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あなたが多様であることが希望の光となる

こんにちは、価値ビンです⭐️

今回は多様性についてです。

昨今は、個性的であることが求められ、多様性をよしとする風潮があります。しかし、多様性が高まる(=異質な者が集まる)と、意見の不一致や見解の相違がおこる場面が増加します。

個人の強い持論がベースにある不一致は、激しい議論を招きやすく、大きなダメージ
をもたらすことが多い一方で、多くの研究では意見の不一致や見解の相違は、より優れたアイデアやイノベーションに繋がることが示されています。
(Diamond Harvard Business Review, May 2022, p.49)

しかし、多様性は、まだ差別問題や倫理問題の一部として語られることが多く、業績をあげる要因やイノベーションを起こす要因となることとして語られる機会が少ないのが現状です。

日本は今、人口減少が加速し世界での競争力を落としています。今回は、差別や倫理問題を傍に置いて、日本の未来を生きる我が子や子ども達のために、未来の光となりうる「多様性」を、様々な研究結果を参考に捉え直してみたいと思います。

さて、ではここで質問です。
そもそも、多様性とは何なのでしょう?
多様性は、それほど重要なのでしょうか?

本日は前回の『失敗の科学』に引き続き、同著者マシュー・サイド氏が書く『多様性の科学』を中心に、多様性とは何か、その必要性や落とし穴について考えていきましょう。


1. 多様性は重要か?

多様性とは何か、のイメージを簡単に掴んでみましょう。

多様性とは、極端に言えば、あなたが居心地の良い環境にいる間、無意識に排除している居心地の悪さの源、あなたが感じる違和感を生むもの、理解しにくいもの、などと言えるかもしれません。

人は、無意識に多様性を排除した行動をするものなのです。
あなたとは考え方や行動が違い、したがって賛同もあまりしてくれず、共有できるものが少ない人に、あなたは魅力を感じますか?
おそらく、「No」でしょう。
ですから「そもそも人には、多様性を排除する性質ある」と言えます。

けれど、その異質なものとの交流で生まれる価値の重要さや、うまく付き合うテクニックがあることを知れば、あなたはそれを避けようとは考えなくなるかもしれません。

とある研究結果を使って、多様性の重要性と受け入れることの難しさをご説明しましょう。

2001年ミシガン大学の社会心理学者、リチャード・E・ニスベットと増田貴彦の両氏は、日本人とアメリカ人のグループに水中の様子を描いたアニメーションを被験者に見せた後、そこに何が映っていたかを質問しました。

アメリカ人は、魚について語りました。
(魚が何匹いて、どこを泳いでいて、何色でどんな模様だったか)

一方で日本人は 、主に池や魚の背景にあるものについて語りました。
(水がどのように流れ、水の底には何があったか)

・アメリカ人:中心にあるものを判断するときに周囲の変化に影響を受けない
・日本人:中心にあるものを判断するときに周囲の変化を考慮に入れ判断しがち

Masuda, Takahiko,Nisbett, Richard E.『Attending holistically versus analytically: Comparing the context sensitivity of Japanese and Americans』,2001

このような結果となった原因の1つには、日本では伝統的に、相互依存性や関係性が重視されてきたことが挙げられるでしょう。
一方で、西洋の宗教や哲学では、物事は環境から切り離して分析することができる、つまり周りの環境はそれほど考慮せずともよいという考え方があります。
(Erin Meyer,西洋の考え方、東洋の考え方その最も大きな違い』, HBR,2014)

日本人は、周囲の情報に注目するのが得意なので、背景の把握は上手にできますが、中心人物のみを判断しなければならない時は、周囲に注目することが判断の邪魔をします。

アメリカ人は、周囲の情報を無視することができるので、中心人物のみを判断することは得意ですが、周囲に注意を向けなくてはならないときはうまくできません。
(
増田貴彦, 『文化と認知』(PDF))

つまり、一般的にアメリカ人と日本人では強みと弱みがそれぞれに違い、それを補い合うことができればより多くの情報を得ることができ、1段階上のレベルのディスカッションができるようになります。
このように、ものの見方や考え方が異なる人々の集団は、大きな力をもたらします。

2. 多様性は簡単に排除される

しかし、実際に自分が「多様性の高いグループ」に所属した場合、簡単に良い関係を築くことができるのでしょうか?
まず、アメリカ人と日本人が意見交換する場合をイメージしてみてください。

