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「桑田佳祐は何を歌い、何と闘ってきたのか」


桑田佳祐ゲーム

この記事はラジオ「坂口孝則と牧野直哉のオールビジネスニッポン」の文字起こしです。

今夜のテーマは「桑田佳祐は何を歌い、何と戦ってきたのか」です。桑田さんについて話す時は、これからは「桑田さん」と呼ぶことにします。

私はオリコンでの連載を持っている関係もあって、毎日、約100曲の新曲を聞いているんですよ。いや、ほとんど全部は聴きません。ほとんどは数秒で飛ばしますね。また、様々なエンターテインメントを享受していますが、私にとって桑田さんは特別な存在です。

私には「桑田ゲーム」というものがあります。これは、自分の年齢と同じ年に桑田さんが何をしていたかを知り、それによって落ち込むゲームです。たとえば、桑田さんが30歳の時にはすでに『KAMAKURA』(1985年)という傑作アルバムをリリースしています。そう知ると、私は本当に落ち込んでしまいます。

桑田さんは、22歳とか23歳で「勝手にシンドバット」から「いとしのエリー」まで駆け抜けているからなあ。「うわぁ、負けたなあ」と感じ、常に落ち込むゲームをやっています。なんなんでしょうねえ。

ところで、サザンオールスターズと桑田佳祐さんが歌っている曲のテーマは何だと思いますか? ユーミンは「恋愛」かなあ。サザンと桑田佳祐さんは「あの人とのひと夏」や「上手くいかなかったあの人との恋」、あるいは「あの人と乱痴気騒ぎ」とかね。これら、内容はすべて当てはまると思いますが、欠かせない「あなた」「あの人」って何でしょうか。これが今回のテーマです。

あの人との恋愛やあの人とのバカ騒ぎ、あの人を失った後の感情など……。「あの人」って誰ですかね。これを私なりに読みときます。

サザンオールスターズとの出会い

これはちょっとすごく個人的な話です。サザンオールスターズとの出会いは人によってさまざまなパターンがあると思います。私の場合は、「夜のヒットスタジオ」や「ミュージックステーション」でサザンを知り、12歳の時に「稲村ジェーン」という映画を一人で見に行きました。

この映画は、正直にいって、まったく12歳には理解不能でした。ポストモダンな大傑作で、意味なんてなく、青春の思い出と香りだけがある。もはやシュールリアリズムです。映画の曲ではとくに「希望の轍」が有名ですね。

その頃、私は佐賀県に住んでいて、近くに「ビデオアメリカ」というレンタルビデオ店がありました。その店にはサザンのシングルが置いてあり、私はいろいろと借りて聞いていました。

「さよならベイビー」なんて最高でしたね。

「みんなのうた」は88年頃のものだったと思います。その曲を聞いた時よりもびっくりしたのがシングルのB面「おいしいね~傑作物語」だったんです。

もう、びっくりしたっていうか、衝撃というか。すごかった。もう一度いいます。「おいしいね~傑作物語」はすごすぎたんですよ。

当時は12歳だから、現在のように言語化できていたわけではありません。さらに、何を意味しているのか完全には理解できませんでした。ただ、どえらいことが起きていることは感じ取れました。

「おいしいね~傑作物語」は産業ロックを歌ったものです。つまり金儲けのために作られたロックです。これをB面にもってくるか、フツー(笑)!!

A面は、サザンの復活の曲「みんなのうた」ですよ! 盛り上がる曲の裏で、桑田さんが大人の金儲けのゲームとして、俺たちは意図的に騙しているんだぜ、と老獪に歌っているのです。さっきは、ポストモダンっていったけど、こりゃ完全に意図的でインテリジェンスななトリックスターじゃないですか。もう驚愕でしたよ。

また、桑田さんが青山学院大学で活動していたバンドの名前が非常に印象的でした。「Better Days」というサークルで、「温泉あんまももひきバンド」「脳卒中」「ピストン桑田とシリンダーズ」「青学ドミノス」という名前も素晴らしい。

ポストモダン的なアプローチや、ギャグに託して表現する、ちょっとシャイな面が伺えます。これは教養人の系譜でしょう。東の知識人たちが持つ特徴ですよね。ドリフターズのように、頭が良くて多くを知りすぎているからこそ、ギャグで表現しないといけないというスタンス。

桑田さんのこの前のシングル「ヨシ子さん」は、もちろん恋愛を歌ったものですが、あれ、教養人として林家三平師匠の「好きです、ヨシコさん」のオマージュでしょ。桑田さんの曲は、聴く人が深い知識をもっていると、どこまでも深く聞ける。もちろん、メロディが素晴らしいから、前提の知識は不要です。それはポップスの文脈に沿いながらも、実験を重ね、ただし純粋に良い曲として成立している奇跡です。

内省の人、桑田佳祐

私が幼い頃、「月刊カドカワ」でサザンオールスターズが特集されたことがあります。この雑誌では、何度もサザンオールスターズや桑田佳祐さんを取り上げており、「日本最強のメロディ」として特集されていました。

ただ印象に残っているのは、桑田さんが自身の曲やボーカルスタイルについて、批判的に反省する姿勢です。びっくりした。これは多くのヒット曲を持つアーティストとしては珍しい謙虚さであり、桑田さんの姿勢を示しています。

