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気に入らない、を放置すると何が起きるか

お片付けに行くと、そのおうちの「ラスボス」的なものと出会うことがある、という話を前に書いた。

どちらかと言うと、今まで出会ったのは「汚れ系ラスボス」が多かった。が、またちょっと違ったタイプのラスボスもいるのだ。

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どこのおうちも、大抵「片付け」と「掃除」を同時進行で進めていくのだけど、実際のところ何をしているかと言うと「情報量を減らす作業」なのだと思う。

物が散らかり、汚れも溜まり、という状況だと、あまりに情報量が多くて、必要なものと必要でないものの区別もつかない。

足を踏み入れた瞬間から全体像が把握できるということはほぼ無くて、ひたすら目の前の「できること」から黙々と、片付けて掃除して片付けて掃除して、、を繰り返すうち、だんだんとその部屋の姿がくっきりしてくる感じだ。

その日お邪魔したそのお宅は、一人暮らしの1K。住んでいる年数が浅いこともあって、汚れ的に大変なことにはなっていなかった。

面積の割に物の量がとても多く、散らかってはいるものの、あちこちに見えている家具や小物はとてもセンスが良くて

こ、これは片付いたら大変なオサレ部屋になってしまうぞ、、!という感じ。しかし、いかんせん、とてもとても物が多い。

まずはキッチンから手をつけていった。物が多いのは居室の方ではあるのだけど、キッチンというのは居室以上にその人が「物を動かして、使うところ」だ。

必要なものとそうでないものの区別がつけやすい場所でもあり、ここを使いやすく整えることで、だいぶ情報が整理されてその先の片付けもしやすくなるように感じている。

まずは換気扇を分解して浸け置きし、ガスコンロと流しをきれいに掃除し、溜まっていた食器を洗い、うまく使えなくなっていた調味料ラックを撤去し、いる食器といらない食器を選別し、、

(並行して大量の洗濯物もどんどん洗濯してもらう。これは家主にお任せ)

キッチンの作業をしつつ、トイレを借りたついでに気になってトイレ掃除も。キッチンとトイレが一通りスッキリしたところで、やっと居室に着手。この時点でもう5〜6時間経っていただろうか、だいぶ後半戦な時間帯ではあった。

それまでの間、家主は何度もぐったりしてしまって、横になって休憩していた。あまりの情報量に向き合い続けて当てられていたのだと思う。しんどそうだった。

さて居室、狭いスペースにあまりに多くの物があるので、何をどうしたものか、さっぱり見えてこない。

とりあえず目につくところからちょこまかと、捨てたり選別したり整頓したりを地道に続けていくうち

家主が「このローテーブル、いらないかも」と言い出した。

それはとても小さい、30×40センチぐらいだろうか、のかわいらしいローテーブルで、天板の中央がガラス張りになっていて、引き出しの中身がショーケースのようにそこから見えるつくりだった。

ベッド脇に置かれたそれは、食事をするにもちょっとした作業をするにも便利で、ある意味一人暮らしの中心地のようなものだったかもしれない。

ただ私から見て、そのショーケースの中身のごちゃっとした雰囲気が気になるな、という感じはあった。「この中身、いらないものはない?」「あんまりないかなー」とかそんなやり取りを実はその前にもしていた。

ローテーブルの上に乗っていたものをとりあえずどけながら、天板を拭いていた時だ。家主が「いらないかも」と言い出したのは。

お!キタ!なんかキタぞこれ!という感じがあった。

さてさて、粗大ゴミかなぁこれは。と思ったら、なんとそのテーブルはスルスルと分解できて、きれいに普通の燃えるゴミ袋におさまってしまった。ガラスもすっぽり外れて分別完璧!

そしていざ捨てることにしてショーケースの中身を整理してみると、大部分は捨てることができるものだったのだ。

そこからだ、ぐったりしていた家主のスイッチが入ったのは。

あれも捨てる、これも捨てる、とみるみる能動的に動きだした。たくさんあった服も、洗濯予定で置いてあったものすら「これいらない」が出てくる始末。

あっという間に服だけでゴミ袋がいっぱいになった。このへんで時間切れになり、私は撤収して後日またお伺いすることになったのだけど、私が帰った後も家主は夜中までモリモリ風呂掃除やエアコンのフィルター掃除などしてしまったらしい。あんなにぐったりしてたのに、、!

そう、この、家主のスイッチが入る瞬間がいつもたまらなく面白い。

私はああしろこうしろとか言わないし、言えない。ただ黙々と作業していって、その瞬間がやって来たら、あとはもう何だか大丈夫なのだ。

今回のラスボスは排水口やら換気扇やらの汚れではなく

「気に入っていないのに便利だから使っていたローテーブル」だった。

確かに、情報量が多すぎてイマイチはっきり見えていなかったけど、センスのいい上質な家具だらけの部屋で、あのローテーブルは少し異質だった。後から思えばね。

別に決して変なデザインでもないし、それなりにかわいいのだけど、部屋全体の感じからすると少し安っぽかったのだ。

家主曰く、気に入ってはいないけど、ベッドでゴロゴロしながら色々できるのが便利で使っていた、と。

あんなに小さい小さいテーブルだったのに、それを取り除いた途端に本当に、急に部屋が軽くなり、いろんなものがくっきり見え始めた。

「気に入っていないもの」

これがキーだったのだと思う。気に入らない、という感覚を無視してそのまま暮らすことで、いろんなことが見えなくなって、たくさんの情報が全然処理できなくなって、動けなくなってしまう。

だけど「これは気に入ってないから、捨てよう」という判断に至るまでも、たくさんの作業が必要だった。情報量が多すぎると、もはや「これは気に入ってない」という感覚すら埋もれていて見つけられないのだ。

これからどこかに引っ越して新生活を始める、という人がいたら「絶対に気に入ったものだけを部屋に置くように」というアドバイスを是非したいところだけど

既にそこで生活していて、たくさんの情報に埋もれてしまっている場合、気に入っているかどうかの判別に辿り着くにも相当時間がかかるのはよくあること。

そこに至るまで、ただただ伴走するのがどうやら私の仕事だ。

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