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フリーランス新法に労災保険加入。2024年のフリーランス5大トピック

あけましておめでとうございます。「フリパラ」は、2024年もフリーランスに関わるニュースからスタートです。今年もよろしくお願いいたします。

 昨年はようやくコロナ禍を脱し、社会の動きはほぼコロナ前に戻ったようです。2023年10月からはインボイス制度が導入され、いよいよ2024年はフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されます。
フリーランスならば自分ごととして必ず知っておきたい2024年の5大注目トピックを、フリーランス協会・代表理事の平田麻莉に聞きました。

知れば自分の身が守れる印籠に。フリーランス新法の中身

フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、2023年4月28日に可決成立しました。現在、2024年秋ごろの施行に向けて細部を詰めている段階です。

この法律はフリーランスにとって自分を守る「印籠」であり、「盾」になり得ます。ただし、いくら心強い法律ができたとしても、フリーランスの立場である私たちがその内容を理解していなければトラブルは防げません。

 というのも、トラブルの多くは、発注者に悪気があるというよりも、無知や、忙しさにかまけて後回しにすることが原因で起きるからです。
トラブルに見舞われたとき、これまでは発注者との関係性を気にして、不利な内容でも言い出しづらいこともあったかもしれません。
しかし法律施行後は、個々のフリーランスが法令違反が疑われる発注者に対して「このままだと法律に抵触しちゃいますが、大丈夫ですか?」と、自己防衛のための印籠として新法の中身が示せるようになります。ぜひ自分ごととして捉えていただきたいです。

 ちなみに特定受託事業者とは、企業相手にBtoBで仕事をする「従業員のいない」個人事業主や法人成りしているフリーランスのこと。BtoCビジネスのフリーランスには適用されません。

法律のポイントは大きく分けて2つ。公正取引委員会管轄の「取引適正化」パートと、厚生労働省管轄の「就業環境整備」パートからなります。

©2023 しゅずい ゆか,プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会

 「取引適正化」で一番問題になるのは、報酬や業務内容に関する口約束です。施行後は、発注者からの取引条件明示が義務化されるのが、この法律の一番の意義だと思います。
また、納品から待てど暮らせど報酬が支払われない支払い遅延は、少なからぬフリーランスが直面してきた問題です。これも、原則として業務完了後60日以内の支払い義務が発注者に課せられます 。

「当初言われていた金額と違う」「発注時から仕事が上乗せされているのに金額が据え置かれた」「急に経費が引かれてしまった」などの一方的な減額や 、制作物を納品しても「やっぱり要らなくなった」とアイデアだけ使われる受領拒否を経験した人もいるでしょう。これらはすべて、フリーランス新法の禁止行為となります。
禁止行為が課せられるのは一定期間以上(1ヵ月の方向性で検討中)の継続的取引のみですが、単発の仕事であっても、発注日から納品日まで一定期間以上ある業務であれば、禁止行為の対象になることも覚えておきましょう。

「就業環境整備」のトピックは主に4つです。

1つめは、SNSやクラウドソーシングなどのオンライン上で広く求人をかける際に、虚偽の情報を出してはいけないこと。

2つめは、出産・育児・介護の両立配慮義務です。例えば「妊婦健診に行くために、定例ミーティングの時間をずらしてほしい」「切迫早産で入院するため納期を少しずらしてほしい」など、フリーランスからの申し出があれば、発注者側に配慮が義務付けられます。

3つめは、ハラスメントに関する相談窓口などの体制整備。具体的な中身については、厚労省の検討会で指針を取りまとめているところですが、相談窓口の周知や、ハラスメントの訴えがあった際の事実確認や行為者への対応、プライバシー配慮などが求められ、報復的な不利益取扱いもNGとなる見込みです。

4つめは、中途解除する際は30日前までの事前予告を発注者側に義務付けるもの。企業と長期の契約をしているフリーランスにとって、突然の打ち切りは収入の大きな痛手です。この項目が明記されたことは、かなり重要だと捉えています。フリーランスは他の仕事を断って、わざわざ予定を空けることもあるため、契約の解除には発注者の早めの報告が必要になるのです。

法令に違反した場合は、所轄官庁による行政措置が入ります。助言、指導、立ち入り検査、命令と、段階によって措置は重くなります。違反かどうか自分で判断できない、行政に介入されるほど大ごとにしたくはないという場合は、無料の弁護士相談が受けられるフリーランス・トラブル110番という公的サービス(0120-532-110)があります。弁護士のアドバイスを受けながら自分で対応できるものは自ら対応し、行政介入が必要な場合は行政に介入依頼をします。

