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海と空の間、飛ぶようにして橋を渡って【4月沖縄旅行物語】Vol.6

ピピピピピピピピピピピピピピピピ…
目覚ましの音が静かになり始める。

(もう朝か。まだ全然寝足りない。)
普段であれば時間の許す限り眠っている土曜日の朝。
今日はそういうわけにはいかない。
なぜならば、今、隆と里央は初めての沖縄旅行に来ているからだ。

二泊三日の旅程。
今日はその二日目にあたる。
寝坊している暇はない。


予定をしたのは1月。付き合って2年以上経った二人は、未だ本州から出たことがない。
その事実に気づいてしまった里央は、隆に有給休暇の取得をねだった。
「沖縄に行きたいの。」

行ったことがない沖縄、何がどこにあるのかもわからないのは不安だが、
それこそがこの二人の関係に刺激を与え続けてくれている。
「よし。いこう。」

隆は次の日には有給休暇の申請をして、二人分のフライトを確保した。
1日目は美ら海水族館へ行き、ジンベエザメやイルカショーを楽しんだ。

「ほら、里央、起きて。もう朝だよ。ご飯食べにいくんでしょ?」
「んー、もう朝〜?まだ眠いよぉ。」
まだ目が開いていない里央を横目に、隆は起き上がって部屋の中から外を見る。

オーシャンビュー。
ここ、カフーリゾートホテルのスィートルームの窓から見える景色は、
どんな朝よりも素晴らしい景色をたたえていた。

「里央、来てごらん!すごくいい天気!海が綺麗だよ。」
隆がリビングからそう言うと里央はすぐに起き出して
窓にかけよった。

「えー!本当だ!すごいー!きれーい!」
窓を開けてテラスへと飛び出す里央。
さっきまで寝ぼけていた人間とは思えない変わり身だ。

外の空気は少しひんやりとしていたけども、
乾いた風が心地よく、あたりからは鳥のさえずりが聞こえていた。
遠くから波の音が聞こえる。

隆と里央はゆっくりと沖縄の朝の空気を肺に取り込んで、
目の前に広がる景色に、現実感を感じられずにいた。
「まだ夢の中みたい。」
里央はつぶやいた。

「よし、朝ごはんを食べにいこう。支度して!」
二人は支度もそこそこに朝食会場へと向かう。
カフーリゾートの朝食会場はプールサイドのレストランで、
テーブルは室内と屋外に分かれている。

満席に近い状態だったが、偶然、景色の良いテラス席が空いた。
ここにしよう。

隆はエッグベネディクト。
里央は和食膳を頼んだ。
朝食を食べてる最中、彩の鮮やかな鳥が近くにやってくる。

プールの向こう側には南国風の庭園が広がっていて
鳥の声が絶えず聞こえていた。
リゾートの朝は最高だ。

「それで、今日はどこに行くんだっけ?」
隆は二日目のスケジュールを確認する。
「今日は離島に行くのよ。CMのロケ地にもなった場所なんだって。」
「OK。楽しみだね。」

二人はゆっくりと朝食を摂って、プールサイドのベットで寝転がったり
写真を撮ったりしてホテルの朝を楽しんでから部屋に戻り、
昨晩の宴会の(といっても二人でルームサービスを頼んだだけだが)後片付けをした。

支度をして出発。
車の中でカーナビに目的地をセットする。
「今日の目的地は古宇利島だよ!」

レンタカーのカーナビで施設検索をしてみる。
すると「古宇利オーシャンタワー」なる施設が出て来た。
とりあえず、ここを目的地にセットして隆は車を走らせた。

目的地までおよそ1時間。
名護市の北側にある離島のようだ。
10時頃にホテルを出た。

沖縄の空は少し曇っていて、朝のようにスッキリとは晴れていない。
カーナビ通りに車を進めて行くと、古宇利島をナビする看板が登場し始める。

いくつかの曲がり道を過ぎると農道のような道に入った。
頻繁にナビしてくれていた看板も見当たらなくなった。
本当にこっちであっているのだろうか。
少し心配になる程だ。
だがカーナビはしっかりとその道筋を示している。

そして、いくつかの道を曲がった先に、それは現れた。
まっすぐ続く道。
「うわー!ついに来たー!ずっと来たかったの!すごーい!」

里央のテンションが上がる。
古宇利大橋だ。

どこまでも続くような長く、まっすぐに延びた道。
そしてそれは途中から橋となって海の真上を走る。
右をみても、左をみてもエメラルドグリーンの海。
まるで海の上を走るように車は古宇利島へと進んで行く。

「せっかくだからゆっくり走ろう。」
隆は後続車が来ていないことを良いことに、
制限速度より遅く走ってゆっくりとこの景色に包まれる時間を楽しんだ。

消失点が海と空と島と道の交差するところにある。
車が向かう先は、海に吸い込まれているようだ。
まるで昔見た映画のワンシーンのようだ。

里央ははしゃいでスマホのカメラをビデオにして窓の外を撮影している。
「たかしー、やっほー!」
「やほー!」

隆は運転しながらも里央のはしゃぎっぷりに付き合う。
「きれいだねー」
時間にして約2〜3分ほどで橋は渡りきってしまった。

しかし、短い時間ながらも夢のような絶景に、充実感を覚えるのであった。
帰りもまた通れると思って嬉しくなった。
まるでお菓子を半分だけ食べて、残りをあとで食べようと
しまっておくような感覚に似ている。

