見出し画像

誤訳事例研究05 出来事も誤訳過程も不可解~「空港でスーツケースの代わりに流れてきた大量の冷凍の魚 乗客激怒『なぜこんなことに!?』(英)」より

今回はヤフーニュースの「空港でスーツケースの代わりに流れてきた大量の冷凍の魚 乗客激怒『なぜこんなことに!?』(英)」を取り上げます。配信元はTechinsightです。

1.今回取り上げる記事(日本語記事のみ)

https://article.yahoo.co.jp/detail/ff55634dc1a8bf03b6afdf8bc64c15cfac862115

2.誤訳内容

翻訳記事ではないようですが、発言の引用箇所にわかりやすい誤訳がありました。軽く調べただけでは原文は見つからなかったのですが、原文を見なくてもわかります。

ベッカさんは「なぜこの魚の入った箱を運んでいた人が『5番ターミナルに持っていくべきものではない』と思わなかったのか、理解できません。こんなこと不可能ですよ」と苛立ちを抑えられない様子でコメントしている。

問題個所は、太字の「こんなこと不可能ですよ」です。

仮に日本人が記事のようなシチュエーションに遭遇したとしたら、こう発言する可能性はどれくらいでしょうか?

ゼロですね。

これは「文化の違い」とかではなく、単なる誤訳ですね。

元の表現は十中八九、これに類似するものでしょう。

It's impossible!

特に難しい単語・表現ではありません。
この文脈で訳すならば、例えば下記のようにするのが適切でしょう。

(こんなことが起こるなんて、通常の航空会社ならば)ありえません。
まったくふざけた話です。

3.辞書の確認

ここで辞書を確認してみましょう。
今回はMerriam-Webster.com を参照します。

画像1

画像2

今回の短い発話においては1a の意味とも 2a の意味とも考えられますね。
先ほど示した訳例の一つ目は1a のニュアンス、二つ目は2a のニュアンスです。

今回の "impossible" の使い方はごく普通のものであり、「不可能」と訳すのは率直に言うと不可能だと思います。

あ、ちがった。「ありえない」と思います。

4.原文発見(?)

少し探してみると、BBCの記事中に原文らしき発言が見つかりました。

https://www.bbc.com/news/uk-england-dorset-59141394

She said when she confronted British Airways staff about the issue they were "perplexed" and did not know how it had happened.

"We just can't fathom why, at some point, one of the people loading these boxes of fish didn't think 'this can't be right for Terminal 5'... it's baffling," she added.

直前の発言内容が、日本語記事の内容と対応しているので、これが原文なのではないかと思いますが、"impossible"ではありませんでした。

研究社『新英和中辞典』(weblio版) によると、"baffling"は「くじく、当惑させる、不可解な」という意味です。

”impossible"を「不可能」と誤訳したのならともかくとして、"baffling"を「不可能」と誤訳するというのは、なんとも不可解な話ですね。当惑してしまいます

今回は以上です。
読んでいただき、ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?