ハニースパイスの宮花みやはなももちゃん推しのジルジルさんが、「大宮アイドールの店舗に行ってみたいです」と言うので、一緒に行くことになりました。大宮アイドールは現在、緊急事態宣言が発出されているため土日祝のみ営業しており、予約制となっているので、我々はインターネットで予約してから行きました。

　僕は9月18日の土曜日、昼の12時ごろに自宅を出て、まずはウォーキングを兼ねて大宮駅前の鐘塚公園かねづかこうえんまで歩きました。途中でミニストップに寄ったところ、売り切れ続出とインターネットで話題の缶ビール、マルエフがたくさん陳列されていました。僕は欣喜雀躍きんきじゃくやくしてそれを買ったのですが、のちにツイッターのフォロイーさんが、「品薄商法のビール」的なことを言っているのを見て、「ふちりん、品薄商法に騙された可能性でてきた」と思いました。味は美味しくもなく、まずくもありませんでした。これだったら淡麗グリーンラベルでいいかな。値段が安いし、糖質も少ないし。

　滝のようにかいた汗をじゅうぶん乾かした僕は、おもむろにベンチから立ち上がり、大宮駅へと向かいます。十字路交差点の赤信号につかまると、なんとなく写真を撮りたい気持ちになり、大宮駅が遠くに見える写真をスマホで撮影しました。この写真には写っていないけれど、左手にはマックがあります。月見バーガー、みんな食べていますよね。僕も食べたい食べたいと思っているけど、まだ食べていません。混んでる店が嫌いなので、どうもマックにはなかなか近寄れません。月見バーガーが食べたいです、心の底から。

　大宮アイドールの予約時間である14時30分までにはまだ時間があったため、僕は大宮駅を通り抜けて東口から出て、「メイドカフェハニーハニー大宮店」に入りました。可愛いメイドさんにおでこで検温され、端っこのテーブル席に座り、アイスコーヒーを注文しました。それをゆっくりと飲みながら、メイドさんと世間話をしました。時間はたっぷりあるし、ここでお昼ごはんを食べることにしよう。そう考えた僕は、秋メニューの牡蠣かきとなんちゃらのグラタンを頼みました。「なんちゃら」が何だったのかは思い出せません。写真だと緑色のものが見えるので、ほうれん草なのかもしれない。気になる人は、ぜひハニハニに行って確かめてください。とても美味しかったですよ。思ってたよりちょっと水っぽかったけど。

　ところで、僕の左側の3番目のテーブル席に座っているお客さんが、頻繁に咳込んでいるのが気になりました。彼の周りのお客さんたちは、大いに非難を込めた目で彼のことをチラチラ見ています。しばらくすると、周囲からの視線に居たたまれなくなったのか、彼はかなり短い滞在時間でお会計をして店を出ました。メイドさんに「咳が出るけど、熱はないんだよね」と言っていました。「咳が出ている自覚があるなら最初から店に来なければよかったのでは…」と思いました。僕は誰かが咳込んでてもあまり気にしないけど、他のお客さんたちが非難の目で見つめるので、なぜか僕が居たたまれない気持ちになります。

　メイドさんに声をかけるタイミングをうかがっていたら（コンカフェあるある。メイドさんが他のお客さんと話し込んでいると声をかけづらい）、大宮アイドールの予約時間の14時30分に間に合わなさそうになり、急いでお金を支払って店を出ました。そしてやや早歩きで大宮アイドールに向かい、入店しました。まず洗面所で手を洗い、アルコール液で手指の消毒をし、フェイスシールドを装着しました。僕は店内を見回し、テーブル席にジルジルさんがいるのを発見しました。ピンク色のTシャツを着ています。ジルジルさんは宮花ももちゃん推しなので、もものイラストがプリントされています。

　ジルジルさんは、「ハニースパイスの宮花ももちゃんが大宮アイドールの白川ももちゃんと仲良しらしいこと」を知り、大宮アイドールの店舗に来てみたくなったようでした。一方の僕は、久しぶりに大宮アイドールに来ました。緊急事態宣言が出て酒が飲めなくなってから、ぜんぜん行っていなかったのです。これではアイドルより酒が好きだと思われても仕方がなく、顔を合わせる時はかなり気まずかったです。それでもアイドルたちは笑顔で優しく僕に接してくれました。ありがとうございます。

