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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務⑧更地の売却(2)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年8月号』より、「更地の売却(2)」を掲載します。

更地の売却(2)

 今回は「更地の売買」について生活関連施設の典型的な紛争を紹介し、トラブルを未然に防ぐための調査実務について考えてみたい。

1.生活関連施設の調査事項とトラブルの傾向

⑴生活関連施設の説明事項
 生活関連施設とは、電気、ガス、飲用水および排水施設を表す。これらについて、重要事項説明では以下の点を相手方に説明しなければならない。

①直ちに利用可能な施設
 この場合「直ちに利用可能な施設」とは、更地の場合は前面道路まで配管がされていて容易に敷地内に引き込める状態を指す。

②配管等の状況
 前述の「直ちに利用可能な施設」が、現状においてどのような配管状況にあるのか、その概略を示すことが必要になる。場合によっては「配管図表」という書式を重要事項説明書に添付して説明する不動産団体もある。

③整備予定および負担金
 現状で施設が未整備の状態、また、利用施設が将来整備される予定等の場合は、「整備予定日」を相手方に説明しなければならない。また、施設の整備にあたり特別な負担金等が発生する場合には、その「負担額」を記入する必要がある(負担金等の額が明確でない場合は、「未定」と説明、記入すればよい)。

⑵生活関連施設に関するトラブルの傾向
 前回示した通り、ライフラインは更地の紛争のうち約2割近く(19%)を占める。更地は未利用地であるため、買い主が今後建築するにあたり、何が「直ちに利用可能な施設」なのか、また、その施設を利用するためにどのくらい負担額が必要なのかを慎重に調査しなければならない。

 図表1は更地に限らず他の物件種類を含め、施設ごとの紛争を集計したものである。この図表から分かる通り、生活関連施設の紛争は飲用水と排水施設に関するものが多いが、これは更地に限ってみた場合も同様である。

 今回は、生活関連施設のうち上下水道に関して、更地の取引にあたりどのような紛争が多いのか、また、それを未然に防止するための対策を考えていく。

【前回の記事はこちらから】
そもそも更地とは?更地の売却でよく起きる紛争は?

2.飲用水の説明誤りによる紛争

 取引物件を特定するための資料には公図や地積測量図などがあるが、これら資料の見落としや理解不足からよくトラブルになるケースとして、次のものが挙げられる。

⑴更地の取引で多い紛争ケース
 
飲用水は施設の種類に応じて、①公営水道、②私営水道、③井戸水に大別される。更地の取引においては公営水道の配管状況を表す図面に関して紛争が最も多く、また配管等の状況において、引込管が他人の敷地に埋設されていたり、他人の引込管が敷地内に埋設されていたりするケースも多い。さらに井戸水・私営水道に関する「水質不適合」の紛争も一定数見られる。

 以下では、これら施設のうち公営水道の紛争に関して見ていく。

⑵水道管管理図面の閲覧・確認不足
 
公営水道の紛争において止水栓やメーターまでの配管状況を示した図面(以下、水道管管理図面)の入手・確認不足を原因とする紛争が最も多い。例えば、次(図表2)のような紛争事例がある。

 このケースでは、水道管管理図面を見ると敷地内に配送管(本管)が埋設されていることが明らかであったため、仲介事業者は過失を認めざるを得なかったようである。

 公営水道の調査は、1.設備事業者から図面を入手し、2.現地で目視可能な箇所につき図面と照合、3.売り主や不明な点を近隣へ聞き取り調査という流れになる。このケースのように、初動調査である水道管管理図面で明らかになる事項は、仲介事業者の過失と判断されることがほとんどであるから、必ず入手しておかなければならない。

 そして図面を確認する際、「隣地の引込状況」も確認しておくべきである。隣地の状況から他人の配管が取引物件の敷地内を通過していることが予見できたこともある。

(3)現地の確認不足
 過去に建物があった土地については、引込管が敷地内に撤去されず残っていることがある。そのような更地の取引においては図面内容を確認しただけでは不十分であり、必ず目視可能な施設を現地確認すべきである。

 引込管が他人の敷地に埋設されていたり、他人の引込管が敷地内に埋設されていたりするケースに関して、実際に紛争のあった現地を観察すると、隣地にメーターボックスがなかったり、取引物件においても図面の表記と異なった場所に設置されていたりするなど、不自然さを感じたり、違和感を覚えることが多い。

 このほか設備事業者の説明誤りや図面の記載誤りからくる紛争についても、「現地確認」をすればかなりのトラブルを防ぐことができるものばかりである。

 このため更地に給水管が引き込まれている場合は、少なくとも次の2点は現地で確認しておきたい。

・止水栓や水道メーターの位置について図面と相違がないか
・ボックスがある場合、フタを開けて「口径」と「管の向き」の確認

 これらを調査確認の上、設備事業者の図面が現況と異なっている等、少しでも紛争の予兆が見られるときはあらかじめ相手方に告知し、当事者同士で万が一のときの費用負担を取り決めしておくべきである。


3.排水施設の説明誤りに関する紛争

(1)更地の取引で多い紛争ケース
 更地の取引で最も多い紛争が①公共下水道処理区域の確認に関する紛争である。次に多いのが、②下水管が他人の敷地を通過していた、または他人の下水管が取引物件を通過していたというケースであり、その他に③浄化槽の放流先から拒否されトラブルになるケースも更地の取引では一定数みられる。本稿ではこれらのうち、①について典型的な紛争事例とその未然防止策を考えてみたい。

