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司法試験予備試験 憲法 平成27年度


問 題

 違憲審査権の憲法上の根拠や限界について,後記の〔設問〕にそれぞれ答えなさい。

〔設問1〕
 違憲審査権に関し,次のような見解がある。 
「憲法第81条は,最高裁判所に,いわゆる違憲審査権を認めている。ただし,この条文がなくても,一層根本的な考え方からすれば,憲法の最高法規性を規定する憲法第98条,裁判官は憲法に拘束されると規定する憲法第76条第3項,そして裁判官の憲法尊重擁護義務を規定する憲法第99条から,違憲審査権は十分に抽出され得る。」
上記見解に列挙されている各条文に即して検討しつつ,違憲審査権をめぐる上記見解の妥当性について,あなた自身の見解を述べなさい。(配点︓20点)

〔設問2〕
 内閣は,日本経済のグローバル化を推進するために農産物の市場開放を推し進め,何よりもX国との間での貿易摩擦を解消することを目的として,X国との間で農産物の貿易自由化に関する条約(以下「本条約」という。)を締結した。国会では,本条約の承認をめぐって議論が紛糾したために,事前の承認は得られなかった。国会は,これを事後に承認した。
 内閣が本条約上の義務を履行する措置を講じた結果,X国からの農産物輸入量が飛躍的に増加し,日本の食料自給率は20パーセントを下回るまでになることが予想される状況となった。ちなみに,X国の食料自給率は100パーセントを超えており,世界的に見ても60から70パーセントが平均的な数字で,先進国で20パーセントを切る国はない。
 農業を営むAは,X国から輸入が増大したものと同じ種類の農産物を生産していたが,X国と日本とでは農地の規模が異なるため大量生産ができず,価格競争力において劣るため,農業を継続することが困難な状況にある。
 Aは,本条約は,農業を営む者の生存権や職業選択の自由を侵害するのみならず,国民生活の安定にとって不可欠な食料自給体制を崩壊させる違憲な条約であるとして訴訟を提起した。これに対して,被告となった国から本条約は違憲審査の対象とならない旨の主張がなされ,この点が争点となった。
 本条約が違憲審査の対象となるか否か,及び本条約について憲法判断を行うべきか否かに関して,Aの主張及び想定される国の主張を簡潔に指摘し,その上でこれらの点に関するあなた自身の見解を述べなさい。(配点:30点)

関連条文等

憲法
22条1項(第3章 国民の権利及び義務):職業選択の自由
25条1項(第3章 国民の権利及び義務):生存権
60条(第4章 国会):衆議院の予算先議、予算議決に関する衆議院の優越
61条(第4章 国会):条約の承認に関する衆議院の優越
73条3項(第5章 内閣):条約の締結(内閣の職務)
76条3項(第6章 司法):裁判官の独立
81条(第6章 司法):法令審査権と最高裁判所
98条(第10章 最高法規):最高法規、条約及び国際法規の遵守
99条(第10章 最高法規):憲法尊重擁護の義務

裁判所法
3条1項(第1編 総則):裁判所の権限(法律上の争訟)

一言で何の問題か

設問1 違憲審査権の根拠
設問2 憲法と条約の優劣、条約に対する違憲審査可否

答案の筋

設問1
98条で判断権者は規定されておらず、99条から裁判官以外に違憲審査権が帰属すると解する余地もあり、また、明文の根拠なく裁判所の違憲審査権を認めることは権力分立原理に反するとの解釈も可能である。しかし、日本国憲法の沿革、76条が3項であえて裁判官が憲法に拘束されることを規定した趣旨から、憲法は政治部門から独立した裁判官に違憲審査権を与えていると解することができるため、81条の規定がなくとも、憲法の根本的な考え方から裁判所の違憲審査権を認めることができる。

設問2
1 国際協調主義から条約が憲法に優位する、たとえ優位しないとしても、81条が条約を除外していることから違憲審査は及ばないとの反論が考えられる。しかし、条約の締結権は内閣にあり、国会の承認によって成立することから、憲法に優位する場合には、国民投票によらず、条約によって実質的に憲法を改正することが可能となり、国民主権原理、硬性憲法の建前に反するため、憲法が条約に優位する。また、81条に条約は列挙されていないが、条約の国内法的効力に関しては「法律」に準じるものとすることができるため、条約も違憲審査の対象となる。
2 確かに、貿易という高度な政治的問題を含んでおり、政治過程を通じて解決することが望ましい。また、直ちに食糧難となり国民の生存が危ぶまれる状況にはなく、転作を図るなど廃業を回避することもできるとも思える。しかし、民主政の過程で救済がはかれない人権侵害が問題となっている場合については、人権保障のため違憲審査権が裁判所に認められた趣旨や法の支配の理念から、裁判所が違憲審査することを躊躇すべきではなく、「一見極めて明白に違憲無効」とまで言えなくとも、具体的な人権侵害が問題となっている場合は違憲審査が及ぶ。

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