見出し画像

宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務②法47条1号に関する事項(1)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年2月号』より、「法47条1号に関する事項(1)」を掲載します。

法47条1号に関する事項(1)

 これまでは宅建業法35条の調査項目を中心に解説してきた。今回から宅建業法35条に列挙されていない事項に関する調査実務を解説する。

1、法35条に例示されていなくても告知すべき事項

 宅建業法35条は最低限相手方に説明しなければならない事項であり、それ以外にも相手方にとって契約締結を左右する重要な事項は相手方に告知しなければならない。それを怠り、調査義務違反等を理由に相手方とトラブルになるケースが多くみられる(図表1)。

(1)宅建業法第47条1号について
 
この重要な事項に関して、宅建業法第47条1号では次の通りの定めがある。

第47条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為イ 第35条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項
ロ 第35条の2各号に掲げる事項
ハ 第37条第1項各号又は第2項各号(第1号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの

宅地建物取引業法第47条1号

 この条文をみると1号イからハまでは当然のことであるが、同号ハについては漠然としており具体的ではない。これは取引の相手方にとって重要な事項は異なるため、具体的な項目を示すことができないものと思われる。

 実際に、旧建設省から警察庁あての回答書にも次の通り記載されている。

業者が宅地建物の売買等に関し、その契約の要素というべき事項について、故意に事実を告げず、または虚偽のことを告げることにより、取引の依頼者または相手方に重大な不利益をもたらすおそれのある行為は、すべて「重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為」に当たる。

昭和36年10月7日建設計発第64号警察庁保安局長あて回答

(2)法47条1号に該当する例
 以上の通り、相手方にとって契約の要素に当たる重要な事項について告げなければ法47条1号に抵触する恐れがある。この点に関してこれまでの紛争事例や判例をみると、法47条1号の重要な事項とは主に、①相手方の契約目的に支障となる事項と、②社会通念上からみて瑕疵に当たる事項とがある。

①相手方の契約目的に支障がある事項
 売買でも賃貸でも取引態様に関係なく、必ず相手方には契約の目的がある。その目的に支障がある事項が、相手方にとって重要な事項といってよい。この点に関する典型的な紛争事例を次に紹介する。

 宅建業者は更地の売買の媒介依頼を受け調査をしたところ都市計画道路に指定されていたため、重説で『計画道路予定地(当該部分に建築する場合は法53条許可が必要)』と説明し契約した。しかし買い主が購入後に長期優良住宅の認定を申請したものの計画建物が都市施設にかかっているため認定されなかった。このため買い主は、「都市計画道路の指定は重説で聞いたが、長期優良住宅の認定が受けられないとまでは聞いていない」と主張し、住宅ローン金利の差額、住宅ローン減税の差額など損害賠償を請求されたというケースである(図表2)。

 補足すると、長期優良住宅の普及の促進に関する法律(平成20年法律第87号)では法6条第1項に認定基準が定められており、これを受けて各所管行政庁が認定基準を告知・条例化している。その認定基準の多くが、都市計画施設等の区域内において建築する場合は認定しない取扱いとなっている。この点を調査確認しなかったために発生した紛争といえる。

 ここでのポイントは、長期優良住宅を建築する予定でその土地を購入したという相手方の契約目的である。言うまでもなく、長期優良住宅の認定基準は法35条の説明事項ではない。

 しかし、あらかじめ相手方から具体的な建築計画を聞いている場合はその計画が実現可能かどうかまで調べる必要があるといえるだろう。

②社会通念上の瑕疵
 次に重要な事項としては、相手方の契約目的とは関係なく、社会通念に照らして瑕疵と考えられるものがあげられる。通常の注意義務を払っても気付かない瑕疵は、民法上瑕疵担保責任の問題となる。そこで瑕疵担保責任に関し、法曹界ではどのように分類されているかが参考になる。さまざまな文献をみると瑕疵の種類としては、一般に⒈ 物理的瑕疵、⒉ 法律的瑕疵、⒊ 環境瑕疵、⒋ 心理的瑕疵、の4種類に分類されているようである。いずれも法35条に明記されていなくとも法47条1号に関する重要な事項と考えてよい。

 個々の具体的なケースではこれら分類で重複するものもあり、例えば暴力団事務所が付近にある場合は環境瑕疵になるのか心理的瑕疵になるのか必ずしも完全に区分できるものではないが、ここではどれがどの分類になるのか深入りせずに考えてみたい。

⒈ 物理的な瑕疵に関すること
 典型的な例として、土地については土壌汚染、地中埋設物などがあげられ、建物については床の傾きや雨漏り、シロアリなどがあげられる。いずれも取引物件に物理的な不都合が存在する場合が該当する。
⒉ 法律に関すること
 宅建業法35条に列挙されていない法令等であっても、取引物件の処分や使用収益が制限されるような場合は、相手方に告知しなければならない。特に売買では条例関係、賃貸では消防法や風営法関係などに関する紛争が多くみられる。消費税をはじめとする税法なども広い意味でここに含まれるといえるだろう。
⒊ 環境に関すること
 例えば、近隣からの騒音、異臭、日照障害や、近くに暴力団事務所がある場合など、取引物件自体には問題はなくとも環境に問題がある場合があげられる。土砂災害警戒区域の基礎調査なども広い意味で環境に関する事項といえる。
⒋ 心理的瑕疵に関すること
 心理的瑕疵とは、その物件を利用するにあたり心理的嫌悪感を抱く場合をいう。例えば、取引物件で過去に自殺や殺人事件などがあった場合や、暴力団事務所が近辺にある場合などがあげられる。