 排水施設の調査では、現在利用している施設がどうあれ、必ず下水道担当部署に行き、下水道処理区域内か外かの確認が必要である。その理由の一つがこれから述べる「受益者負担金」である。受益者負担金は徴収しない自治体もあるが、多くの自治体で都市計画法や地方自治法を根拠に徴収しており、この受益者負担金の説明し忘れからくる紛争は、更地の取引において特に多い。

 ただし、受益者負担金の紛争といっても処理区域内と処理区域外とで紛争の傾向が異なるようである。

(2)受益者負担金の紛争(処理区域外の場合)
 水道処理区域外における更地の取引で、受益者負担金に関する紛争で多いのが図表3のようなケースである。

この紛争事例から分かる通り、下水道処理区域外の場合は「いつ処理区域に編入されるのか」を下水道担当部署で確認しなければならない。

地方公共団体は、それぞれ公共の水域または海域ごとに、下水道の整備に関する総合的な基本計画(流域別下水道整備総合計画、以下、整備計画)を定めることになっている(下水道法2条の2)。この整備計画の中に取引物件の整備予定がなければ、下水道以外の排水施設を検討することになるが、反対に(実際に整備されるかどうかはともかく)、整備計画に入っていれば、将来下水道処理区域となる可能性があり、もし区域に編入された場合は以下の義務が発生することを少なくとも相手方に説明しなければならない。

(ア)受益者負担金が発生すること
(イ)下水道法10条に基づき、原則として排水施設の設置義務があること
(ウ)下水道法11条の3に基づき、汲み取り式は水洗便所に改造しなければならないこと

(イ)の下水道法10条については、国土交通省のアンケート結果(図表4)によれば、接続義務を知らない人が半数以上を占める。

下水道法に関しては建築確認の項目の一つであり、現在は浄化槽の設置で良くても処理区域編入後は下水道を利用しなければならない。このため、受益者負担金だけでなく下水道法10条についても相手方に説明しておくことが重要である。ただし例外的であるが、自治体によっては合併処理浄化槽で許されるところもある。

(3)受益者負担金の紛争(処理区域内の場合)

たとえ取引物件が下水道処理区域内であっても受益者負担金の確認は必要になる。具体的には、現所有者が受益者負担金を支払っているかどうかを下水道担当部署の窓口で確認しなければならない。その理由は、各自治体の条例に基づき取引物件の土地について受益者負担金が免除や減免されていたり、延納等の措置が採られていたりすることがあるからである。

延納措置等のトラブルで特に多いのが、現況農地で引き渡し後に農地転用をしたところ、所有者へ受益者負担金が課せられ紛争になるケースである。
例えば、ある市では次のような受益者負担金に関する条例が定められており、取引物件の土地は当該条例第7条3号により徴収猶予の措置が採られていた。

(賦課対象区域の決定等)
第5条 管理者は、負担金等を賦課しようとするときは、負担金を賦課しようとする区域を定め、これを公告しなければならない。

(負担金の賦課および徴収)
第6条 管理者は、第5条の公告の日現在における当該公告のあった賦課対象区域内の土地に係る受益者ごとに算出した負担金の額を定め、これを賦課するものとする。

2~4(略)
(受益者に変更があった場合の取扱い)
第9条第5条の公告の日後、受益者に変更があった場合において、当該変更に係る当事者の一方または双方がその旨を管理者に届け出たときは、新たな受益者となった者は、従前の受益者の地位を継承するものとする。ただし、第6条第1項の規定により定められた額のうち当該届出の日までに納付すべき時期に至っているものは、従前の受益者が納付するものとする。
(負担金の徴収猶予)
第7条 管理者は、受益者が次の各号のいずれかに該当すると認めたときは、管理者が定める基準により、負担金の徴収を猶予することができる。
(1)受益者が当該負担金を納付することが困難であり、かつ、その現に所有し、または地上権等を有する土地の状況により、徴収を猶予することが適当であるとき。
(2)受益者について災害、盗難その他の事故が生じたことにより、受益者が当該負担金を納付することが困難であるため、徴収を猶予することがやむを得ないとき。
(3)受益者が賦課対象区域内において、農地法(昭和27年法律第229号)第2条第1項に規定する農地を所有し、かつ、現に当該農地が耕作されているとき。

 この市で実際に発生した紛争は、取引において農地転用により、徴収猶予の特例が解除され所有者に受益者負担金が発生したというものである。この条例に従えば、第9条に定める「納付すべき時期」(アンダーライン箇所)がいつかという点が問題になり、この点まで確認しておく必要がある(なお、この市では通知書の発送日が「納付すべき時期」にあたるとの見解である)。

 ここで取り上げた条例は、実際にある条例の一つであり、他の市町村ではこれとは異なる条例が定められている。このため、下水道処理区域内であっても受益者負担金を支払っているかどうか調べ、もし滞納や延納しているのであれば後日当事者間でトラブルにならないためにあらかじめどちらが負担するのか取り決めしておく必要がある。
 
 次回も引き続き、生活関連施設の紛争を見ていく。

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