アメリカ人と日本人が混じったグループ
・アメリカ人:「魚は赤くて黒い斑点があったよな?」
・日本人:「そうだっけ?ちなみに、水の底は砂利だったよね?」
・アメリカ人:「それ重要?そんなところは見てなかったよ。」

【日本人だけのグループ】
・日本人A:「水の底は砂利だったよね?」
・日本人B:「そうそう。1か所だけ、なぜかカエルがいたね!」
・日本人A:「それな!あそこが気になってさぁ!」

どうでしょう?
日本人同士の会話の方が会話がスムーズで楽しいですよね?
しかし、この場合、背景の話題に終始してしまい、魚の特徴を知ることはできません。

人は、同じような考え方の仲間に囲まれていると安心します。ものの見方が似ていると、意見が合い、「自分は正しい」と感じることができるからです。

居心地の良さを求めて人が集まると、人は衝突を避け同調し合う確率が高くなります。そうやって自分と周囲の意見が一致すると、やがて人は不適切な判断や意見にも自信を持つようになってしまいます。

このような、人が正しい評価をするのを妨げるものにアンコンシャスバイアスがあげられます。
(産業経済研究委託事業 『ダイバーシティ経営推進に向けた アンコンシャス・バイアス研修のあり方と 効果測定指標等に関する調査』東京大学,2023,PDF)

他の実験も紹介しましょう。
アメリカのノースウェスタン大学のキャサリン・フィリップス教授の実験です。(※注意:「多様性の科学」では「コロンビアビジネススクール」となっていたが論文を調べた結果、ノースウェスタン大学に書き換え)

フィリップス教授は、参加者をいくつかのグループに分けて、複数の殺人事件を解決するという課題を与えました。
各グループには証拠、目撃者、アリバイなどの情報が提供され、グループは、以下のように構成さました。

  1. 友人ばかりの4人で構成されたグループ

  2. 3人は友人で、1人は知らない人で構成されたグループ

どちらのグループがより多くの正解を出したと思いますか?
ご察しの通り、知らない人を含んだグループです。

友人ばかりのグループの正答率:54%
知らない人を含んだグループの正答率:75%

ちなみに、個人だけの場合の正答率は、たった44%だったそうです。

知らない人を含むグループに感想を聞くと「様々な視点での議論、反対意見なども多く出て、大変だった。」といい、自分たちの回答には自信がありませんでした。

一方、友人だけで構成されたグループは、とても気持ちよく話し合いをし、点数が低いにもかかわらず回答にはかなりの自信を持っていたそうです。
(Katherine W. Phillips 他, 『Is the Pain Worth the Gain? The Advantages and Liabilities of Agreeing With Socially Distinct Newcomers』,2008)

つまり、何気なく生活し、何気なく友人を選んでいると多様性が失われ、重要な観点が抜け落ちたり、信じているものが間違っている可能性があり、かつ本人たちはそれに気がつかないということなのです。

3. 多様性の種類

では、そのような罠にハマらないためには、あらゆる人種の仲間が必要なのでしょうか?
決してそうではありません。
多様性を高めるには、「認知的多様性が高い」集団であることが重要なのです。

【認知的多様性とは】
ものの見方や考え方が異なること。

【人工統計学的多様性とは】
性別、人種、年齢、信仰などが異なること。
「人口統計学的多様性」が違うと、「認知的多様性」も高くなることが知られている。

Matthew Syed,『多様性の科学』,p.24,Discover 21,2021

人種が違うだけでは多様性が高いとは言いきれません
例えば、日本人とアメリカ人でも、同じ大学で同じ学部、同じサークルでよく一緒に居るのであれば、共通の価値観を持つ可能性が高くなるでしょう。

ものの見方や考え方が異なるかどうかは、話してみなくてはわかりません。まず、自分は「さまざまな価値観を持つ多様な人々のうちの1人」であることを認識しましょう。
あなたの意見は、多様な意見の1つとして必要なものなのです。

そうすれば、自分の意見や理論をしっかりと人に伝えることは重要で、それと同じくらい他の人の話をしっかりと聞くことも大事だということがわかります。

4. 壊滅的に非効率なチーム

人は集団で行動すると、その中で自然とリーダーが生まれ、その人に従うようになり、自然にヒエラルキー(ピラミッド型の階層組織)が生まれます。

マシュー・サイド氏は、見知らぬ者を5人、1つの部屋に集めて課題に取り組ませる実験をすると、たちまちヒエラルキーが形成されると本書で述べています。

エラスムス・ロッテルダム大学経営大学院による研究では、1972年以降に実施された300件超のビジネスプロジェクトを分析しました。
その結果、ヒエラルキーが高いリーダーが率いるチームより、それほど高くないリーダーが率いるチームの方がプロジェクトの成功率が高いという結果が発表されました。

