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私家版「耳嚢」

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日常の裂け目。退屈からの解放。
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記事一覧

知命の蟹

……京都の天橋立でね、おっさんが転落したっていうね。なんかのニュースで見ましたよ。あすこ…

FouFou
9日前
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タピオカ

 その日の午前中に小五になる息子の奏多のクラスで野外観察が行われた。  子どもたちは学校…

FouFou
10日前
34

ブルーベリー

「シフォンにブルーベリーがたくさんついてる」  下の娘がいうのを、野崎は気にも留めずにい…

FouFou
2週間前
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水顔

1  天井に楕円の水影が映る。  水影とは、戸外に置かれたバケツに張られた水の面が陽光を…

FouFou
1か月前
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妖怪酒場

 私がその酒場を見つけたいきさつは次のよう。夏の盆休みに、学生時代の友人と何年ぶりかに会…

FouFou
2か月前
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木霊

 今夜、ちょっと手を貸してくれないか。  二十年来音沙汰のなかった友人のSは、いきなり電…

FouFou
3か月前
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轆轤首

「首が、飛ぶの」  そう聞こえて、カウンターの端に座った四木は思わず顔を上げた。  歳は六十前後か、仕事帰りの一見客とわかるのは、胸に社名を縫い付けた紺色の作業着を羽織るからで、社名入りともなれば場末でささやかに網を張る独身女将には安心なようで、七つある止まり木の真ん中にどかっと座りついたときからなんだか雲行きは怪しかった。宵の口だからいいようなものの、零細ながら平日でもそれなりに客の出入りはあるわけで、カウンターの真ん中に座るとはいかにも見くびる態度だが、粗忽者には容赦の

愛人

 出社して一瞥するなり、その見慣れない若い女性を、取引先の担当者が原稿でも取りに来たくら…

FouFou
4か月前
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川獺

その昔……といっても明治の初め頃までは、東京は築地にも川獺(かわうそ)が出て、これが夜な…

FouFou
5か月前
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狼人

🌒  その女は二十三時過ぎに仔馬にやってくる。  初めてその立ち姿を見た者は、一瞥して長…

FouFou
5か月前
43

鬼が、いる。

 インターフォンが立て続けに鳴らされ、玄関の扉が叩かれる。家には長女と次女しかおらず、一…

FouFou
6か月前
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座敷童子

 研修生時代の上長の誘いに応じて田岡と永山は、本社最寄りの駅前の韓国料理屋で飲んでいた。…

FouFou
7か月前
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傘化け

 車窓の向こうは本降りになっていた。  あいにく男は傘を持たなかった。  少々の雨なら平…

FouFou
7か月前
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海坊主

🪼 怪談好きにかぎって自分には霊感はないなどと前置きしがちですけど、あれなんか語りの信用問題といいますか、背後霊が見えるなんて平気でいうヒトの話のほうがかえって胡散臭いんで。 私もこうして怪談をするときは、自分の体験として話すより、人聞きとことわるのが常ですし、そのほうが聞き手の信用を得られやすいと心得ている。とはいえ、みずからの怪体験が皆無というわけでもないんです。 霊が見えるとか、ヒト様の越し方行く末を占えるとか、そんな霊感体質ではもとよりございません。ただちょっと