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子どものお金の使い方。捕らぬ狸の皮算用、手元にお金がない人には貸せません。

#20230423-84

2023年4月23日(日)
 「買って!
 ノコ(娘小4)がじっと私を睨み上げる。手には弾力性のあるパステルカラーのおもちゃ。
 「ねぇ、買ってください!
 私はできるだけ、甘さも荒さもない平坦な声で返す。
 「買いません」

 習い事の帰りにノコが100円均一ショップをのぞきたいといった。家にあるノコのお財布の残金は51円だ。
 ノコにお金がないこと、今日は何も買ってあげないことを確認したが、それでも寄りたいという。私も買いたいものがあったので、10分と時間制限をして店に入った。ノコの宿題が終わっていない。できるだけ早く帰宅したい。
 10分後、おもちゃの棚の前に立つノコのもとへ迎えにいった。
 そして、冒頭のやりとりがはじまる。

 「本当なら自分のお財布を持ってきてほしいの。でも、習い事先にお財布を持っていってほしくないから、貸したこともあったよ。そのときもいったけど、それはお家に帰ったらすぐにノコさんが払ってくれるから貸したの」
 目に宿る険しさが増すノコを前に、私は深く呼吸をする。
 「でも、ノコさん、今日はお家に帰っても110円をママに払えないよね?」
 「…もうすぐ千円入るからそれで払う」
 ノコには家族の一員としての仕事がある。今は食事の用意(食卓にランチョンマットを出し、献立に合ったカトラリーを並べる)と週1回の鏡拭き(玄関の姿見と洗面台の2ヶ所)だ。少し前までは週1回の階段拭きもあったが、時間的にできないということで相談の上、やめた。
 ノコの月額千円のおこづかいは、この仕事をした対価として支払われるものではない。お駄賃ではない。だが、働きが悪ければ、仕事内容と金額は見直す約束になっている。

先日、最近ノコが鏡拭きをしないため家族会議を開いた。
①    仕事の負担が大きいのなら今後仕事をなしにし、おこづかいを減額する。
②    今月の仕事量が少ないため、来月のおこづかいは減額する。来月約束した量の仕事をこなしたら、信用回復で再来月から定額の千円。
③    今月末まで3日あけての4回鏡拭きをしたら、来月は定額千円を渡す。

 なんせ、進級したばかりで生活リズムがつかめていない。私としては今月は無理せず②案が妥当だと思ったが、ノコは「千円もらえないのなら、ないと同じだ」といい張って拒否。③案とノコが決めた
 だが、まだ今月すべき鏡拭きは2回残っている。信用を失ったノコに来月千円が入るとはいい切れない。
 「まだ2回鏡拭きが残っているよね。それをやるかわからないから、5月に千円が入るかもわからない。お金が入るかわからないのに貸せません」
 ノコはおもちゃを力いっぱい握りしめる。未購入なので、「それはお店の物よ」という。
 「千円が入ってから買いにくればいいでしょ」
 「それまでになくなっちゃうかもよ! これがいいの! これが欲しいの!」
 足をドンと踏み鳴らして私を睨む。
 「ほしいんだね。それがいいんだね。でも、貸せません。
 パパとママだって、欲しいものがあってもお金が足りないときはお金が用意できるまで我慢するんだよ。次、来るときまでありますようにってお祈りして棚に戻すの」
 「パパとママはそうするんだね。私はできないから」
 ノコは苛立たしげに視線を左右に揺らす。
 「ママ、このあいだ、お誕生日にあげた100円返して
 私の誕生日プレゼントに現金をくれたのにもびっくりしたが、それを返してというのもまた驚きだ。ずっこけそうになる。
 「あれはノコさんからママへのプレゼントでしょ。ママの大切な100円よ。それにあげたものを返してっていうのは失礼じゃない?」
 「ママって本当いじわるだね」
 ノコのいい草に苦く笑うことしかできない。
 「次、来るときまであるといいね」
 そこから家に帰るまで、ノコは私と車間距離ならぬ人間じんかん距離――数にして5mほど――を置き、近付けば離れるを繰り返した。

 ノコを背に歩きながら、笑いがこみあげてくる。それは今日習い事へ向かう途中の光景と重なったからだ。

 駅のホームに幼稚園年長らしき男の子とお母さんがいた。
 「アイス買ってっていわない! 買って買ってっていわない約束でしょ!」
 お母さんが怒鳴って詰め寄ると、男の子は走って逃げる。追えば逃げる。
 「わかった。もうお出掛けやめよう。帰りましょう」
 ようやく捕まえた男の子を引きずるように、母子は階段を下りていった。私にはお母さんの苛立ちが痛いほどわかる。
 ノコはその光景をまばたきを忘れんばかりに凝視していた。
 「ノコさんはどう思う?」
 「……お母さん、大変だね
 てっきり男の子に同情すると思ったのに、ノコの心はお母さんに寄り添っていた。
 そんな出来事があったので、ノコのふるまいがおかしくてたまらない。
自分のことになると、別で棚に上げちゃうのかな。
 それとも、頭ではわかっているけど、気持ちは抑えられず、「欲しいものは欲しい」なのかな。
 世の中、ノコには欲しいものであふれてるんだろうなぁ。

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