つまり、「1人の強いリーダーが引っ張る、他の人が発言しにくい組織」よりも、「大勢の多様な知恵を集められる組織」の方が効果的だということです。

ただし、単純に様々なメンバーを集めてただ話し合えば良いわけではありません。さまざまなメンバーが同調することなく発言・表明することが重要で、それにはテクニックが必要です。

紛争解決と組織学の専門家である、アメリカケロッグ経営大学院のリー・トンプソン教授「反逆的なアイデアが示されない会議なんて壊滅的だ」と述べています。

彼女によると、多くの会議が、地位の格差により一部の人の意見で方向性が決まり、参加者の多くは発言をしないため、その集団の視点や意見は抑圧され、機能不全に陥いっている状態だそうです。

彼女は、会議全体の発言を記録し、それが何人によって、何%くらい占められているかを分析しました。

・4人のグループの場合、2人が62%の発話を担う

・6人グループの場合、3人で70%の発話を担う

Leigh Thompson, 『Creative Conspiracy』,Harvard Business Review Press, 2013

この傾向は、集団が大きくなればなるほど高くなるそうですが、困ったことに、会議の主導権を握る人(ヒエラルキーが高い人であることが多い)は、それにまったく気づきません。彼らは『全員が平等に話している』と考えており、メンバーが重要な情報を共有し損なっていることに気づくことがないそうです。

心理学者のソロモン・アッシュは「人が他の人と同じ答えを出すのは、他人の答えを正しいと信じるからではなく、自分が違う答えを出して輪を乱す人間だと思われたくないから」と言っています。

ただ他人と違うことを発言するだけで同調圧力が働くのなら、リーダーに反論するのが難しいのは当然です。これは、ヒエラルキーがもたらす弊害です。

効率的な話し合いをするには、参加者が同調せずに自由闊達に発言しやすくする仕組みが必要なのです。

5. 支配型ヒエラルキー vs 尊敬型ヒエラルキー

ハーバード大学の人類進化生物学教授のジョセフ・ヘンリック心理学者のジョン・メイナーは、ヒエラルキーには支配型と尊敬型の2種類があり、その組織が置かれている状況によって、効果的なヒエラルキーは異なると言っています。

Matthew Syed,『多様性の科学』,p.138,Discover 21,2021

【支配型ヒエラルキーが効果的な場合】

ある決断がなされ、それでやっていくしかないとなった場合は、支配型ヒエラルキーが有効
リーダーはチームを鼓舞してすべきことをさせなくてはならならず、異論や多様な意見はノイズでしかない。


【尊敬型ヒエラルキーが効果的な場合】

創造性を高め、案を見直し、修正しながら進む必要がある場合は、尊敬型ヒエラルキーが有効
リーダーは「反逆者」のアイデアを自分に対する脅威とは受け止めず、報復をせず、結果的に、誰もが自由に意見を出し合える環境や文化がつくられる。

(J Henrich & F J.Gil-White, 『The evolution of prestige: freely conferred deference as a mechanism for enhancing the benefits of cultural transmission』,2001)

では、すでに構築されたチームが支配型ヒエラルキーで(よくある話ですね)、それが業務の弊害となっている場合はどうしたらよいのでしょう?

そのような場合には、ヒエラルキーの害を排除するテクニックを使います。
そのテクニックの1つが、Amazonの会議で採用されている「黄金の沈黙」です。

Amazonの会議では、最初の30分間、出席者はその日の議題をまとめた6ページのメモを黙読するところから始まります。
参加者は、他の人から意見を聞く前に、自分の視点に立って議題を見直し、自分の意見の強みと弱みを考え、書き出してまとめます。
また、参加者が地位の高い者の意見に影響されることを防ぐため、地位の高い者は最後まで意見を述べないことになっています。

また別の効果的な仕組みとして「ブレインライティング」という手法があります。
「ブレインライティング」はいわゆるブレインストーミングと同じですが、文字通りアイデアをカードなどの紙に書き出し、全員が見えるように壁に張って投票を行うというものです。この方法であれば、全員に意見を表明するチャンスが与えられます。
重要なルールは「誰のアイデアか」は明らかにしないことです。名前が書かれた瞬間に、人は序列が気になってそちらの意見に流される可能性があるからです。

