ある日、ベッドに力なく寝そべりながら、ぼんやりとツイッターのタイムラインを眺めていたら、「梨奈の部屋」なるイベントが催もよおされることを知りました。大の酒好きである今野梨奈こんのりなちゃんが、ゲスト2人を招いて飲酒ライブ配信をし、それをオタクが観覧できるということでした。

　僕はそのツイートを見て、「なにこれ楽しそう」と思ったので、「なにこれ楽しそう」と引用リツイートしました。するとすぐに今野梨奈ちゃんからの「いいね」が付きました。スマホでカレンダーを確認したところ、どうやら行けそうだったため、TIGETというサイトでチケットを購入しました。値段は税込1500円、ドリンク代別途500円でした。安い。

　りなりーはもともと酒好きを公言していませんでしたが、ある日突然酒好きであることを全世界に告白しました。本人曰く、ほぼ毎日酒を飲んでいるらしいから、りなりーの心と身体が心配です。大宮アイドールのWikipediaには週8で酒を飲んでいると書かれています。

　僕の書いた節酒に関するnote記事を読んで、もう少しお酒を控えてほしいなと老婆心ろうばしんながら思います。僕も若いころの暴飲がたたって、いまは尿酸値や血圧が高いので。かかりつけの医師からは、「いつ痛風になってもおかしくないよ」と言われています。僕の周りのビール好きのおじさんたちが次々と痛風を発症しているので震え上がっているところです。

　当日、健康のために大宮駅まで30分くらい歩きました。開場時間の19時40分までには1時間くらい余裕があったので、大宮駅東口のゲームセンターに行って「艦これアーケード」をプレイしました。

　これは見た目によらず本格的な海戦ゲームで、戦争ゲームが好きな僕は結構楽しく遊んでいます。100円で15分くらいはプレイできるため、コストパフォーマンスも高いです。艦娘かんむすが敵の攻撃を受けると服が破けるので胸がドキドキします。オンライン対戦はありそうなのにありません。もしあったら、お気に入りの艦娘を互いに痛めつけ合うことになるため、恐ろしくギスギスしそうです。オンライン対戦、なくて正解だと思います。そんなわけで、コンピューターを相手に艦娘たちを操って海戦していたら、1時間はあっという間に経ちました。

　僕はゲームセンターを出て、梨奈の部屋がある「アイドル育成型ライブカフェアイドール」に向かって歩いて行きます。ちなみに当初、このお店は「アイドル育成型居酒屋アイドール」という名称でした。居酒屋なので、普通のサラリーマンがよく来ていましたね。アイドルになるためにオーディションを受けたのに、なぜか夜な夜な酔っ払いのサラリーマンの相手をさせられる、という状況だったため、すぐに辞めてしまう子が多数いました。その状況を打破するために名称を「ライブカフェ」に変えたんだと思います。

　ライブカフェアイドールに入店した僕は、チケットは既にネットで購入してあったため、ドリンク代500円だけを支払いました。しかしドリンクチケットが配布されなかったので、不安な気持ちになりました。ステージには「梨奈の部屋」が設置され、フロアにはテーブル席が15席くらい用意されています。僕は後ろのほうに座りました。そして思いました、「酒が飲みたい」と。しばらくソワソワしたのち、カウンターのところに行ってスタッフさんに「1杯目って無料ですよね？」と確認してからハイボールを注文しました。ちゃんと無料だったけど、不安になるのでドリンクチケットは配ってほしいです。僕はハイボールをちびちび飲みながら、開演されるのを待ちます。すると有志の方からクラッカーを2つ手渡されました。りなりーのアイドル11周年をお祝いするため、とのことです。僕はそのクラッカー2つをカーディガンのポケットに入れたり出したりしながら酒を飲みました。

　そして主役のりなりーが、奥のほうからステージ上に現れました。酒を片手にニコニコしています。「いい笑顔だなあ」と思いました。すでに楽屋で1杯ひっかけていたようです。時計の針が20時を回り、「梨奈の部屋」のYouTube生配信が始まりました。りなりーがしばらく一人語りをしたのち、ゲストの2人が登場しました。大宮アイドールの白川しらかわももちゃんと桜井ひとみちゃんです。この3人はよく一緒に飲んでいるらしく、それで今回ゲストに呼ばれたみたいです。

