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グリザイユ画法で描けばカラー漫画を素早く楽しいまま描ききれる説

想定読者

今の画力そのままでカラー漫画を描くスピードを上げたい絵師の皆様、漫画を描いている皆様
【注意】この記事ではデッサンや物の形をとる上でのテクニカルな技法について全く触れていません。画力そのものを上げたい人はこの記事で紹介している手法を試しつつ、少しゆっくり落ち着いて描くことをオススメします。

はじめに

こんにちは!白塗り美男子です。
最近、「秘密基地会報」というネットプリントで実験的に様々な気になる事を発信しています(自分の特色探し兼、同人誌の原稿描き貯めも兼ねています)。
このたび、素早く描けると噂のグリザイユ画法を学習中で、応用としてカラー漫画をグリザイユ画法で描くとどれくらいの時間で仕上がるのか試してみました。
結論としては、1ページ2時間ほどで描き上げることが出来ました。

制作期間: 2週間のうち空いていた8時間ほど

きっかけ

クリエイターユニットの相方で身近な神3DCGモデラー&絵師=キノモトさんにリクエストして、次の記事を書いて頂いたのがきっかけでした。

この手法の要点をまとめると次のとおりです。

  • 2種類の不透明度のペンを用意する

  • 用意したペンで大まかな形を取り、陰影付けまでを行う

  • その上からオーバーレイ等のレイヤーモードで色を重ねていく(グリザイユ画法)

素早く楽しいデジタル手法の利点は、

  1. デッサンで行われている「まず面を捉える」ことを最初に行うため、形を素早く正確に取れる

  2. モノクロで描き進める間は陰影を捉えることに集中し、着色は納得の行くまで色を塗り重ねればよいため、集中力が保ちやすく楽しい

また特徴としては、着色の際に取り入れられている通り、グリザイユ画法と親和性が高いです。詳しいやり方は是非、元の記事をごらんください。
しかし、僕は作画中、グリザイユ画法独特の悩みである「色がくすむ問題」と戦ってきました。この記事では鮮やかさを持たせるための作戦についても触れます。

白紙から完成まで

①文字ネーム(セリフだけ先に打つ)

プロットを元に、別の紙かテキストでセリフを起こしておきます。
その後、作画より先に吹き出しを作ってしまいます。

基本怠惰な漫画描きなので許してください。


②ネーム(絵を入れる)

素早く楽しいデジタル技法で作ったうち、不透明度が小さくブラシサイズが太い方と決めたブラシで作画を始めます。最初のネームはこんな感じでした。ざっくり具合にびっくりですね。

これでもいいんです。ご自身で分かれば!

③陰影付け~線画

ここで画面を50%の灰色(R:128, G:128, B:128)で塗りつぶします。この色は一番後述するオーバーレイの色味が素のまま出る色です。この灰色よりも薄いか濃いかで陰影を捉えていきます。

素早く楽しいデジタル技法で作ったうち、不透明度が高くブラシサイズが細い方と決めたブラシと、先述の薄く太いブラシとを持ち替えつつ、形を捉え陰影を塗り込みます。その後で必要な場合は線画を起こします。線画は陰影を塗り込んでから起こすとより作画の安定度合いが高まります。

線画は不透明度を80~90%ほどに下げると色トレス不要で馴染みやすいです

線画はカラーイラスト用の柔らかい印象の物を使っています。

④固有色を乗せる

一旦陰影付けのレイヤーを非表示にし、線画だけが表示された状態にします。その後、線画の上にオーバーレイのレイヤーを作り、バケツ塗りや投げ縄塗りなどで物の固有色を塗ります。オーバーレイのレイヤーは色ごとに分けると後で調整が効いて便利です。