アメリカのケロッグ経営大学院のリー・トンプソン教授は、この手法を使えば「1人や2人だけでなく、チーム全体の脳から生み出されるアイデアにアクセスできる」と述べています。

6. 偏見がビジネスチャンスを壊す

素晴らしいアイデアや創造性は、歴史において幾度となく邪魔をされてきました。邪魔をする罠の代表的なものに、偏見や固定概念などがあります。

1922年にアメリカで生まれ、数々のヒット商品を生み出した発明家デイビッド・ダドリー・ブルームは、1958年に旅行カバンを作る会社の開発責任者になりました。

当時のスーツケースはとにかく重くて扱いにくいもので、デイビッド自身も腰を悪くし、その問題を解決するために考えたのが、スーツケースにキャスターとハンドルをつけたものです。

ブルームは、この画期的な発明で世界市場を独占できると、自信満々に会社の会長にプレゼンしました。
材料費は安く、生産中のスーツケースにもそのままつけられて販路にも困らない、必要な要件を全て満たす商品となるはずでした。

しかし、会長には「実用的ではない」「不恰好」「誰が車輪付きスーツケースなんて欲しがるかね」と一笑されてしまいました。

時は流れ、ブルームとは別のビジネスマン、バーナード・サドウが、1970年に同じくキャスター付きスーツケースのアイデアを考えつきました。
しかし、やはり大手の百貨店にことごとく「スーツケースをごろごろ転がすなんて頭がおかしい」と断られたそうです。

当時は男っぽさを誇りにする文化があり、夫が妻の重いスーツケースを持つのは当然の時代でした。

最終的には、メイシーズの副社長ジェリー・レヴィがそのキャスター付きスーツケースの価値を理解し、販売にこぎつけました。ご察しの通り、顧客はこの新しい発明を歓迎し、スーツケースは飛ぶように売れたのです。

当時成功していた人達でさえ、その偏見から巨大なビジネスチャンスを逃しました。人々に根付いた固定概念や偏見というものは、簡単には拭えないのです。

7. 2種類のイノベーション

偏見や固定概念を払拭した先に、起こされるイノベーション。ここではイノベーションについてお話ししましょう。ここにも多様性の重要さが表れています。

イノベーションには2種類あると言います。

1. 漸進的イノベーション
既存のものに改善を重ね、段階的にアイデアを深めていくもの。

2. 融合のイノベーション
それまで関連のなかった異分野のアイデアを融合するもの。

Matthew Syed,『多様性の科学』,p.160,Discover 21,2021

今までは「漸進的イノベーション」と「融合のイノベーション」が共存していましたが、近年は「融合のイノベーション」が圧倒的主役になっていると言います。

ケロッグ経営大学院のブライアン・ウッツィ教授が、ウェブ・オブ・サイエンス上の87,000誌に掲載された1,790万本の論文(ここ70年執筆されたほぼすべての論文に相当)を分析しました。

極めて反響が大きかった論文では、どれも異分野ですでに存在していた、極めて異なる分野のアイデアを組み合わせ、分野間に立ちはだかる概念の壁を突き破る、多様性を活用した手法を採用していたことが明らかになりました。
(Brian Uzzi他,『A Virtuous Mix Allows Innovation to Thrive』,2013)

また、2017年に発表された有名な論文では、偏見などの特定の思考の枠組みから抜け出せる「複数の文化を知る人間」、つまり「移民」が参加する多様性に富んだチームは、ビジネスを成功させる可能性が高いということが示されました。

フォーチュン500社の43%が、移民もしくは移民の子孫によって、創業・共同創業されている。

上位35社だけで見ると57%もの企業に移民(または移民の子孫)が経営に参加している。

CENTER for AMERICAN ENTREPRENEURSHIP『Immigrant Founders of the 2017 Fortune 500

他にも、ヘンリー・フォード、イーロン・マスク、ウォルト・ディズニー、ピーター・ティール、いずれも有名な起業家ばかり。実はみな移民、もしくは移民の子ども達です。

8. 恐怖のエコーチェンバー現象

今現代ではインターネットで、ありとあらゆる情報が手に入ります。このような時代では容易に多様な意見を見聞きし、取り入れられそうな気がします。
しかし、実際にはそうならないケースが多いのが現実のようです。

その理由の1つが「エコーチェンバー現象」という問題です。同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返し、特定の信念が強化される現象です。