　僕は大宮アイドールでは白川ももちゃんを推しています。ももちゃんが出演するからこのイベントに来た、みたいなところもあります。白川ももちゃんが姿を見せたとき、「ももちゃん辞めないで！」と叫びそうになりました。ももちゃんは、9月3日のワンマンライブで大宮アイドールを卒業してしまうのです。

　ステージに現れた2人は花束を持っており、サプライズでりなりーに「アイドル11周年おめでとうございます！」と言ってそれを渡しました。と同時に客席のオタクたちが一斉にクラッカーを鳴らしたため、僕も慌ててクラッカーを手に持ち、白いひもを引っ張ります。拳銃が発射されたかのような鋭い音が鳴り響いてビックリしました。驚き戸惑っていたらタイミングを逃してしまい、2つ目のクラッカーを鳴らすことができなかった。僕はせっかくなので、イベントが終わったあとそのクラッカーを自宅に持って帰りました。もし家に強盗が押し入ってきたら、威嚇兵器として使用したいと思います。

　りなりーは壇上の3人分のハイボールを作り始めました。1対4くらいの結構濃いめのハイボールを作っていたので心配になると同時に、「いいぞもっとやれ！」とも思いました。

　ステージ上の3人は、りなりーの作ったハイボールで「酒は避けられない！」という掛け声とともに乾杯して、和なごやかにトークをしながら飲み始めました。客席のオタクたちも酒を飲みます。その場の雰囲気はとても緩かったです。酒好きの人間がほとんどだったので、ひじょうに居心地がよかった。僕はハイボールをちびちびやりながらアイドルを眺め、飲み干すとお代わりしに行き、おしっこがしたくなればトイレに行きました。まるで本当に梨奈の部屋に遊びに来ているようでした。「なんて快適な部屋なんだここは！ 住みたい！ 帰りたくない」と思いました。また、「りなりーは教育系YouTuberをやって挫折していたけど、晩酌系YouTuberになれば良いのでは？ 絶対人気出そう。少なくとも僕は毎回見るぞ」と思いました。

　酒を飲みながら何となく白川ももちゃんを見つめていたら、バチっと目が合いました。ももちゃんは僕を見つめたままにっこり笑い、右手をクイックイッと動かしました。僕はそのジェスチャーを「ふちりんもっと飲んで！」と読み取り、笑顔で応えました。僕はハイボールをごくごくと飲み干し、またカウンターに歩いて行って500円を支払いました。ふと「梨奈の部屋」の一番左にいる桜井ひとみちゃんを見やると、いつも以上にニヤニヤしながら酒を飲んでいました。ひとみぃは、いつもニヤニヤしていて可愛いのです。今日は少し酔って、いつも以上に可愛らしかったです。

　酒とアイドルを楽しんでいたら、あっという間に1時間が経過し、YouTube生配信は終了しました。撮影が終わると3人のアイドルたちは前に出てきて、改めてオタクたちと一緒に乾杯をしました。少し酔っぱらっているももちゃんが可愛かったので、ここでも「ももちゃん辞めないで！」と叫びそうになりました。

　それからチェキ会が始まりました。僕はももちゃん推しなので、ももちゃんのチェキ券を買いました。チェキ券は1枚あたり税込1000円です。僕はまるでアル中かのようにハイボールを持って列に並び、カップを携たずさえたまま白川ももちゃんの元に辿り着きました。ももちゃんは梅酒のビンを持ってきて、僕と乾杯してくれました。「これがももちゃんとの最初で最後の乾杯かもしれないな…」と思った僕は、「ももちゃん辞めないで！」と叫びました。もちろん心のなかで。

　「梨奈の部屋」は、酒とアイドルが大好きな僕にとって、心から楽しいイベントでした。緩い雰囲気がとても心地よかったです。欲を言えばもっと長尺でやってほしかった。1時間では短い。アイドルたちには、2時間くらい飲み続けてもっと酔っぱらってほしいです。僕はアイドルが酔っぱらっているのを見るのが好きだし、そんな姿を見ながら酒を飲むのが何よりの幸せなのです。ちなみにライブ配信のアーカイブがYouTubeに残っているので、もし気になったら見てみてください。お酒を飲みながら見たら、きっと楽しいと思いますよ。