固有色のオーバーレイ + 線画 + 陰影の結果はこちら。

これから画面のくすみを補正していきます。

⑤調整: 空気遠近法と印象派の光の話に則って補正データを入れる

空気遠近法: 遠くにあるものの色は薄く青くなる
印象派の光の考え方: 光にも色がある
という2つの考え方を根拠として、光の当たるところに肌色寄りのオレンジを、影になるところに薄い青をそれぞれオーバーレイで置いていきます。

暖色と白に黄色を、影色と寒色に薄い青を補正として入れます。

補正後の画像はこちら。

餃子の焦げ目がまだ灰色がかっているのは次で補正できます。

⑥調整: 赤みを差す補正データを入れる

まだ暖色と白にくすみが見られるときは、オーバーレイで更に赤みを足して補正していくと色が鮮やかになります。

主に暖色と白の部分に補正をしています。

補正後はこちら。少し鮮やかかつ自然な色合いになったかと思います。

食べ物が美味しそうに見えるのは暖色なので、全体的に暖色寄りにしました。

⑦ハイライトを入れる

覆い焼き(発光)レイヤーフォルダを作り、その中でレイヤー分けしながら光を入れていきます。楽しい工程ですが、入れ過ぎ注意です。

影やハイライトに補色を入れる最近の表現好きです。

⑧描き文字をいれて完成!

描き文字は通常レイヤーに縁取り効果を付けて描きました。

完成!

結局くすみ問題とはどうしたら解決できるのか

とりあえずの僕の解決策

①明るいところは50%の灰色(R:128, G:128, B:128)よりも明るい灰色で塗る
50%の灰色より明るいところにはオーバーレイで固有色が乗りにくく、スクリーンの計算結果と同じになるから
②レイヤー昇順に青→オレンジ→赤の順でオーバーレイで色を置き補正を掛ける
レイヤーの計算についての学習をより行う必要があるが、オーバーレイを重ねるごとに色が付きやすくなるのは確からしい

今後やってみたいこと

グリザイユ画法のくすみ取り問題について、前述のキノモトさんに相談したところ、次のアドバイスを頂きました。

  1. 先に影色を指定するオーバーレイの彩度を相当高くする

  2. 望む鮮やかさを出すのが難しい場合は、ニュアンス用のレイヤーを通常レイヤーとして作って色を置く

  3. 陰影を描いたレイヤーに通常レイヤーで赤または青をクリッピングし、若干色の付いた灰色にする

今度ポップ寄りのイラストを描くときに試してみます。この場を借りて感謝の言葉を述べます。ありがとうございます。

おわりに――カラー漫画は自由

グリザイユ画法はどのような画風を目指すかによって、①補正の色を入れるかどうか、②補正としてどのような色を選ぶかが大きく違ってくると思われます。
ゴシックでダークな画風が好きな人は、グリザイユ特有の灰色の陰影を気に入るでしょう。反対に、補正をガンガンにかけてやればポップな画風にも対応できそうな気配もしています。無限の可能性を感じるから、どうかグリザイユ画法を試してみてほしいのです。もし挫折したことがあるならば、おそらくあなたは灰色の影に苦しんだ人だと思います。一緒にレイヤーモードの計算を勉強して、いつか打ち勝ってみせましょう。自由に素早く楽しく絵が描けるように僕は応援しています。

僕は過去に、我流で初めてのカラー漫画を描こうとした結果、レイヤー数の多さと工程の煩雑さに筆を折りかけたことがありました。その苦しみがあるからこそ、グリザイユ画法はどれほどカラー漫画の味方になってくれるのか挑戦してみたかったのです。結果、

  • セリフ入れ: 30分

  • ネーム: 15分

  • 塗り込み: 20分

  • 線画: 15分

  • 固有色: 10分

  • 調整: 30分

トータル120分でした。
カラー漫画に挫折した皆んなへ、グリザイユ画法を一つの選択肢としてオススメします。

僕の紹介

普段はVtuberしつつ、ネットプリントを毎月15日頃に発行しています。

チャンネル

僕の同人誌はこちら!
(※この本の制作時はまだグリザイユ画法に触れていません)



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