インターネットが普及することで、同じ思想を持つ画一的な集団が点々と存在するようになりました。情報はその集団の中で終始し、他の集団とはあまり交わることはありません。
交わる必要性が生じないのです。
もしあなたが釣りのコミュニティに所属していたとしたら、そのコミュニティにクラシック音楽の情報は必要ありませんよね。

SNS等にアクセスすると、目につくのは「見たい人」の意見でしょう。気になる人をフォローしているのですから当然のことです。

SNSや検索エンジンはユーザの好みを分析し、彼らが興味を持ちそうな情報を優先的に表示(フィルターバブル)します。そうすると、自分の意見と同じような意見を目にする機会が増加し、反対意見に触れる機会が減少します。

そうやって、徐々に自分やその集団の意見が強化され、自分が見ている現実が歪んでいくのです。

【エコーチェーンバー現象】

ソーシャルメディアを利用する際、自分と似た興味関心をもつユーザーをフォローする結果、意見をSNSで発信すると自分と似た意見が返ってくるという状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえたものである。

サンスティーン(2001)は、集団分極化はインターネット上で発生しており、インターネットには個人や集団が様々な選択をする際に、多くの人々を自作のエコーチェンバーに閉じ込めてしまうシステムが存在するとしたうえで、過激な意見に繰り返し触れる一方で、多数の人が同じ意見を支持していると聞かされれば、信じ込む人が出てくると指摘した。

総務省「第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0

前回のブログで紹介した「認知的不協和」にもあるように、例え反対意見の論理的なエビデンスを見たとしても、以前にもまして自分の意見を信じ込む傾向があることも事実です。

9. 平均値と標準化の罠

最後に、多様性に富んだ「複数の視点」の大切さをお伝えするために、「平均値の罠」を紹介します。
平均値は、あらゆる研究や商品の良さを証明する際、統計的手法の1つとして使用されます。

以下の表AとBは、どちらも「平均値=50」のデータ一覧です。
しかし、表Bには「数値=50」の人が1人も存在しないのに「平均値=50」になるのです。データが散らばっているので、平均値は代表値とはなり得ません。

平均値とは、もともとのデータはどのようなものだったかという情報を犠牲にすることが前提で使うことができる、便利で落とし穴の潜む代表値です。

1940年代のジェット機の黎明期に、アメリカ空軍でさえ、この平均値の罠にはまりました。当時、航空工学のレベルが十分と考えられていたにもかかわらず、機種を問わずに頻繁に墜落などの事故が発生していました。
なんと、1950年の2月の一月だけで、172件の飛行機事故が発生していたのです。
(USAAF Aircraft Accidents February 1950)

当時の関係者は様々な角度で調べましたが、航空機にもパイロットにも問題を見つけることができませんでしたが、研究者として空軍に入隊したギルバート・ダニエルズ中尉はあることを疑いました。

コックピットの設計に問題があるのではないか』

空軍機のコックピットは、1926年に、当時測定したパイロットの体格の平均に合わせて設計されており、ペダルやギアの位置、フロントガラスの高さに至るまで標準規格化されていました。

ダニエルズは、4,063人ものパイロットの身体の寸法を測り、コックピットの設計に最も重要な身体10ヵ所について、「平均値」を算出しました。
(平均値がシビアになり過ぎぬよう幅を持たせるため、測定データの中央30%以内に収まれば許容範囲とした)

その平均値とパイロット一人ひとりを比較すると、驚いたことに、身体10ヵ所のデータが、その許容範囲に収まったパイロットは『ゼロ』だったことが明らかになりました。
(Todd Rose, The End of Average.『平均思考は捨てなさい』,早川書房,2017)

人間の男性の場合、身長の統計を取ると、典型的な正規分布をしますが、胸囲、腕の長さ、座高など必要なデータが複数にわたると、平均値は個人の特徴を覆い隠してしまうのです。

その後、パイロットが自分で座席の高さやレバーの位置を変えられるコックピットが完成すると、事故は激減しました。
結論として、平均値に収まるパイロットは一人も存在しないにもかかわらず、コックピットを標準規格化(画一化)していたことが、事故を多発させた根本的原因でした。

もう1つ、平均値の罠に陥る身近な例『ダイエット』を見てみましょう。

計算生物学者のエラン・シーガル氏は、ある説では「健康的な食品」とされるものが、別の説では「不健康な食品」と言われることに対して疑問を持ち、食品が人々の血糖値の上昇をどのように変化させるのか調査しました。

