なぜか買ってしまうカラクリを考える「グリーンDAKARA編」vol.2

なぜあの商品はヒットしたのか?

ブランドマーケティングの世界ほど「勝てば官軍」な世界はあまり無いのですが、ヒットした理由、ロングセラーになっている理由、ヒットするまでの失敗の歴史を、大学生が分かるようにひも解いていきます。

前回のブランド研究vol.1(https://note.mu/fujimarketing_12/n/nf4458aa9468d?magazine_key=m7e849758a52e)で、「グリーンDAKARA」の前身である「Naturai 2010年発売」という失敗ブランドについて書きましたが、今回はいよいよグリーンDAKARAヒットの理由です。

「グリーンDAKARA」は「Naturai」のしくじりに学ぶ

グリーンDAKARAはNaturaiの失敗を受けて、以下3Cの修正を図ったと推察します。

➁Competitor(競合) グリーンDAKARA商品化にあたっての競合商品との差別化

競合商品は言うまでもなく、Coca-Cola社のアクエリアスと大塚製薬のポカリスエット。この2商品はいずれもスポーツ時、発熱時という、汗をかくシーンに飲む飲料として、揺るぎない使用訴求が浸透しています。

そこで、サントリーはスポーツドリンク=汗をかくシーンへの商品参入は行わず、日常生活の中で飲料としての「デイリーハイドレーション市場」の創出を行いました。この形態での競合商品はいろはすみかんやお茶など。まんべんなく散らばるユーザーを集めてきた商品でした。

すると、元々サントリーが持っていたスポドリ商品、カラダ飲料「DAKARA」にコンセプト近づいていきましたので、「それならDAKARAブランドにしちゃえ~!」という企画チームの考えが浮かびます。

ただし、ここで担当マーケターに対して凄いなあと感じるのは、Souce of Volume調査(商品発売前に定量調査を行い、その商品が発売された後の新商品購入ユーザーが既存商品売上にどう影響するかを測る)での、自社既存ブランド(伊右衛門や南アルプス天然水)に売上ダウン影響を与える結果が出たと想像します。

新市場創出に伴い、他ブランド担当の既存ブランドの売上ダウンに対する反発を抑える社内調整を乗り越えての発売。苦労が多くあった事でしょう…

③Company products(自社商品) DAKARAブランドを冠した堂々の商品

➁で競合分析をもとにした新市場創出の方向となりましたので、改めて商品開発です。

Naturaiから引き継ぐコンセプトの「天然素材配合」と日常水分補給飲料のコンセプト。Naturaiで不評だった(少なくとも私は)、独特の臭みとぬめりを無くしつつ、日常生活の中で飲めるように既存のスポドリよりもすっきりした(薄い)味わいを意識しました。

さらに大きな工夫点はネーミングとパッケージ。天然や健康のイメージを想起させる「グリーン」を商品名に加え、ボトルキャップやDAKARAにあるハートマークも緑色にしました。

中性的な緑色にする事で、オフィスワーカーのおじ様方もうら若きOLも手に取りやすいパッケージとなりました。

実は万人受けするパッケージというのは相当難しいものです。OLウケを狙うならピンクや赤にする事で評価ポイントが高くなります。一方、男性ウケを狙うと黒や黄色、強めの配色が好まれます。

誰もが手に取りやすい印象を与えるグリーンDAKARAのパッケージは巧みに計算されたものですね。どこのデザイン会社を起用しているか教えて頂きたいです(笑)

④Consumer(消費者) プロモーションにおけるターゲット層の選択と集中

さて、使用シーンと商品が決まりましたので、あとは「どう伝えるか」です。この部分がマーケターの花形。

CMでは一般的に、視聴者(=ターゲットユーザー)が自分ゴト化しやすい人を起用します。例えば、車のCMだとダンディーなおじさんかイクメンパパ。化粧品だと美人なタレントモデル。チューハイだと40代のサラリーマン。

「Naturai」では満島ひかりさんが汗だくで自転車を漕ぐCMでしたが、今回は汗をかいていない時にも飲んで欲しい。飲んで欲しいターゲットユーザーも老若男女と幅広い。シーンの断定もしにくいしユーザーの断定もできない。さてどんなCMにしようか。

そこで、起用されたのが可愛いグリーンDAKARAちゃん。

写真引用:サントリー社グリーンダカラ ブランドページhttps://www.suntory.co.jp/softdrink/greendakara/product/gd/

勿論、CMのメインターゲットは主婦層。可愛い小さな子供達が美味しそうに飲む姿に、「自分の子供にも天然素材のものを飲ませてあげたい」という気持ちを持たせました。

これに伴い、人口構成上では一番のペットボトル飲料消費者であった男性ユーザーはコミュニケーションターゲット外に。満島ひかりさんで獲得していた中高生ユーザーも外してしまったのです。

なんという決断でしょう!!

しかし、ご存知の通りこのCMで大ヒットを記録。当時の好感度CMランキングでも相当の上位につけるものとなり、商品の売上は「Naturai」と比較にならない絶好調となりました。


このCMのコミュニケーション戦術に対する私の分析は以下の通りです。

天然素材配合コンセプトへ共感度の高い、小さな子供を持つ若い主婦層にターゲットを絞ったことで、以下の流れが家庭内で達成された。

①CMを見てママが子供用に購入する

➁ワーキングママがオフィスで自分用にも飲むようになる

③妻から旦那へ家庭内で情報が伝わり飲むようになる

結論:家庭の財布の意思決定権を持つママ層にターゲットを絞ることで、強い共感を呼ぶと共に、男性への2次的認知を達成。また、若いママ世代はSNS等での情報発信力も強く、ブログ等で独自に発信してくれる「アンバサダー化」された。


当時の二子玉や武蔵小杉のママ同士が嬉しそうに可愛いグリーンDAKARAちゃんのCMを話している姿が目に浮かびます・・・

以上、2011年発売から大ヒットを継続させた「グリーンDAKARA」の発売時の考察でした。


次は最終回、「グリーンDAKARAに訪れる、競合からの猛追と社内目標の上方修正。~商品リニューアルで大きく変えた戦略転換~」を書きます。


ブランドマーケッター&ヒットマーケティング研究家 藤本たぬき

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