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幻の出版 #シロクマ文芸部

 本を書くことに憧れた時期がある。もう20年以上前だ。ある出版社が原稿募集していて、入選したら出版される、と新聞で読んだのだ。原稿用紙100枚程度、あらすじを添える、という条件、さっそくトライしてみた。
 応募して一ヶ月、今か今かと結果を待っていると、ある日ついに封筒が届いた。触ってみると「残念ながら今回はご希望に添えず…」という通知にしては、少し厚い。もしや、と開封すると
 「入選には至りませんでしたが佳作ということで、出版費用の半額を負担して下されば出版します。宣伝費その他の雑費は当方負担」とのこと。
その半額というのが45万円だったので、到底無理、と即諦めた。もしかして詐欺?とも思ったがそこそこ有名な出版社だったので、嘘ではなかっただろうが、90万円で出版できるものだろうか?部数や詳細は忘れてしまったので
今となっては確かめる術はない。
 自分の書いた本が本屋に並ぶというのは嬉しいことなのか、気恥ずかしいことなのか分からないが、友だちや知り合いに「買って」というのはどうも気が進まない。出版できたとしても本屋の棚の片隅を一時だけ埋め、人知れず消えて行くだけだろう。それとも返品の山に囲まれるのだろうか。
 かなり赤裸々な私小説だったから、入選しなくてよかった、と今は思う。自分の分身のような本が、売れても売れなくても切なくなりそうだから。

           おわり

小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお世話をおかけしますがよろしくお願いいたし


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