フジノハナ

音楽を通して見える人生の切れ端。 曲をかけながら読んでみてください。 🎧✖️📚1日1話ず…

フジノハナ

音楽を通して見える人生の切れ端。 曲をかけながら読んでみてください。 🎧✖️📚1日1話ずつ。3分だけのお暇。

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音楽を享受した先に

いつだって私の思い出には音が鳴っている。 なんでもない日の青空を見つめたあの時間にも、これ以上ないくらい1人の人間に恋焦がれた瞬間も、心を許し合う仲間と箸が転がるだけで楽しかった夜更けも。 それらの時間が色褪せないのは、音という記憶再生装置がいつまでも鳴り止まないから。 産まれて死ぬまでどれくらい多くの曲を耳にして、どれくらいの思い出を振り返る事が出来るのでしょう。私はあの頃、あの瞬間に心に焼き付いた音をどれほど覚えていられるのでしょうか。 これは私の大好きな音楽と、

    • 綺麗にきみをあいしてたい/SHE IS SUMMER

      「ごめん、仕事でトラブル対応しないといけなくて…映画、来週の土曜日でもいい?」 金曜日の夜、明日のデートに備えて顔パックをつけながら入念にボディクリームを塗り込みストレッチを始めた時に鳴った電話だった。 付き合って一年。付き合い初めの頃は、休日出勤なんて建前で浮気をしてるのではないかと疑い、かと言って指摘する度胸もなく、消えないモヤモヤがいつまでも渦巻いていた。休まらない気持ちのまま月曜日を迎え、うっすら青いクマができてげんなりしながら出勤することもあった。 私が不安を

      • エスパー/ミツメ

        「来月この街を出ようと思うの」 いつもの喫茶店でいつも通りブラックコーヒーをゆっくり味わいながら、何でもない話の続きかのようにサラリと彼女は言った。普段から目についたもの、頭に浮かんだものにすぐ話が切り替わるもんだから、多少のことで話に飛びつく事はなかったのだが、聞き返さざるを得なかった。さっきまで近所のタイ料理店の話をしてたよね? 彼女の醸し出す雰囲気が近頃変わった気がしていた。最近髪をバッサリ短くしたせいかしら。彼女の耳元で揺れるピアスを見つめる。元々容姿が整っていて

        • 夜に溶けないように/SHE IS SUMMER

          「今日もよく呑んだな〜。」なんてご機嫌で高原が隣を歩く、深夜2時。徒歩20分の帰り道。 仕事終わりの金曜日、特に約束はしてないけど、残業終わりの大体21時頃にはいつものお店で一杯目のビールを飲み干す。「お前また華の金曜に一人で呑んでんのかよ〜」からかう隣の彼もまた一人豪快にジョッキを空けていた。同じ会社の違う部署に所属する彼と話すようになったのは、このお店が始まりだった。 マスターと私が九州の温泉地について話していた時、「俺、九州一周したんすけど、あそこオススメっすよ。」

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        音楽を享受した先に

          Virtual Luv feat.tofubeats/VaVa

          「はぁ〜〜今日もマコちゃん先輩尊すぎるぅ〜」 水曜日のごった返した社員食堂で一際目立つ185センチの手足の長いスーツ姿。アーモンドアイにスッとした鼻筋。女子顔負けのきめ細かい白肌。爽やかな笑顔に視線がいかない女子はいない。 彼のチームが毎週水曜日に社員食堂でランチミーティングをしてることは周知の事実。普段は社外のカフェでランチしたりテラスでお弁当を食べる女性社員が一目彼を拝もうと食堂を利用するため、平常時の1.5倍は混雑している。と、私は見ているが、同期のミホからすれば「

          Virtual Luv feat.tofubeats/VaVa

          そんな夜/enjoy music club

          バイト帰り、自宅マンションの1階にあるファミマでほろ酔い3缶、甘いのとしょっぱいの1袋ずつ買って、帰宅するのは隣の部屋。「うーっす。準備さんきゅー。」「丁度鍋の準備できたとこ!」「腹減ったー!はやく食べよーぜ!」いつもの3人、ここ最近の定番キムチ鍋。 大学進学を機に田舎から出てきた学生で部屋が埋まるマンションの3階。たまたま同じサークルを見学してた子が、まさか隣の部屋なんて!と言うとロマンチックな展開だが、一目で互いにタイプじゃないと思ってる顔に気付き、笑ってしまった。そん

          そんな夜/enjoy music club

          Blue in Green/kiki vivi lily×SUKISHA

          華金にしっかり残業をして最寄り駅に着いた頃、電車が遅延しなかったのが嘘みたいな土砂降りだった。すっかり梅雨は明けたと油断しきっていたところで、残業疲れにコンボして湿度の不快感が身にまとわりつく。 大きくため息をついた瞬間、「先輩、おつかれさま。」改札を出たところで傘を差し出したのは、普段は大人しく隣の席に座っている後輩だった。 タクシーに乗り込み、軽く一駅分離れたホテルへ向かう。今夜は酷い雨だから近場でも良かったかな。きっと誰にも気付かれないよ。昼間に見せる無口で愛想の無

          Blue in Green/kiki vivi lily×SUKISHA

          アルプスへGO!/YONA YONA WEEKENDERS

          今年で28歳。分母が大きくなるにつれて、時の流れが早くなるって本当なのね。周囲は家庭を持ったり、仕事に精を出したり、趣味に生きたり。私はひとり、何も選択できないまま、今夜も氷で薄まった黒霧島をちびちびと飲む。 居酒屋の小さなトイレに貼ってある海外渡航へ背中を押すポスター。学生の頃、自分探しに旅立つ連中を心の底では薄ら笑っていたが、まさか今更自分が行きたいと思うようになるとは。結局小心者の自分が選択したのは、仕事帰りの1杯を探す旅だった。 幼い頃は両親の絡み酒が苦手で、学生

          アルプスへGO!/YONA YONA WEEKENDERS