　研修生の小川さくらちゃんは、はきはきと速いスピードでしゃべる可愛らしい女の子でした。「ふちりんさんって、クジラのアイコンの人ですよね？」と言われたので、「クジラじゃないよ、クラゲだよ」と優しく教えてあげました。研修生はもう一人出勤しており、彼女の名前は日向ひなたるおちゃんでした。るおちゃんは背が小さくて可愛らしい子で、やはりはきはきと喋りました。文学が好きらしく、芥川龍之介が好きだと言います。僕も小説を読むのが好きだと告げると、「誰が好きなんですか？」と問われ、「村上春樹です」と答えました。最初に思い浮かんだ小説家の名前は中村文則なかむらふみのりだったけど、知らない可能性があったので踏みとどまりました。文学好きな人に「村上春樹」の名前を出すと馬鹿にされる可能性があり、それはそれでどうなんだ、とも思いますが。さらにるおちゃんは「おすすめの本はありますか？」と尋ね、僕の頭には『夜と霧』という題名が浮かび上がったけれど、「ここでその本の名前を出すのは適切ではないだろう」と思い、回答するのは保留させていただきました。

　大宮アイドールの正規メンバーの「りなりー」こと今野梨奈こんのりなちゃんも出勤していました。相変わらず大人の色気を振りまいています。りなりーは僕の近くに来ると、「私、ふちりんにどう思われているのか不安なの！」ととびきりの笑顔で言いました。「りなりー、不安にならなくてもいいんだよ。僕はただの可愛いクラゲちゃんなんだから。りなりーの悪口をツイッターとかで書いたことは一度もないし、心の中で罵ののしったことも一度もないよ」と思いました。

　大宮アイドールの正規メンバー（4人います）の中では今のところ、白川しらかわももちゃんが一推しです。ですから僕は、ももちゃんとチェキを撮ることにしました。ライブが終わったあとに（店舗にはライブ用のステージが設置されています）チェキ会が始まり、撮影係の男性（AV男優みたいな雰囲気の男性）が「白川ももとチェキ撮影ご希望のお客さま～！」と叫びました。僕はおもむろにステージへと歩いていき、ももちゃんの隣に立ちました。するとももちゃんは「コップのフチ子さんって知ってる？」と言ってフチ子さんみたいなポーズをしました。僕はコップの真似をするために屈かがみました。できあがったチェキを見てみると、ももちゃんは本当にコップのフチ子さんみたいにして僕の隣にいて、「ああ、とっても可愛らしいなあ！」と思いました。

　土曜日の第1部の終了時間である17時になりました。店舗を堪能して満足顔のジルジルさんと一緒に店を出て、酒を飲める場所を探しました。その途中でジルジルさんが、ハッとさせるような意見を言いました。「桜井ひとみちゃん（大宮アイドールの正規メンバー）と話していて思ったんだけど、コロナ禍で何もかも自粛している大学生と、ひとみぃのように学外の活動を積極的に行っている大学生とでは、大きな差がついてしまうよね」と。僕は「なるほど、確かにそうですね」と答えました。自粛するのは大事なんだろうけど、完全に自粛していたら、人間的に成長するのは難しいよなと思いました。我々はどのお店に入るか悩んだ挙句、大宮駅前の繁華街の某焼肉店に入りました。その店は、強制的に一人2品注文させられるタイプの糞みたいな焼肉屋だったので、酒を2杯だけ飲んで早々に退店しました。緊急事態宣言が解除されたら、ジルジルさんとはもっとまともな居酒屋に入ってゆっくり飲みたいです。

　ジルジルさんを大宮駅の改札で見送った僕は、まだ飲み足りなかったので、行きつけのバーである「ガールズアニソンバーもふる」に行きました。この店は酒を出しているし、ガールズバーだけどカラオケがないからとても良い店です。女の子もみんな可愛くて個性的です。カラオケがあるとうるさくてゆっくり会話できません。カラオケのないガールズバーって、正直言ってかなり貴重な存在なので（だいたいのガールズバーにはカラオケが設置してある）、「もふる」には末永く存続してほしいなと思います。とちくるってカラオケを導入したりしないでほしいですね。僕は「もふる」で女の子と楽しく会話しながらウーロンハイを大量に飲み、べろんべろんになって終電で帰りました。

　深夜0時を過ぎていたので、自宅の玄関ドアを静かに開けると、いちばん上の兄が、居間で誰かと話をしているのが聞こえてきました。どうやら友人と酒を飲んでいるようです。僕が帰ってきていることには気付いていません。「俺には弟が2人いるんだけど、一番下の弟、あいつは駄目人間だ！」みたいなことを言っていました。その言葉を耳にした僕は大きなショッキングを受けました。いつもは僕のことを悪く言わない兄なだけに、ショックは大きかったです。僕は居間のドアを開け放って「話は聞かせてもらった！ どうせ僕は人間失格ですよ！ いっそ殺してくれ！」と言うことはしなかった。黙って静かに自室の扉を開けて中に入って閉めました。そして下町のナポレオン、いいちこをクローゼットの中から取り出し、太宰治の『人間失格』を本棚の奥から引っ張り出し、スマホで写真を撮影しました。その写真をアップロードし、「よっぴらってきた～」とツイッターでつぶやきました。生まれてきてしまい、すみません…。そう思いながら僕は、静かに幾筋いくすじも涙を流しました。