血糖値の上がりやすさを食品ごとに表す数値に「GI値」がありますが、GI値は、その食品に対する被験者の血糖値の反応を「平均値化」したものです。

もうお分かりですね。コックピット問題と同じです。
エランはその「平均値(GI値)」に罠があるのではないかと疑いました。

彼は実験で、市販の白いパンと手作りの茶色いパンを使い、血糖値の変化を調べました。すると、血糖値の平均値ではどちらのパンにも差は見られなかったものの、一人一人の被験者の血糖値で見ると、大きな差があった人が多数いることがわかりました。

1. 被験者の血糖値の平均値:白パン、茶色パンで同じ反応を示した

2. 被験者一人ひとりの血糖値:白パンで血糖値が上昇した人、下がった人、全くその逆の反応をした人、反応がほぼ変わらなかった人、劇的に差が出た人など様々

Eran Segal他, 『The Personalized Diet』, Ebury Digital,2017

1つのパンに対する血糖値の反応は、被験者の年齢、遺伝的特徴、生活習慣など様々な要因が関連しているため、平均値(GI値)に当てはまらない人が多く存在するという結論に至りました。

平均値が理に適うケースも、もちろん存在します。
私たちが気をつけるべきことは、さまざまな場面において、世間一般に「良い」と言われているもの、標準化されたものを「自分に合う」と盲目的に信頼することは、危険性が伴うかもしれないと肝に銘じておくことではないでしょうか。

10. 多様性を受け入れるために

さて、ここまで多様性の重要性と、それを阻む罠を多く見てきました。
私たちを取り巻く落とし穴を回避する方法はあるのでしょうか?

あります。
それはシンプルで、このような罠が存在することを認識し、それに対処していくことです。

例えば、固定観念への対応策として、「前提逆転発想法」があります。「前提条件」を逆転させて固定概念から抜け出し、アイデアを生み出す方法です。

あなたがレストランを始めたいとします。「レストランに出すメニュー」を考えるときに、「メニューを考える」という前提を逆転させて「レストランにはメニューがない」と考えてみるのです。

そうすれば、新たな視点からさまざまな新しいアイデアが、例えば、シェフが当日仕入れた食材の中から客に好きなものを選んでもらってアレンジするというサービスが考えられるかもしれません。

元米国陸軍将校で創造性開発の専門家、マイケル・マハルコは以下の「前提逆転」発想法の流れで常識の枠を外すことができると言っています。

【前提逆転発想法】
1.自分の課題を言葉で表現する。
2.前提となる事実、条件を箇条書きにする。
3.書き出した前提を思い込みではないかと疑う。
4.前提を逆転する。前提条件を反対にして紙に書く
5.役に立つと思う、別の視点を紙に書く
6.それぞれの逆説をどのようにやり遂げたらいいか自問する。できる限りたくさんの視点やアイデアを箇条書きにする。

( Michael Michalko,『「前提条件」にとらわれた5匹のサルのお話』,Diamond online)

従来の大前提を覆して考えることで、新たな連想や発想につながっていくことが創造性には重要なのだそうです。

ここで、私が考えた、今週からでも手軽に始められる「新しい視点に出会う」ための取り組み例をご紹介させていただきます。

・タイプの違う人、異分野の人に自分の考えをシェアする
会社や学校で「変わっている」と思う人の意見に黙って耳を傾ける
会社や家族会議で、多数の意見が出る方法を試す
・SNSでフォローしている人が言っていることの穴を考える
標準化されたものに違和感を感じた時、なぜ標準化されたのか、どのように標準化されたのかを調べてみる

意見の食い違いの場面に出くわすと、人は身構え、プライドが脅かされると感じます。それと同時に、「相手は何もわかっていない」と考えがちです。

しかし、ジュリア A.ミンソン(ハーバード・ケネディスクール准教授)とフランチェスカ・ジーノ(ハーバード・ビジネス・スクール記念講座教授)は、人はそれぞれが自分の信念を裏付ける事実に注意を向け、そうでないことは無視したり軽んじたりしがちなため、実は対立している相手もこちらと同じくらい(別の)情報を持っている可能性があると言います。

人間の頭には処理能力の限界があり、矛盾する情報をなかなか処理できない反面、よく知っていることは簡単に関連づけることができます。従って、従来から自分が持っている意見を裏付ける証拠には、人は気づきやすく、覚えやすいのだそうです。