詳しくはこちら
【速報解説】フリーランス新法が成立しました

フリーランスも労災保険に入れる? 新法の附帯決議

次は労災保険についてです。
実は今、施行準備が進められているフリーランス新法には附帯決議があり、その中で「すべての職種の特定受託事業者(新法と同じくBtoBで仕事を受ける、他者を雇用していないフリーランス)が労災保険に入れるようにすべし」ということが提案されていました。

「全職種が入れるように」と聞くと、一部の職種のフリーランスには労災保険があったのかと感じると思いますが、実は以下の職種の方は以前から個人事業主でも労災加入できる特別加入制度があります。
その対象は、個人タクシー運転手や建築土木の一人親方、文化芸術方面の芸能従事者に、アニメーション制作の従事者、フードデリバリー配達員、そしてITフリーランスなどです。

これまで職種ごとに加入枠の拡大を検討していたものを、今回初めて職種を問わず、全てのフリーランスが入れるようにしようというのが、この付帯決議のポイントです。

特別加入制度の特徴は、会社員のような労使折半ではなく、保険料が全額自己負担なところ。希望者が入る「任意加入の保険」です。 

ちょうど昨年末に、保険料率と加入手続きを行う「特別加入団体」の設置要件が省令案要綱として公開されました。ここから今年の秋までの加入受付開始を目指し、急ピッチで準備が進められる見込みです。

特別加入団体になるには「都道府県ごとに加入希望者が訪問可能な事務所を設ける」というハードルがあるのですが、会員の皆さんからのニーズによって、フリーランス協会も対応を検討したいと思っています。

詳しくはこちら
BtoBフリーランスの全職種向けに広がる労災保険

産前産後のセーフティネットに一歩前進した「国保免除」

一億総活躍社会と言われながら、いざ妊娠・出産・育児をしながらフリーランスで働くと、セーフティネットがほとんどない。出産や育児だけでなく、不妊治療に取り組むためにフリーランスになる人も増えています。フリーランスも安心して子どもを産み育てたい。そのために会社員との社会保障の格差をできるだけなくしてほしいと、フリーランス協会は訴えてきました。

これは2018年の試算ですが、この図を用いて啓発キャンペーンを行った当時、会社員とフリーランスでは、出産前後にもらえるお金と出ていくお金の合計で300万円以上の差がありました。かなりの大きな差ですよね。

出典:フリーランス協会「フリーランス・経営者の妊娠、出産、子育てに関する調査結果」(2018)

会社員の場合、出産費用をカバーする出産育児一時金に加えて、産前産後・育休中の所得補償として、出産手当金と育児休業給付金がもらえます。これでざっと290万円ほどです。さらに、産前産後・育休中のいずれも、社会保険料は免除されます。

一方フリーランスは、支給されるのは出産育児一時金42万円のみで、出産手当金や育児休業給付金は無く、収入のない産前産後・育休中であっても社会保険料を払い続けなければならないのが2018年当時の状況でした。

この状況を変える一歩として、2019年4月から産前産後4ヵ月分の国民年金保険料が先行して免除されていたのですが、2024年1月からは、国民健康保険料も産前産後分が免除となります。これで免除となる保険料は年金・国保を合わせて13万円弱といったところでしょうか。
依然として会社員であればもらえるはずの給付がないことの差が大きいとはいえ、少しでも支払いがなくなるのは一歩前進といえるでしょう。
ただし支払いの免除には自ら届け出が必要となりますので、注意しましょう。

 また、少し先の話にはなってしまいますが、国民年金保険料について 、子が1歳を迎えるまでの育休中も男女問わず免除する法案が来年の国会に提出予定です。2026年度中の施行を目指しているとのことです。

「フリーランス育休期間中の給付新設」については、岸田首相が2022年末に会見で明言していたものの、現在棚上げの状態になってしまっています。一歩ずつしか進まないことにもどかしさも感じますが、フリーランスが安心して生み育てることのできる社会を目指し、「異次元の少子化対策」の“異次元感”が無くならないよう、諦めずに訴え続けていきたいと思います。

詳しくはこちら
朗報:フリーランスでも出産しやすい社会へ

雇用型副業の選択肢が広がる

 2024年は、「雇用型副業」という働き方の選択肢が広がる可能性があります。昨年12月に開催された規制改革推進会議で、副業・兼業の円滑化をテーマに活発な議論が行われました。
 
現在増加している副業は、業務委託型の副業がほとんどです。というのも、例えば会社帰りにコンビニのアルバイトで働くといった、複数の会社で雇用されて働く場合、副業先の企業が労働時間を通算し、必要に応じて割増賃金(残業代)を支払わなければならないのが、現行ルール。2018年に副業解禁を進めるために取り急ぎ作られた、まだ日が浅いルールなのですが、それだと副業先にとっては雇用で人材を受け入れるメリットがありません。
副業を解禁した企業も、労務管理の煩雑さを恐れて、雇用型副業を禁止しているケースが多いです。
 
