見出し画像

探偵そばくん

 ぬい世界でのそばくんの朝はゆっくりと始まる。朝日が顔を出し、その暖かい光がみんなの家に届く頃にそばくんは目を覚ます。以前は目覚まし時計を使って起きていたが、最近は慣れて自然と目が覚めるようになった。もふもふ、ふかふかの布団にはそばくんのマークであるバツ印が、そばくんのへそのように1つぽちょんと付いていた。

「しょばぁ…しょばしょば…」

 そばくんはむくっと起き上がり、布団からもぞもぞと出ると窓のカーテンを開けた。朝日は真っすぐそばくんの寝室に降り注いでいる。そばくんは朝日を全身に溜め込むようにじっくりと浴び、んーっと背伸びをした。

「今日もとっても気持ちがいい朝だ!昨日の朝は雨が降っていたけどお気に入りの傘が使えたし、最近は良いことばっかりだなぁ!」

 そばくんは心なしか早足でぽてぽてと外に置いてあるポストに向かった。家のポストには毎朝手紙や住んでいる地区のお知らせの紙が入っている。外が暖かい時はゆっくり外で手紙を読んでいたのだが、最近は風が冷たく寒くなってきたため宛先を確認することなく家の中に入った。

 いつもはマーガレットや長文で有名なまんじろうからの手紙がすぐ目に入るのだが、今日は見慣れない封筒がいつもの手紙の中に混じっていた。

「あれれ。何だろう。ぼく宛なのは分かるけれど誰から届いたのか分からないや」

 そばくんはまんじろう達から貰った手紙と見慣れない封筒をふと見比べてとあることに気が付いた。

「この封筒、サインが書いてない…」

 ぬい世界では郵便物はぬい広場の郵便担当窓口に集められ、当日担当したぬいぐるみのハンコやサインが書いてあるのだが、この見慣れない封筒に書かれてあったのは宛先であるそばくんへ、という可愛らしい文字のみだった。

 さすがにぬい広場の担当ぬいがサインし忘れた、というのは考えにくいとそばくんは思っていた。なぜならぬい広場内では何度も確認するタイミングがあり、誰かしらサインはすると言うことをぬい広場でアルバイトをしているうさぎのゆめちゃんから聞いたことがあったからだ。つまり、この封筒は直接そばくんの家のポストに届けられたものであり、今朝誰かが入れた。

 そこまでをじっくり考えた結果、そばくんはその見慣れない封筒を開けることにした。封筒と便箋はどちらも真っ白で、便箋にはその雰囲気にぴったりと合ったシンプルな内容が書いてある。

「Mの部屋にて、本日10時」

 そばくんは壁にかけている時計を確認した。まだ、朝が始まったばかりで余裕はある。約束の時間までそばくんはご飯を食べながら、まんじろうから貰った手紙の内容を確認することにした。

「おはよう!そばくん!最近寒いねぇ!ぼく、今年の布団はもふもふ多めにしたんだよー!ためこんでたぼくのもふもふが役に立って良かったよ!んーっとね、あとね、」

 まんじろうからの手紙はいつも考えている最中までもが全て書かれているため、そばくんはいつも目の前にまんじろうがいるかのような気持ちになる。そばくんはまんじろうからの長めの手紙を読み終えて、再度壁にかかった時計を見た。時間は9時30分を指している。そばくんの家からMの部屋があるぬい広場まではすぐだが、そばくんは早めに到着して手紙を届けてくれたぬいを部屋で待つことにした。



 手紙の差出ぬいがMの部屋に姿を見せたのは、部屋の中にあるデジタル時計の10時丁度を知らせる音が鳴りやんだ頃だった。そばくんがその姿に気が付くと、部屋の入口にいた手紙の差出ぬいはそばくんに向かってパタパタと急ぎ足で近付いてくる。

「そばくーん!久しぶりー!!」

 その声の主はそばくんがぬい広場で初めて仲良くなったペンギンのハルだった。今日もトレードマークの蝶ネクタイを付けている。そばくんは目をキラキラさせて、羽をバタバタと動かしていた。

「わー!ハルくん!久しぶりだね!とても会いたかったよ!にしても、どうして急に手紙なんかポストに入れたのー?会いたいなら、お家に会いに来てくれればいいのにー!」

 そばくんは簡単に挨拶をしながら、ハルを席に案内した。そばくんが選んだ席はMの部屋の端で、もしかすると周りのぬいに聞かれてはならない相談かと予想しての場所だった。

 ハルが今日は来てくれてありがとう、と言うとそばくんはいえいえ、と答え2匹は席についた。

「早速だけど、お話があるんだよね?是非是非話してよ!」

 そばくんはハルをじーっと見て、話し始めるのを待っている。ハルは手に持っていたカバンから1枚の封筒を出し、それをそばくんに渡した。そばくんは首を傾げながらもそれを受け取り中身を確認し、中に入っていた厚紙をテーブルの上に出した。

 すると、そこには「さかなのつかみとりをせよ」と書かれているナゾがあった。ハルは、そばくんがナゾであることを把握しただろうタイミングで話し始めた。

「これがね、僕のポストに入ってたんだ。僕の名前は書かれてたのに、誰からの手紙なのか分からないし。頑張って解こうとしたんだけど、よく分からなくて、そばくん結構頭の回転が速いから助けてもらおうと思って」

 ぬい世界に警察のようなものはない。あるとしたら、そばくんのように賢いぬいぐるみに解決を手伝ってもらうくらいだ。

「しかも、必ずそばくんに届けることって書かれてあるから、そばくんがなんか知ってるかもって思ったんだけど、その顔だと全く知らないみたいだね」

 ハルがそう言った後、そばくんはうん、全く知らないね、と答えて首を横に振った。

「となると、誰が何のためにこれをぼくに届けさせたのかはナゾを解いていかないと分からなそうだね、そばくん、どうする?」

 ハルはあくまでも手紙を届けたぬいの立場で、そのナゾを解決するかどうかの判断はそばくんに任せる姿勢を見せた。そばくんは、うーん、どうしようかな、と少し悩んだ後答えを出した。

「ぼく宛だし、せっかくハルくんが届けてくれたし解いてみるよ!それにちょっと気になるし!」

 その答えを聞いてハルは、そうこなくっちゃ!とカバンから紙とペンを出した。

(続く)




 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?