2、法47条1号に関する調査全般

 以上の通り、法47条1号に関する調査項目は多くあり際限がない。次回以降で宅建業者にとってこれら調査項目を限定するにはどうしたら良いか考えてみたいが、その前に法47条1号に関して共通する最低限の調査について次に述べる。

(1)相手方の契約目的を明確にする
 先に紹介した長期優良住宅の認定が受けられなかった紛争のように、あらかじめ相手方の契約目的を明確にしておくことが重要である。相手方はその不動産を購入後にどう利用するのか、何の目的で借りるのかなど具体的に確認しておくべきである。

 例えば、事務所ビルの建築目的の購入希望者に第二種中高層住居専用地域の土地を紹介してトラブルになったケースがある。相手方は4階建てを希望していたようであるが、第二種中高層住居専用地域では2階以下の事務所しか建築できないためにクレームとなってしまった事例である。このような紛争はあらかじめ相手方から具体的な建築計画を聞いていれば未然に防げるものである。

 相手方の契約上の目的を明確にしておくことは、平成32年(2020年)4月1日から施行される改正民法(債権法改正)の契約不適合とも関係してくる。契約の目的を詳細に具体化することは難しいと思われるが、少なくとも①更地の場合は具体的な建築計画が予定されている場合はその計画内容を確認し、②建物付きの場合は増改築の予定や用途変更の有無(専用住宅か、非居住用か、兼用住宅か)ぐらいは確認しておきたい。

(2)現地確認と売り主への聞き取り調査(告知書)
 法47条1号に関して現地確認が必須となるのは言うまでもない。しかし社会通念上、瑕疵と考えられるものについて全て調べることは宅建業者では限界がある。例えば、騒音や臭いなどは限られた時間で現地を調査しても気付かないことが多い。このため売り主から告知書を提出してもらうことが必須となる。

5 不動産の売主等による告知書の提出について
 宅地又は建物の過去の履歴や隠れた瑕疵など、取引物件の売主や所有者しか分からない事項について、売主等の協力が得られるときは、売主等に告知書を提出してもらい、これを買主等に渡すことにより将来の紛争の防止に役立てることが望ましい。
(略)
 なお、売主等の告知書を買主等に渡す際には、当該告知書が売主等の責任の下に作成されたものであることを明らかにすること。

国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(その他の留意すべき事項)より抜粋

 この場合、告知書は必ず売り主に作成してもらうことが重要である。代筆した仲介業者が責任をとらされたケースも過去に報告されている。売り主が作成したわけであるから、上記「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」にも注意喚起されている通り、必ず売り主の責任の下に作成されたものであることを相手方に伝えておくことが重要である。

 また告知書の記載と事実が異なることでトラブルになるケースもよくみられる。売り主の提供する情報を単に買い主に伝えるだけでなく、通常の目視調査で確認できるようなことは自ら積極的に調査し、告知書の記載内容に相違ないか確認しておくべきであろう。

(3)近隣住民への聞き取り調査
 
売り主は必ずしもそこで生活しているとは限らない。取引物件が更地や空家であったり、競売や相続で取得した物件を取引したりするような場合は、売り主から有益な情報提供を期待することは難しいと思われる。また、たとえ生活していたとしても売り主が知らない情報を近隣住民は知っていたというケースも多々ある。このため、近隣住民への聞き取り調査も必要になる。

 近隣住民へ聞き取り調査をする際、近隣の範囲をどこまで広げたらよいか迷うところであるが、少なくとも取引物件と隣接している家屋の住民に対しては聞き取り調査をしておきたい。可能であれば4~5軒程度は確認しておいた方がよいだろう。調査にあたっては、確認先と日時を記録しておくことが重要である。

 近隣の聞き取り調査では、具体的な事象を尋ねると個人情報にかかわることがある。例え殺人事件があったことを知っていたとしても具体的な個人名や特定の物件を言わず、「この近辺で殺人や自殺などがありましたか」といった漠然とした聞き方が好ましい。意外にもこちらが把握していない情報を提供してくれることもある。

 以上は、法47条1号に関する事項の全般について共通した最低限の調査であるが、次回から社会通念上の瑕疵と考えられる重要な事項について解説する。

※PDFファイルをダウンロードしていただくと実際の誌面がご覧いただけます
※(株)不動産流通研究所の著作物です。二次利用、無断転載はご遠慮ください

★次号予告

次回は3月25日(金)に、『月刊不動産流通2019年2月号』より、
「地図博士ノノさんの鳥の目、虫の目」から
富士の白雪の行方」を掲載します。お楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?