古宇利オーシャンタワーは橋を渡ってから数分登ったところにあった。
隆は古宇利島でランチを食べようと考えていた。
タワーの周りにはきっと良い雰囲気の飲食店もあるに違いないと思っていたが
ちょうど良さそうな施設は見当たらない。

タワーに行く道すがら、いくつかのカフェがあったが
天気の良い土曜日の昼時ということもあり、
どこのカフェも駐車場は満車の状態で、隆はスルーせざるを得なかった。

そして、丘の上、1軒の定食屋が目に止まった。
お食事処 文ちゃん

民家の軒下にシートを貼って屋根の代わりにしている。
かなり雰囲気のある店だ。
店から古宇利大橋がよく見えそうだったのでここで食事を取ることにした。

階段を登っていくと中と外に席があり、中の席は先客でいっぱいだった。
「結構入ってるね。外の席にしよう。ちょうど橋を見ながらご飯を食べられる。」
二人は外の席を使わせてもらうことにした。

ほどなく店のおばちゃんがメニューと水を持って来てくれる。
メニューを見ると、沖縄県産のウニをふんだんに使った「ウニ丼」が売りのお店のようだ。

しかし、4月はウニの旬ではないらしく、
必ずしも沖縄県産のウニが提供できるとは限らないそうだ。
海鮮は仕入れ次第。さもあろう。

実は隆と里央はウニがちょっと苦手だ。だが、地のものであれば味見程度には食べてみたい。ちょうど海鮮丼にウニを添える定食があったので、隆はそれをチョイス。里央はまた沖縄そばにした。

(今回の旅行で一体何回沖縄そばを食べるつもりだろう…。)

料理を待っている間、眼下に広がる絶景をゆっくりと堪能することができた。
古宇利大橋はエメラルドブルーの海を断ち割るように
沖縄本島へとまっすぐに延びている。

空はどこまでも広くて、見渡す世界は全て、空と海の青に染まっていた。
4月だというのに、日差しは強くて日向は暑い。
だが、風があるので快適に過ごせる。

お食事処文ちゃんのテラス席は風が心地よい。
吹き抜ける風に緑の香りがする。
ここは、都会にいては感じられない自然を、存分に感じられる場所だ。

五感をフルに使って絶景を堪能していると、程なく料理が運ばれて来た。
里央の頼んだ沖縄そばには、焼いた豚肉、海ぶどう、錦糸卵に紅ショウガが乗っていて、これぞという感じの沖縄そばだ。

隆が頼んだウニ付きの海鮮丼は具が丼からはみ出していて、なかなかのボリュームだ。

「いただきまーす!」
二人は朝食をしっかり食べたので、あまりお腹が減っていない
と、思っていたが、ペロリと食べてしまった。
絶景を眺めながら外で食べる昼食は、殊更に美味しく感じられたように思う。

食事後、道路を渡って丘の斜面から改めて大橋を見てみる。
古宇利大橋の袂には駐車場があって、公園のようになっているようだ。
行ってみたい。


「それで次はどこに向かおうか。橋の下にあった駐車場にでも行ってみるかい?」
車に戻ってシートベルトを締めながら隆は里央に訪ねた。
里央が古宇利大橋を渡るために、どうしても古宇利島にいきたいと言っていたから、隆はすでにこの島でやらなければならないMISSIONは終わったと思っていた。

「ふっふっふ、隆くん。次はね、ハートの岩を見に行くんだよ。」
「ハートの岩?岩がハートなのかい?」
「まぁ、見てのお楽しみだよ。ふっふっふ。」
含んだ笑みを見せて、昼食の余韻を助手席で楽しんでいる。
鼻歌交じりでご機嫌のご様子だ。

カーナビで調べて見ると、ハートの岩の近くにあるであろう駐車場が
目的地として設定可能だと見つかった。
古宇利大橋とは反対側。
つまり、沖縄本島から見れば島の裏側にその目的地はあるらしい。

「なんだか、狭い道が1本だけあるみたいだけど、これ大丈夫?」
「わかんない!とにかく行ってみよう!」

隆は一瞬不安になったが、カーナビが指示するところだ。
それにここまで体験して来た沖縄は観光地としてきれいに整備されているし、
そんなに問題はないだろう。

この時はそう、思っていた。

この後二人は、

沖縄の手つかずの自然を体験することになるとは、つゆとも思わなかった。

続く。
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カフーリゾートホテル
http://www.kafuu-okinawa.jp/

古宇利オーシャンタワー
https://www.kouri-oceantower.com/

古宇利大橋(以下リンクは沖縄県道247号古宇利屋我地線に関する記述)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%96%E7%B8%84%E7%9C%8C%E9%81%93247%E5%8F%B7%E5%8F%A4%E5%AE%87%E5%88%A9%E5%B1%8B%E6%88%91%E5%9C%B0%E7%B7%9Ahttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%96%E7%B8%84%E7%9C%8C%E9%81%93247%E5%8F%B7%E5%8F%A4%E5%AE%87%E5%88%A9%E5%B1%8B%E6%88%91%E5%9C%B0%E7%B7%9A

お食事処 文ちゃん
https://r.gnavi.co.jp/6bzkr0fx0000/


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