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外国文学よみとき

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アラブ関連映画

アラビアのロレンス(1962)https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00S0ZR2T4/ref=atv_dp_share_cu_r 主役はイギリス人です。第一次世界大戦中、イギリスはドイツと戦っていました。敵が手ごわいです。ドイツはオスマントルコと同盟組んでいました。トルコをぐらつかせることが出来れば、イギリスは楽になります。そこで希望に燃える文学青年ロレンスをアラブに派遣、なんとかトルコ支配下にあるアラブに反政府運動させよう

時系列倒置の研究 8・「地下室の手記」【ドストエフスキー】

解説はこちら 構成はこうなっていまして、 より簡略に図式化するとこうなります。 第一部も第二部も内部に反復構造を内包している、「反復構造の二重」になっています。かなり奇抜です。物語としての効果というより、自分の言いたいこと、ここではキリスト教におけるキリストの喪失の問題を際立たせるために採用された構成です。実際わかりにくく効果が上がっているとは言い難い。ある問題をロジカルに考えて、その上で小説化する。その場合ロジカルさを優先すると小説としての効果が薄れ、小説としての完成

「スペードの女王」解説【プーシキン】

1834年の作品。多分名作です。「多分」というのは自信がないからです。 単純な因果応報話あらすじは 参照ください。 工科将校ゲルマンは、伯爵未亡人の老婆(以下老婆で統一)の幽霊からカード必勝法を教えられます。なんで老婆が幽霊になっているかというと、ゲルマンに殺されたからなのですが、「そのことは許してあげる、ただしリーザと結婚してくれたら」と言われます。 ところがゲルマンは愛の無い人間ですので、リーザはほったらかしにしてカード勝負に臨み、三日目に大逆転で負けて発狂します。ご

「ベールキン物語」あらすじ解説【プーシキン】

1831年、日本でいえば江戸時代後期の作品です。残念ながら名作ではありません。良い文学読んだ時に特有の充実感がありません。しかし重層的な才能豊かな作品だということは感じられます。 あらすじ6章からなっています。本来章番号はないのですが、分かりやすくするために本稿では番号振って説明します。序文として置かれる「出版社より」も章の一つとして見ます。 1、出版社より このたび刊行となりましたベールキン物語集の準備のために、作者である故ベールキン氏の略歴を調査しました。ご友人の紳

「地下室の手記」あらすじ解説【ドストエフスキー】

「こんにちは! ボクはミトコンドリア!」とか、「俺は集合無意識だ」みたいな、奇抜な主人公の小説って読みにくくて嫌ですよねえ。「地下室の手記」の主人公はキリスト教です。奇抜な主人公です。読みにくいです。 構成第一部と第二部に分かれます。 それぞれ前半と後半に分かれます。内容は前半が「自意識」の存在について、後半が「自由意志」についてです。この分け方に到達するまでが一苦労です。納得のゆく分割ができれば後は普通の作品です。第二部の前半は将校や同級生など、世俗的に成功している人と

「オイディプス王」解説【ソフォクレス】

鬼のアポロン都市国家テーベのライオス王と王妃は、アポロンの社の人から伝わった神託を受けます。生まれた子はやがて父を殺し、母を犯すであろう。神託というよりほぼ呪いです。恐れた夫婦は子供を捨てます。足に金具を刺して動けなくした上で、配下の羊飼いに山奥に捨ててこいと命令します。自分で殺す気にはなりませんからこれは仕方がありません。 配下の羊飼いはかわいそうになって殺さずに別の羊飼いに子供を渡します。いけません。命令違反です。子供を渡された別の羊飼いはコリントスの王にその子を渡しま

外国文学読み解き一覧

昔は気の利いた家庭には「世界文学全集」が1セットかならず置いてありました。実際には読む人はほとんどおらず、仮に読んでも99%の人は理解できず、つまりは装飾用の置物だったのですが、それでも置いていたのは「世界文学を読む」ことが必要な教養とされていたからです。もっともだれも中身に興味はありませんでした。完読だけでミッションクリアーとされていました。なぜって適切な解説がなければ、中身は理解できるはずがないからです。 私の考えでは「特に本文読む必要はない、作品の趣旨だけ理解できれば

