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事例研究 適正な不動産取引に向けて⑫

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「事例研究 適正な不動産取引に向けて」。
(一財)不動産適正取引推進機構が、実際にあった不動産トラブル事例を紹介しながら、実務上の注意点を解説する人気コーナー。今回は『月刊不動産流通2019年12月号』より、「定期借家契約の有効性に関する説明義務違反による、媒介業者の損害賠償責任が認められた事例」を掲載します。

★定期借家契約の有効性に関する説明義務違反による、媒介業者の損害賠償責任が認められた事例

 土地建物の売買契約を締結した売主が、当該建物の借主に定期借家契約が有効でないとされ、売買条件である借主の退去に解決金の支払いを要したことについて、媒介業者に対し、定期借家契約の有効性、借主退去が得られなかった場合違約金を支払うことになる説明をしなかった注意義務違反があるとして損害賠償を請求した事案において、売主が支払った解決金および弁護士費用相当額が認められた事例(東京地裁 平成30年3月27日判決 ウエストロー・ジャパン)。

1、事案の概要

 売主Xは、土地建物(本件不動産)の売却を媒介業者Yに依頼していたが、他の媒介業者Aの媒介により、借主Bとの間で平成27年10月より期間1年とする定期借家契約( 月 額 賃 料13万5000円・本件借家契約)を締結した。なお、契約時に借地借家法38条2項規定の書面(法38条書面)の交付はされなかった。翌年7月、Xは本件借家契約を1年間延長する覚書(本件覚書)をBと締結した。

 その後、購入希望者Cが現れ、Yは、Xより聞いた本件借家契約の終了日を前提に売買条件をとりまとめ、XとCは売買金額を4000万円、違約金を800万円とする売買契約(本件売買契約)を締結した。

 しかし、Xが本件借家契約の終了をBに通知したところ、本件借家契約は定期借家契約として効力を有しないなどとしてBに退去を拒否された。Xは、Bが退去しなければ違約金800万円の支払いが必要となることから、解決金288万円を支払うことでBの退去を得た。

 XはYに対し、「Yは、法38条書面の交付がない本件借家契約は、定期借家契約の効力を有しないことを、関係書類一切の提供により認識し得たにもかかわらず、本件借家契約の効力や、Bが退去を拒否した場合違約金を支払わなければならないという、売買契約締結の判断に重大な影響を及ぼす事実を、Xに説明しなかった。YにはXに不測の損害を生ぜしめないよう配慮すべき注意義務違反がある」として、本件解決金のほか、逸失利益、慰謝料、弁護士費用等、計829万円余の損害賠償を請求した。

 Yは、本件借家契約が定期借家契約として無効であったことに起因するXの損害は、本件借家契約を締結した者に請求すべきで、本件売買契約の仲介者が責任を負うものではないなどと反論した。

2、判決の要旨

 判所は次のように判示し、Xの請求を一部認容した。

(1)本件売買契約においては、定期借家契約と評価されない本件借家契約が存在していたため、Bが退去を拒んだ場合、Xは本件不動産の明渡しができず、Cに本件売買契約を解除され800万円の違約金支払義務を負担するおそれがあったところ、Yは、本件売買契約締結前にXから交付された本件借家契約書および本件覚書により、本件借家契約が定期借家契約とは評価され
ず、Bが退去しないおそれがあるとの本件売買契約の目的達成に影響を及ぼす事情を認識していたにもかかわらず、合理的な理由なく、当該事情をXに説明していなかったのだから、Yには媒介業者としての説明義務違反がある。

(2)Yは、①本件借家契約の締結に関与していない、②本件借家契約には専門の仲介者が入っていたため、法38条書面の交付がないとは考えられなかった、③Xが本件借家契約は定期借家契約として有効と話していた、④Xから、本件売買契約を締結するまでBに連絡をしないよう強く言われ、Bに直接退去の意向を確認できなかった」ことから、調査を尽くしても、本件借家契約が定期借家契約として無効であることを知り得なかった旨主張する。

 しかしYは、本件借家契約書および本件覚書の内容から、本件借家契約が定期借家契約の評価を受けるものではないことを認識していたと認められるなどの事情に照らすと、①~④の事情をもってYに説明義務違反がないとはいえない。

 (3)Yの義務違反行為と相当因果関係のあるXの損害として、本件解決金288万円および弁護士費用相当額29万円が認められることから、Yは317万円をXに支払うべき義務を負う。

3、まとめ

 借主の退去を条件とした賃貸中の土地建物の売買契約において、借主が退去を拒絶した場合、売主は契約を履行できない状態に陥ってしまうことになる。

 本件は、定期借家契約が有効ではないとして借主に退去を拒否された事案であるが、仮に有効であったとしても、借主が退去を拒否した場合、その退去を得るには裁判所の判決を得る必要があることから、本件のような事案においては、媒介業者は借主が退去しなかった場合のリスクについて売主にあらかじめアドバイスをする必要があろう。

 なお、定期借家契約は法38条書面の交付がなければ普通借家契約として取り扱われること(最高裁一小 平成24年9月13日判決)、借地借家契約について更新したとすると、普通借家契約として更新されること(東京地裁 平成27
年2月24日判決)は、基本的知識として確認をしておきたい。

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※事例に関する質問には応じることはできません。また、上記は執筆時点での事例の内容・判決です。その後変更している場合がございます

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