ツルグレン装置の正しい使用方法 〜ネットでみかける間違ったペットボトルツルグレン装置〜

 ネットでツルグレン装置の使い方と検索すると,理科教材としてペットボトルを利用した簡易なツルグレン装置の作り方や,使い方が,書かれている.しかし,これはどう見ても,土壌動物が抽出できないだろうとおもう,ペットボトル製のツルグレン装置が多すぎる.

 以下にツルグレン装置の仕組みを説明する.

図1. ツルグレン装置のしくみ

ツルグレン装置のしくみ(図1)は,アミの上にのせた土壌を,白熱灯で照らすことによって,動物が乾燥をさけて,下に移動するという性質を利用して,動物がそのままアミからおちるために,下に置いたロートで動物が受け皿の中に集まるという仕組みである.

図2. ツルグレン装置の上にのせた土壌から動物がどの様に抽出されるか

ツルグレン装置のアミの上にのせた土壌を熱によって乾燥させることが,動物の下への移動を促している(図2).しかしながら,ツルグレン装置は節足動物を主に抽出するものであるが,節足動物はミミズのように土壌を掘り進むことは得意ではない.置いた土壌の厚さを厚くすると,土壌を掘り進めることができないので,節足動物は土壌の上部で乾燥によって死んでしまうことになる.実際に抽出出来るのは,アミに触れ合っているごく一部の土壌に生息している節足動物だと言う事になる.また,厚くすると土壌の底面にまで.熱が伝わらなくなるので,いっそう,土壌動物は抽出しにくくなる.

図3. ネットで見かけるペットボトルを利用したツルグレン装置.

良く,ネットで見かけるのは図3のような,ペットボトルの底を切って,ひっくり返しただけのツルグレン装置である.土壌動物をたくさん抽出したいとおもったからか,いわゆる土を,てんこ盛りに詰めてある.
これでは.土壌動物はすべて上の方で死んでしまうだけなのだ.

図4. ネットで見かけるペットボトルを利用したツルグレン装置の実際.

図4をご覧頂きたい.土壌の中の節足動物は土の中を掘り進めることが出来ず,土壌の中で死んでしまう.また,下面へ熱も伝わらないので乾燥もしない.

図5. 正しいペットボトルを利用したツルグレン装置の使い方

正しいペットボトルを利用したツルグレン装置の使い方は,図5のように,土を薄くする必要がある.それだと,とれる土壌動物の量が少ないと思われるかも知れないが,図4と比べていただければわかっていただけるように,図4も図5も,抽出出来る土壌動物の量は,たいしてかわらないということになるし,図5であれば,乾燥もするので,効率的に土壌動物が抽出出来ることになる.例えば,細かくなった落ち葉を少しだけ載せるなどはかまわない.

付け加えて,重要な事として,土壌動物の採集のための,土壌採取のコツがある.

土壌動物はおもに,落ち葉を食べているので,いわゆる「土」の中に節足動物の量はすくないのである.土の中にいるのはミミズなどであって,ツルグレン装置はミミズを抽出するそうちではない.ベールマン装置といって,ペットボトルに水を入れる等の工夫が必要になる(別の機会に).

 さて,このように,スコップで掘って採取するような固い土壌に、土壌動物は極端に少ないので,固い土壌を苦労してスコップで掘って採取すると,抽出される動物も極端に少なくなる.
 ツルグレン装置で土壌動物がうまく抽出されないというのは,たいていの場合,これが原因である,そこで,新鮮な緑の落ち葉だけを簡単に除き(骸骨のようになっている,古い落ち葉まで取り除いてしまわないように),細かくなった落ち葉の堆積と,それに触れている土壌の表面までを採取する.
 つまり,本来はスコップをつかったりしないで,手で採取できる程度の軟らかい土のみを持ち帰る.スコップで固い土を掘ったりしてはいけない.
 古いバラバラになって来た落ち葉と,手で採取できるような軟らかい土までツルグレン装置に投入し抽出すると,単位土壌体積あたりに抽出される土壌動物の量も種類も多くなる.これがコツなのだ.

さらに知りたい方は……

島野智之・長谷川元洋・萩原 康夫 (編)『土の中の生き物たちのはなし』朝倉書店 (2022年7月1日刊行)

土壌動物の採集のための,土壌採取のコツ
https://i-field.jp/tullgren/   I.Field様のサイトを書かせていただきました.




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