そしてその信念は、時間と共に仕事のネットワークや、フォローしている報道機関、尊敬するリーダー達によってサポートされていくので、その見解がさらに明確になっていきます。

逆に、反対の味方を裏付ける証拠は、見落としたり忘れたりするそうです。なぜなら、それに出会う機会も少なく、自分のイメージに合わないためです。
そうして、反対の見方の根拠を理解するのは、ますます困難になります。

2021年に、ジュリアフランチェスカは、656人を対象に「意見の不一致における対立」についてどう思うかのアンケート調査を行い、結果は以下の通りでした。

・60%近くの人が、対立は「まあまあ不快」「かなり不快」「非常に不快」

・3分の1
以上の人が対立を避けたい

・40%以上の人が、対立は仕事上の人間関係や生産性に害を及ぼすと考えている

Julia A.Mison & Francesca Gino,『Managing a Polarized Workforce』,HBR,p.52,2022

しかし、多くの研究ではその反対の結果が示されていると両氏は言います。

つまり、意見の不一致は、うまく対処されれば、その回避よりも良い結果が得られ、より優れたアイデアや創造性、イノベーションのきっかけとなり、事業の競争力の強化につながるのだそうです。

彼女達が挙げた、チームや人々の対立を生産性に繋げるポイントを以下に記します。

1. 意見の不一致に対する恐れを取り除く
 ・意見の不一致はそれほど不快なものではないと認識する
 ・個人ではなく課題にフォーカス
 ・合意できるポイントを探す

2. オープンになる
 ・対立する立場からの情報を意識して検討
 ・「傾聴のトライアングル」を活用
 ・学びにフォーカス

3. 言葉を慎重に選ぶ
 ・他者の見解を確認
 ・前向きな言葉で言い換え

4. 寛容さを促す文化を育てる
 ・女性を活用
 ・受容的なトーンで始める
 ・ロールモデルになる

Julia A.Mison & Francesca Gino『Managing a Polarized Workforce』,HBR, pp.49-60,2022

11. ダブルエンパシー問題

ASD(自閉スペクトラム症)」をご存知でしょうか?
ASDの基本特性として、「コミュニケーションがうまく取れない」「人との関わりが苦手」などがあげられます。(ASDとは?(Litalico))

しかし、本当にそうなのでしょうか?
コミュニケーションの方法が、マジョリティの方法と違うだけという可能性はないのでしょうか?
エディンバラ大学キャサリン.J クランプトンが2020年に発表した研究結果をご紹介します。

グループを以下の3種類に分け、伝言ゲームを行った。
伝達された情報の精度及び、グループの中で構築された信頼や親密さを評価した。

1.  ASD(自閉スペクトラム症)のみ
2.  非ASDのみ
3. 半数ずつの混合

(Crompton CJ, Ropar D, Evans-Williamns CVM et al. (2020) Autistic Peer-toPeer information transfer is highly effective)

興味深いことに、研究結果では「ASDのみのグループ」と、「非ASDグループ」では、伝達された情報の精度、グループ内で築いた親密さなどの成績に有意な差はなかったことが示されました。つまり、ASDと非ASDの混合グループのみの成績が低かったのです。
(Crompton CJ, Ropar D, Evans-Williamns CVM et al. (2020) Autistic Peer-toPeer information transfer is highly effective)

この研究結果が示唆するのは、コミュニケーションを含めた社会性に困難があると言われているASDの人、それらの困難がないと言われている非ASDの人たちの両者が、円滑なコミュニケーションを行い、心地よいコミュニティを形成する能力を持ち合わせているということです。
しかし、混合になるとお互いの文化の差によりコミュニケーションも人間関係の構築もうまくいかなかったと理解できます。

このように、複数の人が参加する対人場面で生じる相互理解の困難は、特定の個人やグループに存在するのではなく、両者の人々の問題であるとみなすことを、ダブルエンパシー問題と言います。
(内山登紀夫『ニューロダイバシティとQOL、幸福度の視点から(そだちの科学 No.41)』日本評論社, p.105, 2023)

