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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務⑦更地の売却(1)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年7月号』より、「更地の売却(1)」を掲載します。

更地の売却(1)

 今回から、取引物件の種類別に見た紛争事例とそれを未然に防ぐための調査実務について解説する。まず「更地の売買」について典型的な紛争を紹介し、トラブルを未然に防ぐための調査実務について考えてみたい。

1.更地の特徴とトラブルの傾向

⑴更地の特徴
 更地とは建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地と定義できる。更地は他の不動産の種類と比べて①売り主自身、物件をよく知らないことが多く、②現地を見ても外形から分からないことが多い。このような特徴から、更地の売買における紛争には図表1のような傾向が見られ、特に多いのが土地の表示、生活関連施設、告知事項、法令制限の順となっている。

今回は更地の売買のうち、図表1の凡例で「表示」とある「土地の表示に関する説明」を原因とした典型的な紛争と調査実務を解説する。

⑵土地の表示に関する紛争
 土地の表示に関するトラブルを未然防止するためには、①売り主の境界明示、②資料の収集、③現地確認が必須の調査事項であり、必要があればさらに専門家に相談することも必要であ
る。

この調査確認作業のうち、更地の売買に関する紛争で多いのは、①公図や地積測量図など収集した資料の確認不足や理解不足からくるもの、また②現地で資料が一致しているかどうかを確認しなかったために紛争になるケースである。以下、これらについて調査実務のポイントを取り上げる。


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図表1 更地の売却における紛争割合

2.資料の見落としや理解不足による紛争

 取引物件を特定するための資料には公図や地積測量図などがあるが、これ
ら資料の見落としや理解不足からよくトラブルになるケースとして、次のも
のが挙げられる。

⑴赤道・青道の見落とし
 公図に関して多い紛争が、法定外公共物である赤道(里道)や青道の見落としである。これらが取引物件に含まれている場合、あらかじめ相手方に説明し、どうするのかを決めておかなければ、買い主から払い下げや占用許可に掛かる費用を損害賠償請求されるなどの紛争となる。

 この見落としがよくあるのは、取引する土地の面積が大きく筆数が多いケースである。以前の公図はマイラーと呼ばれる透明なフィルムで作成され、赤道や青道にはそれぞれ赤色、青色と色分けがされていた。現在は公図が電子化されたことで、赤道は「道」、青道は「水」と文字で表記されることとなったため、これらの見落としが多くなっている(図表2)。

⑵筆界未定地の見落とし
 
不動産登記法14条地図に筆の中で地番が複数記載されていることがある
(図表3)。このような土地は地籍調査が行なわれた際に、境界(筆界)を確認できなかったため、筆界が未定のまま処理されてしまった土地(筆界未定地)である。

 筆界未定地は金融機関から融資を受けることが難しく、これを解消するには所有者間で境界を決めて測量し、法務局へ地図訂正と地積更正を申請する
ことが必要になる。このため、手間と費用が掛かり、あらかじめ対処してお
かなければ後日紛争になる。

3.現地確認を怠ったことによる紛争

(1)収集した資料と現地との照合
 土地の表示に関する事項を調査するにあたり、売り主が明示した境界の範囲が公図等の資料と一致しているかどうかの確認が必要であり、これを怠っ
たためにトラブルになるケースが後を絶たない。

 トラブルには、境界明示の際に境界標を見間違え、誤った土地の範囲を示して紛争になるケースや、確定測量をしていたため現地確認をせず境界明示
だけで済ませたところ、境界標が移動しており境界再設置費用を負担させら
れるケースなどさまざまである。しかし、いずれのケースにも共通するのは、"現地確認をしていれば防げた紛争"という点である。従って、少なく
とも間口と奥行きについては現地確認をして資料と一致しているかどうかを
確認しておく必要がある。

(2)資料の正確性
 現地で測定した結果、資料と一致していないことも多い。これについては、測定の仕方が誤っているケースもあるが、資料が不完全であることも理
由としてあげられる。そこで資料がどれだけ正確なのかを知っておくことも
現地確認にあたり有用と思われる。

①公図(地図に準ずる図面)
 公図がどれだけ現況と異なっているのかという点に関し、国土交通省では
都市部の公図と現況のずれの情報を公開しており(図表4)、公図の正確性を確認するための目安になる。

 このサイトは土地の所有者から筆界を確認したわけではなく、また、一筆
ごとに公図とのずれを示すものでもないが、入手した公図がどの程度有用で
あるかの目安となり、確定測量を依頼すべきかどうかの判断材料にもなる。

