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私の工場経営ノウハウ(11)モノづくりの継承

工場経営では、相続に関係する「承継」とは別に、技術的ノウハウの「継承」が重要です。前者は社長交代の時などですが、後者はベテラン技術者や熟練作業者の引退などで発生します。そのため、社長になったら次の社長候補を、部長なったら次の部長候補を決めておけと言われますし、部長は社長の立場で、課長は部長の立場でものごとを考えろとも言われます。

終戦後1950年代に製造業を起業した人が多く、それが高度経済成長につながったのですが、創業社長の背中を見て育った二代目が今引退の時期になります。従業員は10年くらい若いので60歳代、こちらも定年を迎えます。
最近、「モノづくり」が労多くして儲からない印象が強く若者に人気がないのが心配です。中小の製造業では若手の技術者、作業者が来ない、来てもすぐ辞める傾向があり、後継者の育成がうまく行かない状況があります。
しかし、モノづくりは、デザインや品質・生産性の進化に加え、あらゆる技術との連携が必要で、経験が長くなればなるほど奥が深く、プロフェッショナルの境地を味わえる上、技術遺伝子が受け継がれていく喜びも感じます。
例えば、現代はITの進化でゲームやコミュニケーションが進化していますが、これを可能にしているのは半導体です。半導体は高速演算と大容量メモリが中心です。ところが、この半導体を製造するためには、半導体製造技術はもちろん、周辺技術の層が分厚いのです。半導体シリコン結晶を生成する「るつぼ」やウエハ表面研磨で使う「酸化セリウム研磨材」、半導体ウエハの検査「プローブ」と呼ばれる微細な「針立て」、その針を載せる高多層配線板、高多層配線板を作る「樹脂基材」や「銅箔」、「ステンレス鏡板」を用いた熱プレスで成形、「炭化タングステンとコバルトからなる超硬合金」のドリル穴明け、「銅めっき」、「アクリル樹脂回路レジスト」、「塩化第二鉄エッチング液」による回路形成、「エポキシ樹脂ソルダーマスク」「ニッケルめっき液」「金めっき液」による表面処理など、数えきれない材料やプロセス、設備が必要です。こういう何千、何万というプロセス・チエーンを支えるモノづくりは、大企業だけでなく多くの中小企業に支えられています。

しかし、技術の継承となると厄介です。まず、ベテラン技術者、熟練作業者がその気になりません。教えることで自分のメリットがあまりないこと、余計な時間が掛かること、教えてもすぐに辞められてしまった経験があることから消極的です。そこで、私は「品質管理」に必要な「QC工程表」を作成することを推奨しています。

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 QC工程表は、顧客の工場監査等で必要になるし、品質管理の中心となるISO-9001文書にもなるので、通常業務として準備しなければなりません。QC工程表は、上図のように工程フローと、工程フロー内の各工程に記載された「作業基準名称と基準番号」「検査基準名称と基準番号」「設備メンテナンス基準と基準番号」の最新版によって構成されます。ここで制定された作業基準は、品質保証できる製品の製造方法を規定しているし、最新版管理され履歴も残っているので、これを詳細に作成することは、まさにノウハウの文書化です。工場監査等では作業基準そのものを提出しないので、ノウハウの流出はありませんが、履歴として重要なことは全て書かれている状態です。また、必要に応じて写真やビデオを補助資料として準備することもできるので、技術の伝承が可能になります。
 作業基準は、顧客の購入仕様を満足することが目的なので、仕様と基準がセット、さらに作業記録やトラベラーシートによって製造した製品の品質のレベルが確認できます。一方、詳細作業基準があれば標準作業時間も決まってくるので、見積書の作成、生産計画、業績管理まで連動していきます。このように、作業基準の充実が今日の業務を支え、かつ技術の伝承になるので効率的であり、作業基準作成のモチベーションを向上させます。

 是非、QC工程表と作業基準の整備を通して、技術の伝承を進めては如何でしょうか。

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