのか、森と繋がっているのかについて気づく人が増えてくれるといいなと思います。

日本の森のポテンシャルを感じています。ドイツとは異なる森林管理の考え方や、緻密な管理ができていると思います。例えば、収量比数や相対幹距比といった指標は過去の実地研究の成果だと思いますが、ドイツでは見たことがありません。もちろん森林は地域や気候帯によって成長や性質が異なるため、おのずと管理方法も各国の特性や個性が出てきます。けれど、日本が実施・研究してきた森林管理の思想や技術は発信できていないなと。日本が持つ森林管理の思想・哲学を発信していく必要があると思っています。

Hさんのお話を聴いて

ドイツでは森林資源を有効に使っているという記事などを読んだことはありましたが、ドイツに住んで、学んだ方からお話を聴くことができて、より実感をもって理解できたように思います。
ドイツでは森に対して「人が管理する」という考え方でForesterという管理者がいて、しっかりと管理されている。
また、日本が70%が山なのに対して、30%だし、日本のような急峻な山が少ないので山/森に道がついていて、普通の人が日常的に森で楽しんでいる。
Hさんは、ドイツで生活し、森林管理を学んだ上で、日本の山/森と人が共生する考え方や、日本の緻密な森林管理の良さももっと発信していく必要があると考えられていることもよくわかりました。

個人的には、普通の人が日常的に(学校帰りの子どもが家族でBBQするなど!)森で楽しむのはとてもいいなぁと思いました。
また、Hさんの修士論文の調査の中で多くの地元の人たちが、森で楽しむことがその人たちの生活のwell-beingに欠かせないものだと考えている結果も興味深く思いました。
特に印象的だったのは、約半数の人がレクリエーションのため、また気候変動対策のため、どちらに対しても MK1500 (調査対象地の経済水準をもとに考慮すると約7500円に換算される) を払いたいと考えているということで、気候変動に対する意識が高いと感じました。日本で調査するとどうなるのかなと思いました。

補足

(*1)森林経営管理制度

森林経営管理制度は、手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者から経営管理の委託(経営管理権の設定)を受け、林業経営に適した森林は地域の林業経営者に再委託するとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理(市町村森林経営管理事業)をする制度です。

https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/keieikanri/sinrinkeieikanriseido.html#1
森林所有者の一部又は全部の所在が不明な場合、探索・公告等の一定の手続きを経て、市町村が経営管理の委託を受けることが可能

https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/keieikanri/attach/pdf/sinrinkeieikanriseido-121.pdf

(*2) 日本の盗伐被害状況

(*3)Hさんの論文

Hさんの論文は、森林の価値を木材生産だけから測るのではなく、レクリエーションサービスの価値からも見ることを、東アフリカに位置するマラウイという国の森を対象として、調査結果を示しています。
多くの地元の人たちや観光客が、森で楽しむハイキング、散歩、ジョギングやピクニック、BBQなどの森林のレクリエーション機能に価値をおいている考えている結果が示されています。また、レクリエーションを目的とした森林管理に対する金銭の支払い意欲と、気候変動に対応するための金銭の支払い意欲がほぼ同じであること、さらに水関連の森林生態系サービスの重要性が森林訪問者から認識されていることが示されていることが印象的でした。

(*4)バーチャル・ウォーター

仮想水(かそうすい)またはバーチャルウォーター: Virtual water)とは、農産物畜産物生産に要したの量を、農産物・畜産物の輸出入に伴って売買されていると捉えたものである(工業製品についても論じられるが、少量である)。
世界的に水不足が深刻な問題となる中で、潜在的な問題をはらんでいるものとして仮想水の移動の不均衡が指摘されるようになってきた。

wikipedia

特に最近では日本のアボカドの輸入量が増加し、その栽培に関わるバーチャルウォーターが注目されています。

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