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小学4年生。まだ心の機微に疎い娘の手助けを私はしたい。

#20230428-89

2023年4月28日(金)
 通りの先へ目を凝らしたが、ノコ(娘小4)の姿が見えない。
 今日は移動図書館が来る日だというのに、ノコが学校から帰ってこない。
 移動図書館の滞在は30分。今朝ノコが借りた17冊の本を用意していったので、まずそれを返却する。私は私でインターネットで予約した本3冊を受け取り、さらにワゴン車の左右、後ろの3面に設置された書棚をぐるぐる眺め、追加で2冊借りる。
 そろそろ移動図書館が閉まる。
 ゴールデンウィーク中、読む本がないとノコも淋しいだろうと勝手に読んだことがなさそうな本を選ぶ。字の多い中学年向けの物語を7冊と絵本1冊。
 バタンドンとワゴン車の扉が閉まり、移動図書館の片付けが終わる頃、ノコが帰ってきた。
 「ママママ、ママー!」
 「おかえり。勝手に返して、勝手に借りておいたよ」
 ノコの背に手を添えて、家へ向かう。

 夕飯が食卓に並ぶまでのあいだ、早速ノコが1冊読みはじめる。
 絵本「わたしのいもうと」(松谷みよ子 文・味戸ケイコ 絵/偕成社)。
 小学4年生の妹が転校先でいじめられ、学校に行けなくなり、医者も拒み、部屋に閉じこもる。かつての同級生が中学生になっても、高校生になっても、妹は部屋にとじこもったまま…
 明るく楽しい話ではない。やわらかい絵に反して、その語りはとても重い。
 一気飲みするかのように、あっという間にノコは読み、本を閉じた。
 「ねぇ、パパママ、聞いてて!」
 もうすぐ夕飯の盛り付けが終わるというのに、ノコが絵本を開いて音読しはじめる。
 大きな声で、でも語りかけるようなもなく、一方的に強引にすらすらとすらすらと読む。
 そして、本を閉じた途端いう。
 「ね、かわいそうでしょ! 死んじゃったんだよ! ひどくない!」

 里親になる前に買ったお気に入りの絵本がある。
 「あのときすきになったよ」(薫くみこ 文・飯野和好 絵/教育画劇)というタイトルで、2人の小学1年女子の交流が描かれている。
 絵と文の関係がとてもよく、多くを語らないシンプルな文章が心に響く。気持ちの揺れが――2本の紙テープを交互折り重ねて作る紙バネをようで、2人の思いが長く重なると、こんな楽しいものになると目の前で見せてもらった気分になる。
 我が家に委託されて半年が過ぎ、ノコは小学1年生になった。
 私はまさに今だとばかりにノコにこの絵本を読み聞かせた。単純に登場人物の2人が小学1年生だったからだ。ところが、ノコの反応は薄く、興味を示さなかった。「だから何?」という感じだった。
 学校に行った折、この絵本を小学4年生の国語の授業で扱ったと耳にした。
 4年生!
 登場人物が1年生だからと勝手に1年生にちょうどいい絵本なのだと思ってしまった。幼児が読む絵本の主人公が必ず幼児である必要がないのに、なぜかこの時は個人差はあれ、1年生に合っている絵本なのだと思い込んでいた。
 複雑な心の機微は4年生くらいにならないとわからないものなのか、と当時ひどく驚いた。かつて自分も子どもであったのに、すっかり大昔のことだとうとくなっている。

 クイズやなぞなぞが出る物語ならともかく、ノコは読書量は多いが、日頃読んだ本をすぐ私たちに話したり、読み聞かせたりすることはない。
 今日はそうではなかった。
 つまり、ノコのなかで思わず私たちに伝えたくなる強い感情の動きがこの絵本によって生じたということだろうか。
 「ひどいよねぇ。死んじゃったんだよ」
 夕食を口に運びながら、ノコが思い出したようにいう。
 3年――もうすぐ4年、ノコと暮らして、ようやく最近気付いたことがある。
 ノコはさまざまなことを感じているだろうが、混沌としている。ノコにはまだそれを細分化する力はない。カラフルな色つき粘土を力まかせにこねている感じだ。混ぜて混ぜて濁った色のよくわからない物体になっている。もちろんそれはそれでおもしろい。
 でも、まだそれぞれの色――感情の名前を知らないのに混ぜてしまってはもったいない。

 こんな気持ちとこんな気持ちが混ざったら、こんな気持ちになるんだね。

 そう自分の心の動きを楽しめるよう、私はノコの手助けをしたい。 

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