「ハムレット」あらすじ解説【シェイクスピア】【Q1】

シェイクスピア6本目です。やはり名作でした。「ロミオとジュリエット」はアバウトな魅力ありますが、「ハムレット」はひたすら優秀なスキの無い作品ですね。 あらすじ 場所はデンマークです。王様が急死して王様の弟が即位します。旧王の王妃は新王と再婚、ここまでが初期設定です。 旧王の息子ハムレット王子は、ひょんなことから父の亡霊を見ます。亡霊は語ります。「私は弟に殺された。王位と妻を簒奪された」 敵討ちを志すハムレット、まずは狂気に陥ったふりをします。そして宮廷で上演される劇を工

「老人と海」あらすじ解説【ヘミングウェイ】

どうしてトランプはあそこまで戦えるのでしょうか。 どうして周りの人はそれを支持するのでしょうか。 アメリカは「老人と海」の国だからです。 あらすじ 84日間不漁の老人サンチァゴ、でも遠出して運良く大物をひっかけます。 しかし大物すぎました。全然釣り上げられません。 まる2日間苦闘の末に釣り上げますが、大物過ぎて舟にのせれません。 舷側にくくり付けて運びますが、サメが襲ってきます。 必死で戦いますが多勢に無勢、漁港に到着したときには頭以外骨になっていました(終) 不運な話で

「戦争と平和」あらすじ解説・6【トルストイ】

前回はこちら 冒頭 物語が名作になればなるほど、冒頭箇所の重要性が増してゆきます。「戦争と平和」も冒頭は重要になります。しかし非常にわかりにくく書かれています。普通読者はここで脱落します。 第一部第一編1~5くらいまでがトルストイの設定した冒頭です。ロストフ家は出てきませんが、アンドレイもピエールも悪党クラーギン家の面々も登場します。 場所はペテルブルク、女官アンナ・シェーレル主催の夜会です。俗物たちが大集合します。貴族社会のどうしようもない愚劣さを表現しています。話題

「戦争と平和」あらすじ解説・5【トルストイ】

前回はこちら 構造整理 だいたい「戦争」と「平和」は交互に出現します。 全体は大きく対を作っていますが、面倒なことに各部の編数が相違します。ですので、 「第一部の第三編が、第二部の第三編と対応する」とはいきません。 「第一部の第三編が、第二部の第五編と対応する」のが正解です。 しかし章立はそれだけでは割り切れません。 第一部:三編 第二部:五編 第三部:三編 第四部:四編 エピローグ:二編 の構造なのですが、エピローグ第二編は哲学開陳スペースです。となると物語とし

「戦争と平和」あらすじ解説・4【トルストイ】

前回はこちら 固有名詞焦土作戦 歴史物語ですから、重要人物を列伝風に把握するのが効率的です。しかし本作は数百人の登場人物が居ます。無駄な記憶の負荷です。100年以上前の架空の外国の数百名の固有名詞を覚えるくらいならば、人間はもっとやるべきことが有るはずです。 通常の物語は登場人物を把握すると効率的に読めるのですが、この作品は通常の物語ではありませんから、通常のやりかたが通用しません。作者が固有名詞焦土作戦を仕掛けているのです。覚えても覚えても新しい人物が際限なく出現します

「戦争と平和」あらすじ解説・3【トルストイ】

前回はこちら バカ焦土作戦 「戦争と平和」の「平和」の部分のあらすじです。 「お金持ちのピエール伯爵家(本当はベズーホフ家、しかし面倒なのでこうします)とアンドレイ公爵家(本当はボルコンスキイー家、しかし面倒なのでこうします)が居ました。 彼らの財産を、お金持ちではない善人ロストフ伯爵家と、同じくお金持ちではない悪党クラーギン公爵家が狙っていました。最終的には善人ロストフ伯爵家が勝ちました。」(「平和」部分あらすじ終わり) 極限まで簡略化するとこうなります。財産獲得争

「戦争と平和」あらすじ解説・2【トルストイ】

前回はこちら 執筆の目的 「戦争と平和」は作者の社会観を開陳するために書かれました。そのためにエピローグ第二編の12節まるごと使っていますし、それ以外の箇所にも数度書き込まれています。視点としてはそれなりに鋭いのですが、理論としては不完全というか、そもそも論理的な説明できない人ですねトルストイは。だから自分の考えを理解してもらおうとすると、長い小説を書かなきゃいけない。能力に極端な偏りがある人です。 「戦争と平和」の作者の社会観を一言で説明すると 「一人ひとりの気持ちが