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さて、困った。子どもの満たされなさを減らしたいのに、こちらの体力気力が先に尽きちゃうこの頃です。

#20230419-80

2023年4月19日(水)
 今日はノコ(娘小4)の習い事がある。
 出発までに学校の宿題を少しでも済ませたい。
 下校したノコが宿題をしたくない気分になる前に、とりあえず宿題を広げるところまでたどりつこう。
 「おかえり!」
 明るくノコを迎え、重いランドセルを今日は私が居間に運ぶ。
 「はい、はい、はい!」
 そういいながら、ランドセルを開けて給食袋をノコに手渡し、連絡帳と音読カードを出す。今日はちゃんと連絡帳に宿題が書いてある。
 「今日の宿題から済ませちゃおうね!」
 昨日、ノコは連絡帳が見当たらないと宿題を写してこなかった(実はランドセルのなかにあった)。ないなら違う紙に書くなどすればいいものの、まだノコはそこにたどりつかない。
 そろそろ何かができなかった場合、別の手段を自分で考えてほしいのだが、未だ"正解はひとつ"の世界にいる。

 ノコが漢字ドリルや計算ドリル、ノートなどをテーブルに出しながらいう。
 「おやつは?」
 お菓子ワゴンからノコに選ばせて、量は「多いんじゃない?」「もう少しいいよ」と私が見定めている。これも本人の判断に任せたほうがいいだろうか。夕飯が食べられる量ならばよい。

 ノコがアイスをかじりながら、ため息をつく。
 「今日、先生に叱られた
 「あら、何のことで?」
 ノコの正面に座り、両手で包むように持ったマグカップから立ちのぼるコーヒーの匂いをかぐ。
 「宿題。昨日写さなかったからしなかったでしょ。宿題がわからなくても何かできる勉強をやれって、先生に怒鳴られた
 「先生、怒鳴ったの?」
 ちょっと驚いたふうにいうと、ノコの目が泳ぎだす。
 「怒鳴ったっていうかぁ・・・みんなの前でいうのってひどくない? みんなジロジロ私のこと見るし。泣くの我慢したっていうか、泣いちゃった」
 「泣いちゃうくらい、先生、大きな声で怒ったんだ」
 「うーん、ちょっと声が大きかったかな。ちょっとだけね。でも、先生ひどくない?」
 ノコの様子を見ていると、先生が怒鳴ったという行為を隠そうとしているのではなく、脚色しすぎて失敗したとあせっているようだ。

 ノコの言葉を訳するのならば。
 怒鳴られたように私が感じるくらい、先生がきつい物言いで私を注意した。
 そんなところか。
 ノコがいうことを信じていないわけではない。
 ノコも嘘をついているわけではない。
 私の言動に対してもノコは事実より大きくいうことがある。今、いったりしたことなので、その感覚のずれに戸惑うほどだ。
 ノコの心にはそう「感じた」のだろう。
 「みんなの前で注意されて、恥ずかしかったし、わかっているのにできなかった自分が嫌になったんだね」

 ノコは「学校に行きたくない」と続け、その理由を挙げる。
 ひとつ、叱られる。
 ふたつ、注意される。
 みっつ、友だちに仲間外れにされる。
 よっつ、友だちに嘘をつかれる。これはノコが「今日遊べる?」と友だちに尋ねたら「遊べない」といったのに、隣の公園で違う友だちと遊んでいたという嘘。

 「だから、学校に行きたくないです」
 そうノコは主張すると、せっかくテーブルに出した宿題を私に押しやった。

 そこからの宿題は本当にげんなりするほど大変だった。
 そうかといって、習い事から帰ってから取り組むのでは夜も遅く、疲れと眠さで困難になる。

 今、国語ではあまんきみこさんの「白いぼうし」をやっている。
 私も教科書で出会った懐かしい物語だ。文字から夏みかんの明るい黄色や柳のやわらかな緑、もんしろちょうの白と鮮やかな色と香りが次々と浮かぶ。
 主人公のタクシー運転手松井さんが路上にあった帽子を振りまわす場面がある。
 問いは、「松井さんは何をしようとしたのですか」。

 ノコは「知らない」と「わかんない」を繰り返す。
 「文章を音読してごらん。字をただいうんじゃなくて、読み上げながら、書いてある風景を思い浮かべてごらんよ」
 そういってもノコは黙読しかしない。
 「わかんない。私、松井さんじゃないもん、わかるはずないじゃん」
 「これを書いたあまんさんは読んだ人がどうして松井さんがそうしたのかわかるように、とても考えて言葉を選んで書いたと思うよ。だから、もう一度声を出して読んでごらん」
 「ママ、わかるなら教えてくれればいいじゃん。ケチだね、いじわるだね」

 ここまで悪態をつかれて、教える必要性があるのか、わからなくなる。
 「もう知らない! 自分でやれば!」と衝動的に大きな声でも出せば、ノコは泣いて私にすがって「ごめんなさい」というだけだ。
 「自分でやってください」と静かにいえば、「わからない子をほったらかしにするんだ。ひどいね。じゃあ、やんない」とノートを乱暴に投げるノコの姿が見える。

 目を閉じて、胸いっぱい息を吸って、吐く。
 「それが人に教えてもらう態度ですか。そんな態度の人にやさしく教えることはママにはできません」
 できるだけ、声から荒さを排し、やわらかさも除き、事実だけ伝える。

 こんなやりとりばかり続き、春先の寒暖差もあってか、最近は夜になるとぐったり疲労困憊だ。
 ノコの困り事を少しでも減らしたいのに、からまわりしている。

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