マジョリティの人々は、マイノリティの人のみが問題を抱えていると考えがちで、マイノリティが自分たちの基準に合わせるべきと考える傾向が強いように感じます。

もしあなたがマジョリティに属してる人なのであれば、マイノリティの人と何か問題が起こったときに一度考えてみてもらいたいのです。
自分側の問題は何か?」と。

12. まとめ

いかがでしたか?
「多様性の科学」は内容が面白く、データに対しての参考文献が細かく記されているので、読んでいただく価値がある本だと考えています。

日本は島国で歴史が長く、独特の素晴らしい固有の文化を有しています。それは同時に、多様性が生まれにくい環境だということでもあります。

国別の文化の違いを分類し、スコア化した代表的なものに「ホフステッド指数」があります。参考までに、アメリカと日本の文化の違いを調べてみました。

日本人は、集団で結束し、対立相手と戦う時にモチベーションが高まり、不確実性回避の傾向が強いために前例や膨大な事前準備が必要で、長期的な人間関係を好む、変化を起こすことが難しい文化を有していると評価されているようです。

ホフステッド指数 (日本 vs アメリカ)

「uncertainty Avoidance(不確実性の回避)」の解説が興味深いので、ご参考までに以下に記載します。
これは平均値化されたデータです。
あなたはどう感じますか?

日本は、地球上で最も不確実性を回避している国の一つだ。
これは、日本が地震、津波、台風から火山の噴火まで、常に自然災害の脅威にさらされているという事実に起因していることがよくあります。

このような状況下で、日本人はどんな不確実な状況にも備えることを学びました。 これは、突然の自然災害に対する緊急計画や予防だけでなく、社会のあらゆる側面にも当てはまります。

日本では、何をするにも最大限の予測可能性が求められていると言えるでしょう。 人生は高度に儀式化されており、多くの儀式が行われます。

例えば、各学年の始業式と終業式は、日本全国どこでもほぼ同じように行われます。 結婚式や葬儀、その他の重要な社交行事では、何を着るか、どのように行動すべきかがマナー本に詳しく規定されています。

学校の先生や公務員は前例のないことをすることに消極的です。 日本の企業では、実現可能性調査に多くの時間と労力が費やされており、プロジェクトを開始する前にすべてのリスク要因を解決する必要があります。
マネージャーは、決定を下す前に、すべての詳細な事実と数字を求めます。

不確実性回避に対するこの高いニーズが、日本で変化を実現することが非常に難しい理由の 1 つです。

(ホフステッド指数, What about Japan?)


当事者にとって当たり前になっている物事を、第三者の目で見つめ直すこと、新たな視点に立って取り組めば、チャンスや可能性が確実に見えてくる」と言ったのは、イギリス人起業家キャサライン・ワイズ氏です。

私の複数の友人は、外資系企業に所属していますが、彼らがアメリカ企業と日本企業に新規顧客開拓営業を行なうとき、大抵のアメリカの企業は数日で成約かどうかが決まるが、日本企業は長期間かけて(1年とか)検討するので全く前に進まない、という話を何度も耳にしました。

オーストラリアで学生時代を過ごした自分の実感としては、海外で日本人を見かけると、遠くからでも「あれは日本人だ」と判別できます。
日本人の服装は「流行りという名の制服」を着ているのでわかりやすいのです。
(韓国人もわかります。調べてみると、韓国の「不確実性回避」は日本に近しい数値でした。たまたまかもしれませんが。)

変化しにくいと言われる日本人の私たちですが、私たちが多様性の恩恵をなんとなくでも理解することで、小さな変化を起こしていくことはできると考えています。

日々の小さな積み重ねや、挑戦している背中を子どもに見せることが、結果的には、人口減少が激しい日本で、変化の激しい時代を生きていく全ての子どもたち(マジョリティ&マイノリティの両方)のためになるのではないかと考えています。

さて、私たちも「居心地の良い世界」から、半歩だけ踏み出してみようじゃありませんか。

「この人とは合わないけど、ちょっとだけ話しかけてみようかな…」
「この人のSNSは好きだけど、穴があるとしたらどこだろう?」

そう考えるだけでも、私たちの世界は少しずつ良い方向に変わるのではないでしょうか。

できることから一つずつ。
それでも確実に一歩ずつ。
一緒に歩いていきましょう✨


(株)Kachibin
「英語」と「ワクワク」の力を伸ばそう✨

「この勉強、どうせ僕の未来には役に立たないし」という子ども達の疑問を払拭する学びは、学校では提供しづらいものです。カチビンは、子ども達のキラキラした目を追い求めて、今日も探究し続けています。

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1) 子ども達自身が自らの成長を感じて「僕の・私の価値がビ~ンと上がった!」と感じてくれること。

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このブログが、我々が子ども達の成長のサインを見つけて受け取り、彼らと共に学びの旅を歩むための、数ある冒険の書の中の一つとなってくれることを願っています。

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