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SNSがなかった時代、ストリートスナップに載りたい人たちは…

 繁華街でキャッチ(スカウト)を見かけるたびに、思い出すことがある。かつて僕も渋谷系ファッション&カルチャー雑誌『men’s egg』編集部員として、街中でギャルやギャル男に声を掛けまくっていたのだ。

ストスナに載りたい人たち

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 ファッション雑誌の人気企画と言えば、ストリートスナップ(ストスナ)である。InstagramやWEARなどのSNSがなかった頃は、雑誌のストスナに載ることがステータスだった。掲載されると、クラスで羨望の眼差しを受けるのだ。

 週末の渋谷や原宿には、各雑誌のキャッチ&撮影部隊が目を光らせていた。現在はほとんどの雑誌が休刊、さらに条例なども厳しくなり、その姿を見かけることもなくなった。

 当時そこには、“声を掛けられたい”人たちも集っていた。あえて撮影部隊の目の前を行ったり来たり。「俺を撮ってくれ!」と無言でアピールする姿がやや滑稽に思えたが、じつは学生時代の僕もそんなひとりだった。結局、一度も声を掛けられることはなかったが……。

 そんななか、大学の同級生で『Samurai magazine(サムライマガジン)』のストスナ“常連”だったヤツがいる。ブレイクダンサーでもあり、いつもダボダボの服を着ていた。あるとき、どうしたら雑誌に載れるのかコツを聞いたことがある

 すると、「良いスニーカーを履くことだ」と即答した。彼の足元には「エア・ジョーダン」。しかし、その値段に目が飛び出そうになった。3万〜4万円とか平気で言うのだ。学生のアルバイト代で捻出するには、よっぽど好きじゃなければ手が届かないと思った。

 “オシャレは足元から”とはよく聞く言葉だが、全身のコーディネートで足元が占める割合はちいさい。Tシャツやシャツ、アウターのほうが目立つぶん、重要なんじゃないのか。そのときは、正直にそう思っていた。

オシャレは足元から?

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 それから数年、僕は『men's egg』編集部員として自分がストスナを担当するようになった。ギャル男ブームだった頃は、撮影日には100人以上が渋谷センター街(現・バスケットボールストリート)の入り口付近まで撮られるためにつめかけた

 ギャル男と聞けば、盛り盛りのヘアスタイルに日焼け肌、アメリカンカジュアル(アメカジ)やサーフ系のコーディネートを思い浮かべるひとが多いはず。彼らが一挙に集結する光景は、はたから見れば異常だったかもしれない。実際、警察に通報されて撮影を止められることもあったほど。

 だが、編集部に入った当初はコーディネートの良し悪しの判断がつかなかった。いったい、何が違うのかわからない。センパイの教えを請いながら毎月何百ものコーディネートを眺めるようになってからは、たしかに“オシャレは足元から”は一理ある、と思い改めることになったのだ。

 アメカジのコーディネートなら、“定番”とか“王道”と呼ばれるものがある。たとえば、ネルシャツにデニムパンツを合わせたスタイルがそれだ。そんな定番スタイルを並べたときに、マイナスポイントとしてチグハグ感を覚えるのが足元なのである。得体の知れないスポーツシューズや、ときにはクロックスのサンダルという人もいた。

 もちろん、それが絶対ダメというワケではない。ピカピカならば全体の“ハズし”として理解できなくもないが、薄汚れたものだと、単純にそこまで気が回っていないんだろうな、と思ってしまう。

 ここは渋谷だ。地元のコンビニではない。やっぱりレッド・ウィングやウエスコのブーツのほうがしっくりくる。また、アクセサリーなどの小物である。「格上げする」という表現を見たことがある人も多いだろうが、似たようなコーディネートでどちらを掲載するか迷ったとき、小物までこだわっていると、本当に格上げされるのだ。

 ゴローズ、ビンゴブラザーズ、アリゾナフリーダム……。商店街の洋品店などで売られているものとは、まったく風格が異なる。ストスナの撮影をこなすうち、ある程度の目利きができるようになっていた。

読者モデルを丸パクリした“影武者”量産に困惑

 ただし、そんな模範解答ばかりを求めているわけではない。一時期、“影武者”と呼ばれる読者モデル丸パクリのコーディネートが流行った。ネタとして載せることもあったが、そればかりではつまらない。

 なにより、『men's egg』は自由な雰囲気がウリの雑誌である。模範解答よりも圧倒的なオリジナリティがある人を掲載することも多かった。ぶっちゃけると、服装はイマイチでもシンプルに“イケメン”が選ばれることさえあった(結局は顔かよ!)。

 偉そうなことばかり言って、「じゃあお前はどうなんだ」と各所からツッコミが入りそうなので、このへんで失礼する。僕も一度でいいから雑誌のストスナに載りたかったぜ!

<文/藤井厚年>


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