見出し画像

お風呂場の恐怖【オンガク猫団コラムvol.8】

夜中に目が覚めるとお風呂場から笑い声が聞こえた。「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」。ひきつったような、卑屈で誰かを罵るようなせせら笑いだ。笑い声の主が、ただ風呂場にいただけなのか、湯槽に浸かっていたのか、それとも姿形のない声だけの存在だったのかも分からない。

それがオイラのみた初夢だ。実はそのあと奇想天外な展開になり、めくるめくようなハッピーエンドを迎えたのである。よっしゃー、やったぜベイビー! というところで目が覚めたのだ。時刻は、午前3時過ぎだった。

深夜に目覚めてからも多幸感が続き、思わずスマホのメモアプリに、夢の内容をメモっとこう、と考えが浮かんだが、やっぱりやめにした。きっと朝起きても、細部に至るまで鮮明に記憶しているに違いない。

何故なら、これだけワンダーが詰まった話を、どう考えたって忘れる道理がないからさ。寝ぼけ頭でオイラは、そう確信した。そこでオイラは布団の中で微睡み続けることにしたのだ。今は、ピエールマルコリーニのチョコのような、ほろ苦く甘い余韻に浸っていたかった。そして再びうとうとと寝てしまうのだ。

言うのも馬鹿らしい、間抜けな帰結を敢えてここに書く。オイラを笑いたいヤツは笑えばいいさ…。朝、目が覚めたら「夜中に目が覚めると風呂から笑い声が聞こえた」以降に起こった宝石のようなミラクルな展開が、跡形もなく綺麗さっぱり行方不明になってしまったのだ。なんて初夢なんだよ。人騒がせな話さ。

ハッピーエンドだったはずの夢の置き土産が、薄気味の悪いせせら笑いなんである。あの声の正体が、妙に気になって仕方ない。中年のおっさんのような声だった。声のイメージに一番しっくりくるのは、黄色と赤のコスチュームでお馴染みの、魔界のドナルドさんだ。

と、いうことで昨日は風呂に入らなかった。だってあのビジュアルが、もの凄く怖いんだもん。けど、魔界の人は案外いい人かも知れないな。背中流してもらった挙げ句に、気前良くお得なクーポン券何枚もくれそう。

「コレ、ただで頂いてもいいんですか?」とオイラが訊くと、「ランランルー」ってふなっしーばりの奇声を上げて、デリバリースクーターで颯爽と闇の中に消えて行きそう。ありがとう、ドナルド。うむ?一体なんの話だ?

誰かオイラの初夢を見つけたら、ちゃんと届けて欲しい。お礼にピエールマルコリーニのお店までご案内しますよ。あくまでご案内だけ。魔界のお店でいいなら、ホットミルクをご馳走しますがね。

オンガク猫団(挿絵:髙田 ナッツ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?