このままでは、副業をしたくても、できる仕事や受け入れ先がない人が多く、副業解禁の背景にある人手不足問題も一向に解消しないので、経済界からルールを見直すべきという声が挙がっています。
ちょうど年末に政府が表明したタクシーのライドシェア解禁も見込んで、見直しが進む可能性が高いと思われます。これは、副業に挑戦してみたいと考える会社員にとっては朗報となるでしょう。
 
ちなみに、事業者であるフリーランスは、雇い主もいないため、元々どんな副業・兼業をしようと自由です。この動きがフリーランスの読者にとって興味深いのは、雇用型副業の受け皿が今より広がれば、時間にとらわれずに仕事をしたいフリーランスにとって、短時間だけ労働者として働く選択肢が増える可能性があることです。
 
たとえば、フリーランスにもおなじみのクラウドワークスやココナラ、ビザスク、Uber Eatsといったクラウドソーシングやシェアリングエコノミー系の仕事は、全てギグワークと呼ばれる業務委託契約の仕事です。

一方、タイミーやシェアフルなどでマッチングするスポットワークは、簡単に言うと日雇いバイトの短時間版です。1時間単位など、短時間で働けるところが魅力なのはギグワークに近いイメージもありますが、契約としては労働者としての雇用契約になります。
 
もし2024年に労働時間通算義務や割増賃金支払いがなくなって、雇用型副業の受け皿が広がれば、メインはフリーランスとしてクリエイティブな仕事をしながら、すきま時間で労働集約型の仕事に就くなど、新たなパラレルワークにチャレンジする人も増えていきそうです。

詳しくはこちら
雇用型副業が広がるかもしれない件~規制改革推進会議への参加報告

インボイス制度導入後、初めての確定申告で気をつけたいこと

2024年3月の確定申告は、インボイス施行後、初めて行われる申告になります。インボイス登録をしていない人は、これまで通り変わらず所得税の確定申告をすれば大丈夫です。
ここでは、インボイス登録をした方に向けて、主な注意点をまとめておきます。
 
インボイス制度のために新たに免税事業者から課税事業者に転換した人は、所得税の計算方式として、負担軽減措置である「2割特例」が使えます。もともと課税事業者だった人も、フリーランスであれば「簡易課税制度」を使っている人が多いかと思います。
 
「2割特例」「簡易課税制度」を使ってさえいれば、受け取った請求書をインボイス番号の有無によって仕分けたり集計したりする必要はないので、そんなに構える必要はありません。

納税する消費税額の計算にあたって必要なのは、売上高の集計だけです。インボイス制度の施行に合わせて10月から登録した人は、免税される1~9月の売上と、課税対象の10〜12月の売上を分けて集計する必要があります

ありがちな間違いは、入金日を売上日と勘違いしてしまうことです。
売上が立った日は、入金日ではなく、納品日や実施日です。たとえばライターや研修講師が9月に納品・研修して、10月に入金があった場合、それは9月が売上日で免税期間内の売上となるので、誤って消費税を多く納めすぎないよう注意しましょう。

なお、インボイス制度が施行されてから、既に何度か請求書を発行した人もいるかと思いますが、請求書が「インボイス」と認められるには、これまでの請求書に加えて、「登録番号」「税率区分」「税率ごとの対象金額」の記載が必要になっています。記載不備で取引先から修正依頼が入って大変という声も聞くので、お互いの負担軽減のためにも、この機会にあらためて確認しておくと良いかもしれません。

施行後、初めての確定申告もしっかりと作業していきましょう。

本パートの挿入スライドは宮崎雅大税理士事務所の資料を原案にしています。詳しくはこちら
もう悩まない! 知識ゼロから追いつくインボイスと電子帳簿法まるわかり講座

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フリーランス新法の施行を控え、2024年はますますフリーランスという働き方に注目が集まる1年になるでしょう。いつでも自分なりのベストな意思決定ができるように、フリーランスに関わるトピックにはしっかりアンテナを張っておくのが大切ですね。
フリパラ読者の皆さまにとって、本年も良い一年になりますように。

取材・文/横山由希路
エンタメ系情報誌編集を経て、2017年に独立。書籍のほか、雑誌・WEBメディアで、ビジネス、介護・医療、芸能について執筆している。ひとりっ子ひとり親介護の経験から、書籍「目で見てわかる認知症ケア」を企画構成。横浜⇔台南古民家の行き来を10年以上続けている。コメダ珈琲店LOVE。
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