エレゾ・エスプリに行ってきた

エレゾ・エスプリに行ってきました。

北海道豊頃町にあるジビエを中心に扱っている食肉加工集団によるオーベルジュです。2022/10にできたばかりのオーベルジュです。

私はグルメの専門家ではありませんが、富山県の利賀村のLEVOに並ぶオーベルジュになるのは確実でしょう。しかし、ここはおそらく日本のオーベルジュとかレストランとはどことも違う場所として記憶され利用されると思います。

行って理解したのですが、ここはレストランやオーベルジュとかよりはむしろ教会に近いところでしょう。祈りを捧げる場所です。宗教的な香りはまったくありませんし、顧客に緊張を強いる場所ではありません。しかし、ここは明らかに浄化される場所であり、命を底から洗浄される場所です。

このエレゾのオーベルジュのある場所は、イメージ的にいうとブラックジャックの崖の上のお家に近い感じです。北海道の少し荒い海に面しており、高台の場所です。訪れる人はほとんどおらず、さびれた漁村です。スコットランドの海辺のような海外に来たような感じもあります。なにもない海を臨んだ高台に3つのコテージと1つのレストラン棟があります。

近くのコンビニまでは歩いて3時間30分くらいかかります。そういう場所なんです。

コテージは高台の草原にあり、崖のどんつきに3棟並んでいます。中に入り、奥のドアをあけるとそこにはベランダと180度広がる海が広がります。荒々しい波の音が聞こえますが、ゆるりと湾曲して目の前には砂浜もあり、見るとその空間の広がりに声をあげます。

なにもないところなのですが、場の強さが半端なく、まだなにも食していない段階からその場にいるだけに魂が洗浄されるのを感じます。ひとつひとつの体や心の部品が分解され、まるごとに洗われて、適切なグリスなどを加えられて、再度、しかるべきところに組み立てられた感じがしました。いわゆるオーバーホールというやつですね。

最近、目による情報や音による情報が人間に対してダイレクトに(単なる気分の問題ではなく)治癒効果があるというのがわかってきています。青いものを見るとリラックスするのですが、それも実は目のセンサーに寄る物理的な反応だそうです。おそらくそういう五感による情報が人間の体にダイレクトに影響を与えているのは間違いなさそうで、医学的な論文がたくさん出ています。

実際にエレゾ・エスプリはそのような場所であるのは間違いなく、そこは魂を浄化させる場所であり、単なるグルメやエンターテーメントを超える場所であることを行って初めて理解しました。

コテージは非常に上質で、華美なものや豪華さはまったくありませんが、なんともいえず上質な空間です。ベッドの品質、お風呂のシャワーヘッドや水道の栓などにもオーナーの強い愛情を感じます。

レストラン棟に入ると5分間のビデオを見る儀式があります。肉の教会ですから、本当は賛美歌を歌う必要があるのでしょうが、歌は歌いません。

エレゾはオール・ジビエのレストランです。彼らは「食肉加工集団」と自分たちのことを規定しており、それに強い誇りを持っています。かつて、肉や内臓を扱う仕事というのはいわれのない偏見がありました。彼らはそれに対する偏見とまっすぐに向き合っている人たちです。

あらゆる状況を理解して、適切に野生動物を撃ち、適切に運び、残らず加工し、必要な処理と熟成を行い、肉を育てます。ソーセージにしたりハムにしたりすることもあります。

まずは、「すさまじく」美味しい料理でした。「とても」ではなく「すさまじく」です。彼らは食肉加工集団として肉の加工に自信と誇りを持っていますが、誇りの強さが顧客の満足度につながらないことをむしろ冷徹に知っている人たちなんだと思います。なので、おいしいことに対するまずは強いこだわりを感じました。一方で緩急の少ないメニューで、スターターからデザートまでほぼ全力投球です。もちろん最後の鹿肉は「メイン料理」にふさわしい重さと力強さがありました。しかし、「幕間つなぎ」のようなもの考え方はないように思いました。

おそらく、出されているものの命の重みに優劣がないからでしょう。彼らの提供しているのは食材ではなくと命そのものであるから。それぞれの命はそれぞれが主人公であるわけですので、脇役という扱いではないわけです。もちろん必ず食べるには順番というものがあるわけですが、順番は命の価値の順番ではない、というのを強く感じました。

特に驚いたのは、鮭の料理です。魚は肉料理の中では少し箸休めや幕間つなぎ的な役割をすることが多いのですが、佐々木シェフは鮭を脇役ととらえずに、豚や鹿やクマと同程度のリスペクトを持って料理をしていました。佐々木シェフはべらべらそういうことを語るわけではないのですが、鮭も鹿やクマに劣らず野生動物としての存在感をもっていることに驚きました。

パンはサラミに添えられて出てくるのみで、ご飯やパンや麺などはあまり出てきません。さらに牛乳や卵などもほぼ使われていませんでした。ほぼ赤みの肉と地域の野菜中心の料理です。締めのご飯やパスタなどを食べたい、という人には物足りないかも。しかし、ローカーボダイエットの人にはこれ以上ないレストランではないでしょうか。

写真は取りましたが、ここでは載せません。というのは、プレゼンテーションが美しくないわけではないのですが(むしろ非常に美しい)、おそらく視覚的情報はむしろ誤解を招くかもしれないと思いました。

たまたまジビエですが、肉であったり命との向き合いというのが大きなテーマだと思います。なので、ここは肉の教会です。すさまじくおいしいが、すさまじく心が浄化されます。肉のミサを佐々木シェフの采配の上でとりおこなわれ、その場の力と食の力で明日へのエネルギーを生み出し、生命が再生される場所です。

料理を超えた場所であり、肉の教会であり、ジビエの聖地です。

おそらくこれから何度となく必要に応じて通うことになると思いますが、一方でおそらくほとんど予約が取れなくなるのは間違いないと思います。もし気になる方は今、予約をとったほうがいいでしょう。

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