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時代劇

NHK総合テレビジョンで『スローな武士にしてくれ』の再放送があった。これはBSプレミアムで放映された番組を90分に再編集したものだ。

この作品の中でNHK技術研究所の若き主任が時代劇のメッカ、京映京都撮影所の美術倉庫を見学させてもらい、そこに保管されている甲冑や刀を見て興奮する場面がある。
時代劇は小道具ひとつをとってもその道のプロフェッショナルが細かいところまで手を抜かずに丁寧に作り込んでいる。そして、それを代々伝える文化が今なお残っている。
美術スタッフだけではない。華麗な立ち回りは熟練の殺陣師が安全を最大限に考慮し、より主演に光が当たるような殺陣をつけ、斬られ役の俳優は主役を引き立て見事に死んでいく。
たった1時間に満たないテレビジョンの時代劇でもこのような職人たちがいるからこそ楽しめる。
時代劇は日本の文化であり、後々まで継承していくべき芸術だと思う。

しかし、この時代劇でも馬だけは昔のままを再現することは難しい。明治になるまで、日本の馬は競馬で走るサラブレッドやアングロアラブなどのような立派な馬ではなく、道産子や木曽馬のような小柄で見栄えのしない馬だった。そのため明治政府はこのような馬では戦争に勝てないことを知り、軍馬育成のために近代競馬を推進することになった。
戦後、馬は戦場に行くことはなくなったが、馬事普及と畜産振興の目的で競馬は続けられた。そして21世紀になり、やっと世界と戦えるまでに日本の馬産は発展した。

時代劇は本来なら在来馬を使えばいいのだが、見栄えが悪いし、数も少なくない。黒澤明は『影武者』の時だったと思うが、クォーターホースというアメリカ産の馬を輸入して撮影した。この馬は1/4マイル(約400m)までならサラブレッドよりも速く走ることが出来る。アメリカではクォーターホースの競馬も人気があり、私はむしろサラブレッドの競馬よりも好きだ。速いだけではなく、おとなしく従順でとても乗りやすい。そのため、今では映画の撮影によく使われるようになった。

私は馬乗りであるので騎馬シーンは大好きだ。出来れば甲冑を着て撮影に参加したい。
昔は乗馬が得意な俳優はたくさんいたが、今は少ない。時代劇の出演が決まると、乗馬施設に泊まり込んで騎乗技術を覚えるというパターンが多くなった。俳優という職業の人は勘がいいので1週間もあれば十分に撮影に耐えられる騎乗技術を身につける。そのかわり、最初から目隠しをして手綱を持たず、足をかける鐙(あぶみ)も履かずに障害を飛越させる。当然、最初は落馬をする。だが、バランスが身につけば平気で障害を飛越するようになる。本当に彼らの集中力には頭が下がる。

時代劇に使う馬は和鞍を装着するが、昔の映画を観ていると西洋の鞍を付けていることが結構ある。今は観客の目が肥えているし、乗馬指導の専門家もいるので殆どの場合、和鞍を使用している。私は和鞍での騎乗経験はないが、俳優の友達に聞くとかなり乗りやすいと言う。

最後に『クレヨンしんちゃん』の劇場版を観たがちゃんと和鞍を使っていた。それに馬の走り方も忠実に描かれていた。アニメーションといっても手を抜かずに丁寧に作り込んでいる。エンドクレジットでは京都アニメーションのスタッフが何人もクレジットされていて、この先に起きる悲劇を思い出し悲しい気持ちになった。
私は野原家では父ひろしが大好きだった。サラリーマンのど根性を見せてくれた。逝くには早すぎる。

RIP.


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