 ただし、このサイトで提供している情報は、都市再生街区基本調査の成果
であり全国のDID(人口集中地区)のうち地籍が明確になっていない地域
を対象に実施されたものであるため、地籍が明確になっている地域やDID
外の地域については公図と現況のずれの情報は掲載されていない。

②14条地図の精度
 
一方、法14条地図については精度が国土調査法で決められており、その許容誤差は図表5の通りとなっている。

 別表第4にある精度区分とは、図面に要求される許容誤差(公差)であり、不動産登記規則10条に次の通り定められている。
•市街地...甲2まで
•村落・農耕地域...乙1まで
•山林・原野地域...乙3まで
 例えば精度区分が甲2の場合で間口や奥行きの一辺の長さが15mの場合、
許容される誤差は次の通りとなる。
 辺長が15mの場合(距離の公差)=0・04m+0・01×√15m≒0・078(約
7㎝)
 従ってこの場合10㎝未満の違いは許容誤差といえるが、もし十数㎝も違いがあれば土地家屋調査士に相談した方が良いだろう。
 このように、14条地図を入手したら、下部欄にある「精度区分」の確認
はしておきたい。

(3)測定工具の種類
 
現地確認において自らの測定方法が間違って資料と一致しないこともある。この点は使う測量道具によって気を付けるべき点が異なるため、ここで
は現地確認に必要な測定工具の種類を紹介することに留める。

 宅建事業者が更地の現地確認で使う測定工具には、次のようなものが挙げられる。

①メジャー
 最も一般的な測定工具として、「メジャー」があげられる。巻尺、コンベックスなど呼び方はさまざまである。帯がスチールタイプのもののほか、樹脂、布などのテープ状となっているタイプなどがある。

 スチール製のものは、裏側に数字が書き込まれている(写真1)。これは
限られたスペースで測定しなければならない場合、収納部分が邪魔になって
しまうためである。このような場合は無理に帯を折り曲げて計測せず、収納
部分の裏面に記載された長さを足せばよい。

 不便なのは、車の往来が多い道路等で幅員を確認する際は周囲に注意しな
がら測定しなければならない点である。また、測定にあたっては帯の端を固定する必要があり一人で測定することが困難な場合が多く、通常はもう一人必要になる。さらに測定可能な距離も、スチール製は最大5m程度、巻き尺でも30m程度であり、広大な土地での確認には不向きである。

 このような欠点を補うには、次のウォーキングメジャーを使用すると良い。

②ウォーキングメジャー
 ウォーキングメジャーは車輪を回転させて測定する工具であり、移動する
と距離がカウンターに表示される(写真2)。ロードメジャー、ステッキメ
ジャーなどとも呼ばれている。

 メジャーは巻き尺タイプでも一度に30~50m程度しか測れないが、ウォー
キングメジャーであれば、通常は1~10㎞まで計測可能である。持ち運びも
ポール部分が折り畳み式のものが多く、便利なことが多い。また、現地で測定したらメモなどで記録するが、そのとき一時的に立てかけられるスタン
ドが付属しているものもある。

 市販のウォーキングメジャーをみると、最小表示が10㎝単位のものと
1㎝単位で表示されるものとに分かれている。㎝単位の精度が要求される場合は、商品購入にあたり注意しておかなければならない。

 また極端な凹凸がある土地では測定しづらく、傾斜がある土地だと誤差も
大きいため、あくまで平坦な土地で使用することが条件である。

③レーザー距離計
 対象物に向けてレーザー光線を照射し反射して返って来るまでの時間を測
る距離計である。ハンディで持ち運びに便利であり、高い測定精度を持つ測
定工具といえる(写真3)。

 レーザー距離計は照射する対象物がなければ計測できないが、ブロック塀
などがある場合や、反射板を利用すれば土地の間口や道路幅員などの測定工
具として便利である。

 欠点は晴れた日中など環境条件によってレーザーポイントが見えず、どこを測っているか分からなくなってしまうことが多い。このような場合にはカメラモニターのようなファインダー搭載モデルも販売されている。

 また、障害物や高低差があってもほとんどのレーザー距離計には任意の
2点間から幅や高さを測定できる機能(ピタゴラス機能)があるのも利点で
あるが、測定誤差が大きいため、できるだけ手数の少ない方法で測るべきで
あろう。

(4)資料の内容と測定結果に違いがある場合
 
重要なのは、確認の結果、資料との相違があれば土地家屋調査士など専門
家に相談しておくという点である。資料と現地が一致しない理由はさまざま
であるから、憶測による判断は避け、危険な予兆や不自然な点を感じたとき
は土地家屋調査士へ相談すべきであろう。

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