私なんか、もちろん桑田さんに比べると……とは思うんだけれど、これは桑田さんから影響を受けましたね。何をやっても「まだまだ」。ある程度のところまでいっても「もっとうまくやれたはずだ」っていうね。

あるインタビューで、サザンのメンバーが、「桑田さんは忙しいはずなのに、会うたびに、新しい音楽を紹介する(大意)」という話を読んだことがあります。これ、どこで読んだかを思い出せません。たぶん、関口 和之さんの「突然ですがキリギリス」だったと思うんですが、はっきりしません。

たぶん、「異常な」と形容していいくらい、桑田さんは努力家なんですね。また、デビュー当時に出演した番組で、ライブハウスからの中継がありましたね。ロフト(平野悠さんが創設)からだったんですが、桑田さんは「目立ちたがり屋の芸人です」と自己紹介して、「勝手にシンドバット」を歌ったことがあります。もともと勝手にしやがれ、と渚のシンドバッドなわけで、これはもはや、表象文化論で研究の対象にしなければなりません。

最近では、Netflixで配信された「サザンブルスターズ茅ヶ崎ライブ2023」を見て、再び彼らの音楽の深さに感銘を受けました。「C調言葉にご用心」という曲や、研ナオコさんも歌った「夏をあきらめて」、「そんなヒロシに騙されて」、「真夏の果実」もいい。

ただ特に印象に残る楽曲を挙げるとしたら、それは「ミス・ブランニュー・デイ」です。この曲のサビでメロディが下がる瞬間は象徴的です。こんな作曲スタイルの人って日本史上いたのかなあ。

私はサザンオールスターズの体験を通じて、音楽知識が中学・高校時代に大きく広がりました。特に「タバコ・ロードにセクシーばあちゃん」という曲があり、これらについて後で調べたところ、ジョニー・ウィンターの影響を受けていることがわかりました。

ジョニー・ウィンターは「タバコ・ロード」って曲があるんですね。でも重要なのは、ジョニーウインターじゃないんです。サザンをきっかけに、どんどんと調べて、それが知識になっていった点が重要です。

まあ、もともとサザンオールスターズの「サザン」、あるいはサザンロックってアメリカ南部ですよね。このジャンルは、その当時アメリカで主流だったブルースやジャズに加え、イギリスからのロックの影響を受けて、独自の解釈を加えて発展しました。桑田さんは「サザンオールスターズ」という名前を冠しているだけあって、さまざまな広範囲の音楽を貪欲に摂取していって、サザンオールスターズを作った。だから、サザンを学ぶことは、世界のすべてを学ぶことなんです。

桑田佳祐が歌った「あなた」「あの人」とは誰なのか

ここで注目したいのは、「Tarako」という曲です。

この曲はサザンファンじゃなかったら、たぶん知らないと思う。ファンには親しまれています。歌詞が全体的に英語で書かれており、これは桑田さんが世界進出を目指して作った曲ですね。

残念ながら大きな成功にはつながった、とはいえません。諦めた、ということではないでしょうが、桑田さんは日本国内を念頭において、最高の楽曲を届けるようになりました。もちろん、この「Tarako」を失敗とは言いませんが、この経験が次に繋がったように思えるのです。

その後にリリースされた「Bye Bye My Love(U are the one)」というシングルは、非常に印象的な楽曲です。繰り返すと、「Tarako」の後です。

この曲の歌詞には、「華やかな女が通る」とか「夢出る人魚のような思い出が住むという」といったフレーズが含まれており、「I can be your love」と歌いながら、この気持ちを理解して欲しいと訴えかけています。そして、「You are the one」と繰り返す部分は、聴く人の心に深く響くはずです。この曲の深い感情表現には、ぜひ注目して欲しいと思います。

桑田佳祐さんは、ボブ・ディランやジョン・レノンを彷彿とさせる楽曲も発表しています。たとえば、「ニッポンのヒール」なんて最高ですね。改めていうと、桑田さんがアメリカの音楽、特にアメリカンロックやブルース、ポップスに影響されているかが明らかです。

しつこいのですが、「Tarako」の後の「Bye Bye My Love(U are the one)」は象徴的に感じられてならないんです

桑田さんの楽曲がこう歌うとします。「あなたと恋していた」「あなたとのかなわない恋」「あなたを抱きたい」。こういう歌詞があるという意味ではなく、桑田さんが歌う世界です。このとき、私は、桑田さんがもつ一つの生まれ出る想いを感じずにおれない

つまり、桑田さんが歌う「あなた」「あの人」は、つまり「アメリカンミュージック」ということです。いや、これを「アメリカ文化」「英語圏文化」といってもいいかもしれません。嫉妬ではなく、羨望というか、憧憬とも読み替えられます。少なくとも、私は桑田さんが歌う「あなた」「あの人」を「アメリカンミュージック」と読み替えると、すべてが理解できるように感じます。

そしてなぜ多くの日本人がサザンオールスターズに深い愛情を持ち、アメリカ文化に憧れるのかも理解できます。桑田さんが抱いていた(いる)愛と憧れが、サザンオールスターズという「ニッポン最強のメロディ」を通じて表現されているためです。

桑田佳祐さんが何を歌い、何と闘っていたのか。今日は、私の個人的な体験に重ねたサザンオールスターズ、桑田佳祐さんに関する考察でした。

では、この最高の曲でお別れしましょう。


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